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30.悪役令嬢は愚痴もきいてくれるのです
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王太子の夜の訪れは変わらなかったが、昼間は時間さえあればクドトッシ王女と過ごすようになった。王妃からお墨付きをもらったからということもあるだろう。とはいえ未婚の王女と二人きりで会うのは外聞がよろしくないということで、ヴィクトーリア様のお茶会に王女と王太子が招かれるという形だ。おかげで私の胃がきりきりしてたいへんへん。おなか痛い。
クドトッシ王女にだけ気持ちを向けてくれればいいものの、王太子は相変わらず私をちらちら見るのだ。その度にクドトッシ王女の顔が般若のようになるし、ヴィクトーリア様は我関せずの態度を貫いていらっしゃるしで散々である。
でも夜になると、王太子を部屋の隅に転がした後でヴィクトーリア様は私を優しく抱きしめて愚痴を聞いてくれるのだ。
え? チョロインすぎないかって? ほっとけ。
愚痴をただ聞いてくれる男性って貴重だと聞いたことがある。前世の母がよくそう言っていた。普通は聞きながらいらんアドバイスをしてくるものなのだそうだ。こちらはただ聞いてほしいだけだからそういうのはいらない。だって今の状況はどうにもならないってわかっているから。
身分制度って厄介だなとしみじみ思う。男爵令嬢では王城に足を踏み入れることはかなわない。ヴィクトーリア様の侍女になって初めて王城に足を踏み入れることができた。もちろん入りたいなんて一度も思ったことはないのだけど。
「……そうだな、ローゼは十分がんばっている」
髪を優しく撫でながらそう言ってもらえるだけでよかった。
「……ヴィクトーリア様って、前世すっごくモテたでしょう?」
「モテたことなんかないよ。身なりにも全くかまわなかったしな」
「ええ~~」
じゃあどうやったらこうしてただ話を聞くなんてスキルが手に入るのだ。……そういえば姉がいたって言っていた。そのお姉さんのおかげなんだろうか。
「あーもー、王太子はいつになったら私のことを諦めてくれるんでしょうか……」
「……クドトッシ王女のがんばり次第だな」
「あーん、王女様がんばってー!」
王女様ががんばりすぎても何か問題があるような気がするけど、今は王太子の視線を釘付けにしてほしい。私に一切目を向けないようにしてほしかった。
「そうだな。ローゼを見るのは私だけで十分だ」
「きゃあ」
思わずそんな声を発してしまう。ヴィクトーリア様は一瞬目を丸くした。そして笑う。
「ローゼは本当に面白いな」
「面白くなんてないですよ!」
キザな科白が似合ってしまうその容姿が問題です。これほどキラキラしていなければそんな科白は言えないだろう。
「真っ赤だ」
ちゅ、と唇に優しく触れられて、顔に更に熱が上がった。
反則です! ヴィクトーリア様イエローカードです!
「ローゼはかわいい」
「か、かかかかわいくなんかっ……!」
動揺しすぎて舌を噛みそうになった。ヴィクトーリア様が髪をかき上げた。この仕草が一番色っぽくて好きかもしれない。……絶対私が好きだってことわかっててやってるよね。
「……あと一週間だな。早くあの王太子を陥落させてもらいたいものだ」
ヴィクトーリア様の呟きに私も何度も頷くことで同意した。本当に、王女様は全力でがんばってほしいです。
その後は例のごとくヴィクトーリア様もといヴィクトール様に優しく抱かれました。もー、恥ずかしい。色を含んだ声がすっごくヨクて、身体の奥に響くのがつらい。
「ヴィクトールさまぁっ……!」
力尽きて寝入る直前、ヴィクトール様がこう呟くのを聞いた。
「……気兼ねなくローゼと朝寝がしてみたいものだな」
三千世界の鴉を殺し……だっけ。でもあれって朝になったら帰らなきゃいけないのつらいって都々逸だったよね。でも、私とゆっくりだらだらと過ごしたいって言われるのはなんか嬉しいかも。
チョロインと呼ばれても、胸がきゅんきゅんするのは止められなかった。
クドトッシ王女にだけ気持ちを向けてくれればいいものの、王太子は相変わらず私をちらちら見るのだ。その度にクドトッシ王女の顔が般若のようになるし、ヴィクトーリア様は我関せずの態度を貫いていらっしゃるしで散々である。
でも夜になると、王太子を部屋の隅に転がした後でヴィクトーリア様は私を優しく抱きしめて愚痴を聞いてくれるのだ。
え? チョロインすぎないかって? ほっとけ。
愚痴をただ聞いてくれる男性って貴重だと聞いたことがある。前世の母がよくそう言っていた。普通は聞きながらいらんアドバイスをしてくるものなのだそうだ。こちらはただ聞いてほしいだけだからそういうのはいらない。だって今の状況はどうにもならないってわかっているから。
身分制度って厄介だなとしみじみ思う。男爵令嬢では王城に足を踏み入れることはかなわない。ヴィクトーリア様の侍女になって初めて王城に足を踏み入れることができた。もちろん入りたいなんて一度も思ったことはないのだけど。
「……そうだな、ローゼは十分がんばっている」
髪を優しく撫でながらそう言ってもらえるだけでよかった。
「……ヴィクトーリア様って、前世すっごくモテたでしょう?」
「モテたことなんかないよ。身なりにも全くかまわなかったしな」
「ええ~~」
じゃあどうやったらこうしてただ話を聞くなんてスキルが手に入るのだ。……そういえば姉がいたって言っていた。そのお姉さんのおかげなんだろうか。
「あーもー、王太子はいつになったら私のことを諦めてくれるんでしょうか……」
「……クドトッシ王女のがんばり次第だな」
「あーん、王女様がんばってー!」
王女様ががんばりすぎても何か問題があるような気がするけど、今は王太子の視線を釘付けにしてほしい。私に一切目を向けないようにしてほしかった。
「そうだな。ローゼを見るのは私だけで十分だ」
「きゃあ」
思わずそんな声を発してしまう。ヴィクトーリア様は一瞬目を丸くした。そして笑う。
「ローゼは本当に面白いな」
「面白くなんてないですよ!」
キザな科白が似合ってしまうその容姿が問題です。これほどキラキラしていなければそんな科白は言えないだろう。
「真っ赤だ」
ちゅ、と唇に優しく触れられて、顔に更に熱が上がった。
反則です! ヴィクトーリア様イエローカードです!
「ローゼはかわいい」
「か、かかかかわいくなんかっ……!」
動揺しすぎて舌を噛みそうになった。ヴィクトーリア様が髪をかき上げた。この仕草が一番色っぽくて好きかもしれない。……絶対私が好きだってことわかっててやってるよね。
「……あと一週間だな。早くあの王太子を陥落させてもらいたいものだ」
ヴィクトーリア様の呟きに私も何度も頷くことで同意した。本当に、王女様は全力でがんばってほしいです。
その後は例のごとくヴィクトーリア様もといヴィクトール様に優しく抱かれました。もー、恥ずかしい。色を含んだ声がすっごくヨクて、身体の奥に響くのがつらい。
「ヴィクトールさまぁっ……!」
力尽きて寝入る直前、ヴィクトール様がこう呟くのを聞いた。
「……気兼ねなくローゼと朝寝がしてみたいものだな」
三千世界の鴉を殺し……だっけ。でもあれって朝になったら帰らなきゃいけないのつらいって都々逸だったよね。でも、私とゆっくりだらだらと過ごしたいって言われるのはなんか嬉しいかも。
チョロインと呼ばれても、胸がきゅんきゅんするのは止められなかった。
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