【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

文字の大きさ
上 下
10 / 70

9.令嬢が婚約者から王太子妃になりまして

しおりを挟む
 常にヴィクトーリア様と行動を共にしている私だけど、部屋を一歩出れば黙って付き従っているだけである。こんな地味な立ち位置で、更に部屋付きですらなかったはずなのになんで母は男爵に手を出されてしまったのだろう。確かに母も顔はとてもかわいいけど。
 私はヴィクトーリア様付きの侍女だからヴィクトーリア様の目の届く位置にいるが、部屋付の侍女であれば目立たないように部屋の隅に控えているのが普通だ。部屋付きでもなければまず主人の目の届かないところにいるのが普通だし、窓拭きなどしている時に主人がそこを通りかかったら、邪魔にならないところに控え主人を見ないようにしなければならない。それでも母のようにお手付きされたりするんだからやってられない。まぁどう考えたって強姦だよね。こっちの世界じゃ主人にそうされたところで訴える先もないけどさ。
 ヴィクトーリア様から離れるなっていうのは言ってしまえばそういうことなのだ。王太子は本当に諦めが悪く、どうにかして私と二人きりになろうとしているらしい。そんなことをしたら強制的に妾にされてしまうではないか。あまりの恐ろしさに私は身を震わせた。
 もうトイレ以外は一人になれることもなく、プライバシーどこいったと遠い目をする生活をして約二か月が経った。
 本日、ヴィクトーリア様は王太子に嫁がれ王太子妃になられます。
 衣裳や髪形など、仕度を整えていく。私にはもうヴィクトーリア様の幻術は効かないのだけど、美青年はドレスを着ても美しい。本当に綺麗な人はどんな格好をしても綺麗なのだということを学んだ。

「ローゼ、一年だ」
「はい」
「一年耐えれば私はお役御免になるだろう。そうしたら二枚目のお札の願いも叶えてやる」
「はい、どうかよろしくお願いします」

 ヴィクトーリア様は律儀にも私の願いを叶えてくれようとしている。二枚目のお札の願いって、確か”穏やかに暮らしていきたい”だったような気がする。王太子の魔の手から守ってくれるだけでもありがたいのに、穏やかな暮らしまで保証してくれようとするなんて。ヴィクトーリア様には感謝しても感謝しきれない。
 あれ? でもヴィクトーリア様が私にそうするメリットってなんだろう?
 今になって私はそのことに気づいた。いくらヴィクトーリア様が気に入ったとしてもこの待遇は破格だと思う。
 まさかヴィクトーリア様ってば、私に恋しちゃった?
 ってそんなわけないよねー。いくら前世が同じ世界だったからって、あんな美しい人が私なんかに恋するわけはない。だいたい毎晩一緒にお風呂に入ってるけど手を出される気配なんか一欠片もなかったわっ。どーせ私はちんくしゃですよーだ。(死語)
 いいかげんやめよう。そろそろ結婚式だ。
 結婚式は王と教会関係者の前で行われ、その後パレードがある。その間私のいる場所がないということで、公爵夫人がわざわざ迎えにきてくれた。

「お母様、どうぞローゼをよろしくお願いします」
「ええ、ええ、任されたわ。娘ができたみたいで嬉しいわね」

 公爵夫人には私の母の面倒も見ていただいてる。私は深々と頭を下げた。侍女風情が公爵夫人に声をかけるなどおこがましい。私はできるだけ目立たないように無言で控えるのみである。

「ローゼリンデ嬢、いらっしゃい。部屋であの子の話を聞かせてね」

 公爵夫人自ら手を取られて、私は公爵家専用の部屋に連れて行かれた。なんて恐れ多い。

「結婚式を見ることはできないし、パレードも見られないけど我慢してね。ローゼリンデ嬢、貴女はヴィクトーリア付きの侍女だけれども、今だけは男爵令嬢に戻っていただけるかしら?」
「はい、ありがとうございます。プランタ公爵夫人」

 どうしても口をきかないといけないようだ。

「ローゼリンデ嬢は、あの子の正体は知っているのよね?」
「な、なんのことでしょうか……?」

 動揺してしまった。いけないいけない。
 公爵夫人はふふふと笑った。

「それならいいわ。あの子をどうかお願いね」
「? はい」

 なんだかよくわからなかったが、公爵夫人はなにかに納得されたようだった。元より、ヴィクトーリア様が王太子と無事離縁するまでは付き合うつもりである。
 あれ? でもなんか大切なことを忘れている気がする……。
 なんだっただろうと思ったのだが、それがわかったのは式もパレードも終わり、ヴィクトーリア様の背中を流していた時のことだった。
 この方男性なわけだけど、初夜ってどうするつもりなんだろう?
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...