【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

文字の大きさ
上 下
31 / 70

30.悪役令嬢は愚痴もきいてくれるのです

しおりを挟む
 王太子の夜の訪れは変わらなかったが、昼間は時間さえあればクドトッシ王女と過ごすようになった。王妃からお墨付きをもらったからということもあるだろう。とはいえ未婚の王女と二人きりで会うのは外聞がよろしくないということで、ヴィクトーリア様のお茶会に王女と王太子が招かれるという形だ。おかげで私の胃がきりきりしてたいへんへん。おなか痛い。
 クドトッシ王女にだけ気持ちを向けてくれればいいものの、王太子は相変わらず私をちらちら見るのだ。その度にクドトッシ王女の顔が般若のようになるし、ヴィクトーリア様は我関せずの態度を貫いていらっしゃるしで散々である。
 でも夜になると、王太子を部屋の隅に転がした後でヴィクトーリア様は私を優しく抱きしめて愚痴を聞いてくれるのだ。
 え? チョロインすぎないかって? ほっとけ。
 愚痴をただ聞いてくれる男性って貴重だと聞いたことがある。前世の母がよくそう言っていた。普通は聞きながらいらんアドバイスをしてくるものなのだそうだ。こちらはただ聞いてほしいだけだからそういうのはいらない。だって今の状況はどうにもならないってわかっているから。
 身分制度って厄介だなとしみじみ思う。男爵令嬢では王城に足を踏み入れることはかなわない。ヴィクトーリア様の侍女になって初めて王城に足を踏み入れることができた。もちろん入りたいなんて一度も思ったことはないのだけど。

「……そうだな、ローゼは十分がんばっている」

 髪を優しく撫でながらそう言ってもらえるだけでよかった。

「……ヴィクトーリア様って、前世すっごくモテたでしょう?」
「モテたことなんかないよ。身なりにも全くかまわなかったしな」
「ええ~~」

 じゃあどうやったらこうしてただ話を聞くなんてスキルが手に入るのだ。……そういえば姉がいたって言っていた。そのお姉さんのおかげなんだろうか。

「あーもー、王太子はいつになったら私のことを諦めてくれるんでしょうか……」
「……クドトッシ王女のがんばり次第だな」
「あーん、王女様がんばってー!」

 王女様ががんばりすぎても何か問題があるような気がするけど、今は王太子の視線を釘付けにしてほしい。私に一切目を向けないようにしてほしかった。

「そうだな。ローゼを見るのは私だけで十分だ」
「きゃあ」

 思わずそんな声を発してしまう。ヴィクトーリア様は一瞬目を丸くした。そして笑う。

「ローゼは本当に面白いな」
「面白くなんてないですよ!」

 キザな科白が似合ってしまうその容姿が問題です。これほどキラキラしていなければそんな科白は言えないだろう。

「真っ赤だ」

 ちゅ、と唇に優しく触れられて、顔に更に熱が上がった。
 反則です! ヴィクトーリア様イエローカードです!

「ローゼはかわいい」
「か、かかかかわいくなんかっ……!」

 動揺しすぎて舌を噛みそうになった。ヴィクトーリア様が髪をかき上げた。この仕草が一番色っぽくて好きかもしれない。……絶対私が好きだってことわかっててやってるよね。

「……あと一週間だな。早くあの王太子を陥落させてもらいたいものだ」

 ヴィクトーリア様の呟きに私も何度も頷くことで同意した。本当に、王女様は全力でがんばってほしいです。
 その後は例のごとくヴィクトーリア様もといヴィクトール様に優しく抱かれました。もー、恥ずかしい。色を含んだ声がすっごくヨクて、身体の奥に響くのがつらい。

「ヴィクトールさまぁっ……!」

 力尽きて寝入る直前、ヴィクトール様がこう呟くのを聞いた。

「……気兼ねなくローゼと朝寝がしてみたいものだな」

 三千世界の鴉を殺し……だっけ。でもあれって朝になったら帰らなきゃいけないのつらいって都々逸だったよね。でも、私とゆっくりだらだらと過ごしたいって言われるのはなんか嬉しいかも。
 チョロインと呼ばれても、胸がきゅんきゅんするのは止められなかった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...