【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

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22.王太子もチョロすぎる

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 ……回復魔法ってチートですよね。
 うんまぁ、そのね、かけてもらわないと疲労がね、とか股関節がね、とかいろいろ……。おうち帰りたい。でも帰るところなかった。つらい。
 ああ太陽が黄色いよ! 起きたら急いで支度をしてヴィクトーリア様のお仕度を手伝って……ってなんで王太子が居間にいるんですかっ!

「おはようヴィクトーリア。今朝も美しいな」
「おはようございます、王太子様」
「……ヴィー、そろそろその他人行儀をやめてくれないか」
「あら? 王太子様は王太子様でございましょう?」

 朝食を共に、と来たみたいだけど、それをされると私の朝食がなくなるんだよね。だって食べ終えたらすぐ公務だろうしさ。だからと言って従業員の食堂に行くこともできない。何が起きるかわからないからね。
 王太子は公務に二人で向かおうと思ってここに来たらしいが、朝食の後はまた仕度をしなければならない。ヴィクトーリア様が身だしなみを整えている間にダッシュで朝食を終えた。
 そうしてまず国王に挨拶に向かい、宰相に確認を取って管理官がつけられた。これからは管理官がスケジュールを確認して公務を行うことになるようだった。喫緊の課題となるのが三か月後に控えた隣国王女の訪問である。
 あれ? なんか隣国王女って……なんかなかったっけ?
 その夜は王太子がやってきたので、ヴィクトーリア様は幻術をかけて部屋の隅に転がした。一応この方王太子なんだよね? そろそろちょっと可哀想にも思えてきたよ?

「そこがローゼのかわいいところだな」

 ベッドに押し倒されてヴィクトーリア様にそんなことを言われた。私は恨めしそうにヴィクトーリア様もといヴィクトール様を睨んだ。

「私、もしかしなくてもバカにされてますよね?」
「バカになどしていない。ただ、ローゼは甘い」

 自覚はしてますよーだ。なんてったってチョロインですからね。
 そのまま唇を塞がれそうになったけど今日はがんばって避けた。

「ローゼ?」

 途端にヴィクトール様が不機嫌になる。

「あのっ! 隣国王女ってなんかありませんでしたっけっ!?」

 昼間気になったことを聞いてみた。この時間でもないと、会話するにも人の目が気になる。いくら周りに内容は聞こえていないとは言っても、親し気に話している様子が長ければなにか勘繰られないとも限らない。そうでなくても侍女たちからの視線が痛いのだ。

「ああ……」

 ヴィクトール様は何かを思い出したように髪をかき上げた。その仕草かっこよすぎです。反則です!

「ローゼは第二部は読んではいないのか?」
「第二部?」

 記憶を辿ってみる。そういえば小説「悪役令嬢でございますでございますのことよ!」の本編はそれほど長くなかった。それ故に一冊に第二部も入っていたのだった。確かその内容は……。

「ヴィクトール様! 王太子と連名で行われている事業はどうなっていますかっ!?」
「それならどうでもいい部分は王太子の名義にして、実の部分はヴィクトール名義に譲渡してある。何も問題はない」

 よかった、と私はほっと嘆息した。
 小説の中のヴィクトーリア様が犯したポカの話だ。ヴィクトーリア様は王太子と連名で、ある事業を起こしていた。婚約破棄した後も名義がそのままになっていたことから、隣国の王女が来て王太子とねんごろになった後名義を取り上げられたのだ。隣国王女、確かにエキゾチック系美人だったけどとんだ性悪だったなぁと内容を思い出した。

「ん? ってことは第二部の内容が変わってしまうということですか?」
「大して変化はしないだろうな。王太子が隣国王女に惚れてしまう展開も変わらないだろう」
「えええ……これだけヴィクトーリア様にべったりなのに隣国王女に惚れちゃうんですか?」

 王太子もチョロすぎるのではないだろうか。

「小説の中では正妃になる為に来るのだろうが、今回は妾として輿入れするつもりだろう。これは更に気をつける必要があるな」
「? 何を気をつけるんです?」
「小説の裏話を知らないのか? 隣国王女が修道院にいるローゼの毒殺を指示したんだぞ」

 マジか。

「……だからヴィクトーリア様にもあんなにつっかかってきたんですか……」
「王太子の過去に関わる女は許せないようだな。だが幸い私たちは小説の顛末を知っている」

 ヴィクトール様は余裕の表情だが本当にそうだろうか。

「ヴィクトーリア様……その、隣国王女も転生者である可能性はないんですか?」
「……恐ろしい話だが、それも想定しておく必要はありそうだな」

 あまりの恐ろしさに私は自分の身体を抱きしめてぶるりとした。顎をクイと持ち上げられてヴィクトール様と目が合った。キレイな瞳の色に吸い込まれそうになる。

「ローゼ、大丈夫だ。私を誰だと思っている?」

 なんて傲慢な科白だろう。でもその言葉に安心している自分もいる。

「ヴィクトーリア様……」
「ヴィクトールだ」

 そうして私は今度こそヴィクトール様においしくいただかれてしまったのだった。
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