【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

文字の大きさ
上 下
38 / 70

37.そんなベタなシチュなんてかえって想像できませんでした

しおりを挟む
 その日の夜は特に話もせず、ヴィクトール様に押し倒された。マリーンのことを聞きたかったのだけど、ヴィクトール様も調査していなかったのだろう。なんか誤魔化されたような気がしないでもなかったが、ヴィクトール様に求められるのは嬉しくも感じられるからそのまま流された。
 ええ、チョロインですとも。
 それから二日ほど経った夜、ヴィクトール様が難しい顔でこう言った。

「……マリーン嬢は、おそらく最近覚醒した転生者ではないかと思う」
「ええええ」

 衝撃です。

「すいませんが、その根拠は……?」
「私と王太子が式を挙げた頃までは特に目立った動きはないが、その後乗馬中に一度倒れている。それから明らかに以前と行動が変わっている」

 私は首を傾げた。以前のマリーンはどんなことをしていたっけ。

「具体的にはどのような行動を?」
「そうだな……ルガリシ男爵家に行ったり、修道院を見に行ったりしている。婚約者が亡くなって喪に服すと言って学園を休み、王立図書館に頻繁に足を伸ばしているな」
「え? マリーンの婚約者が亡くなったんですか?」
「小説の中にも記述があったはずだ。元々王家の遠縁の娘の婚約者は病弱であったと」
「それで最終的には王太子とくっつくんですか」
「小説の通りならな」

 でもすでに予定外のことばかり起こっている。となるとどうなってしまうのか全く読めない。
 なんたって一番のイレギュラーは、ヴィクトーリア様が王太子と結婚しているということではないだろうか。これではどうやってもマリーンが王太子と結婚することはできない。

「マリーンが転生者だったとして、どうするんですか?」
「さぁな」
「え?」
「私はマリーン嬢の行動は咎めないと言った。あとは彼女がどう動くかだろう」
「まぁ、そうですけど……」

 なんか釈然としない。絶対ヴィクトーリア様が何かしているような気がするからかもしれない。

「ローゼに危害が加えられるようなことにならなければ私はかまわん」
「……そ、そう、ですか……」

 私はちら、と両腕にはまった腕輪を見た。シンプルで、光の加減によっては何もつけていないように見える腕輪はいわゆる魔道具なのだと思う。この腕輪は絶対に外れないと公爵もヴィクトーリア様も言っていたから、私が危害を加えられるようなシチュエーションは訪れないだろう。
 その夜もヴィクトール様の腕の中で甘く啼かされた。そういえば王太子っていつからまたやってくるんだろうか。
 また月の物がきて、それがそろそろ終わるかなという頃にまたマリーンが訪ねてきた。ヴィクトーリア様はありがたくもマリーンと二人きりにしてくれた。

「ローゼ、元気だった?」
「うーん、普通、かしら。可もなく不可もなくってところね。王太子に会わなくて済むのは気が楽だけど……」
「あんなに好き合っていたのに、なんで嫌になっちゃったの?」

 それは当然の疑問かもしれない。

「好き合ってたって……王太子が私に本気だったはずはないし、それにあの卒業記念パーティーでは、私が会場に足を踏み入れる為の許可を取っていなかったっていうのよ? 咎められたら即牢屋行きじゃない。百年の恋も冷めてしまったわ」
「まぁ……それはひどいわね」
「でしょう? だからね、私は助けてくださったヴィクトーリア様に恩を感じているの」
「じゃあ、王太子殿下のことはもうなんとも思っていないのね?」
「ええ」
「そう……」

 マリーンはそっと目を伏せた。そういえばマリーンは王太子が好きだと言っていたっけ。事実しか言ってないけど、傷つけてしまったのだろうか。

「ローゼ!」

 え?
 私は目を疑った。応接間のカーテンの影から、なんと王太子が出てきた。確かにあのカーテンとても大きいけど、あそこに隠れてた王太子ってなんだろう。もしかしてコントかなにかかな。
 王太子はつかつかとこちらに近づいてくると、ソファに腰掛けたまま動けないでいる私の手をがしっと握った。
 あれ? なんで? 私事実しか言ってないよ? 大丈夫だよね? ね?
 よくわからないけど、助けてヴィクトーリア様ぁ!
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...