【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

文字の大きさ
上 下
4 / 70

3.悪役令嬢?の言う通り

しおりを挟む
 こ、この声はおそらく悪役令嬢のヴィクトーリア様!
 私終了は間違いないけどできることならば弁明をををを!

「そ、その声はもしや……」
「あら? 私を声で判別できるほど親しい方なんていらっしゃったかしら? どなた?」

 この優美なしゃべり方、そして女性にしては低いなと何度も思った声。間違いなくヴィクトーリア様だ。
 ……逃げたい……。

「早く出てこないと、この扉を開けさせてしまうわよ?」

 ひいいいい! 引きずり出す宣言キター!

「あ、あああああのっ……!」

 ガチャガチャと個室の鍵を開け表へ出る。そして私はバッと頭を下げた。

「ごめんなさい、助けてください! そんなつもりじゃなかったんです!」
「あら、まぁ……貴女、確か……?」

 ヴィクトーリア様は私のことを覚えていないようだった。そりゃあ王太子の側にいたとはいえたかが男爵令嬢だもんね。歯牙にもかけないよね。
 やっぱり私への嫌がらせは取り巻きが主導して行ったようだった。今更もうどうでもいいけど。

「ローゼリンデ・ルガリシと申します、ヴィクトーリア様っ。私、間違ってここに来てしまったのです! できましたら私(わたくし)めの存在は見なかったことにしていただきたく……」

 頭を下げていたので気づかなかったが、その時のヴィクトーリア様は人の悪い笑みを浮かべていたのだろうと思う。

「あら困ったわね? 貴女を見逃しても私にはなんの得もないのだけれど?」
「そ、そそそそうですよね! わかってます、わかっていますが……牢屋に入れられるのは嫌なんですううう~~~!」
「牢屋?」

 ヴィクトーリア様はその白いたおやかな……いや、太い指先で私の顔を上げさせた。

「ああ……貴女だったのね? アルノルト様がご執心の……」
「執心されてないです! 絶対気のせいなんです! そんなことよりも今すぐここから出て行きたいんですううう!」

 ヴィクトーリア様は首を傾げた。

「そうね……少しここでお待ちになっていただけるかしら?」

 なにか思いついたらしいヴィクトーリア様は、そう言ってにっこりとほほ笑んだ。
 それからはなんというか、怒涛の展開だった。ヴィクトーリア様は王太子の従者を追い返し、侍女に私がこの会場に足を踏み入れる為の特別許可があるかどうかを確認させた。
 ……当然のことながらそんなものはなかった。
 やっぱり……と涙に暮れる私に、ヴィクトーリア様はまた笑んだ。
 その顔といい、身体つきといい、どこか不自然なものを私は感じた。それでつい、こんなことを呟いてしまった。

「まるで……男性みたい……」

 それはとても小さな呟きであったが、彼女の耳には届いたらしい。

「どこを見て、そう思ったの?」
「え? あ、いえ、その……私、ちょっと現実逃避していまして……」

 自分の受け答えもどうしようもないものだったが、ヴィクトーリア様は許さなかった。

「純粋な興味なのよ。私を見て、男性みたいだと思ったんでしょう? その理由をお聞かせ願いたいわ」

 うわあああんっ! 私のバカバカバカああああ!
 しかしそれは結果的に私を救うこととなった。どういうわけか、私は彼女に気に入られてしまったのである。

「気に入ったわ。特別許可を取ってあげる。そういえば三枚のお札とか言っていたわね? それは願い事かなにかに使う物なのかしら?」
「は、はははい!」

 私は彼女に聞かれるがままに三枚のお札の物語について話した。山姥は化物に、小僧は修行者に置き換えた。

「ふうん? 面白い物語ね。じゃあ私が三つだけ願いを叶えてあげる。もちろん私が叶えたくない願いだったら無理よ? さぁ、言ってごらんなさい」

 涙が止まらない。まるでヴィクトーリア様は悪魔のようだった。なんか身体がやっぱりごつい気がする。もしかして鍛えまくっていらっしゃるのだろうか。

「王太子様とは絶対一緒になりたくないです! 妾も、結婚も嫌ですううう!」

 この会場に入る為の特別許可を私の為にとっていなかったようなポンコツ王太子なんて嫌だ。例え妾になったとしてもいずれ誰かに暗殺されること請け合いである。

「貴女はアルノルト様に惚れていたのではなくて?」

 かつては惚れていたかもしれないが今は違う。

「もう惚れてないです! 絶対に嫌です!!」

 ヴィクトーリア様は不思議そうな顔をしたが、それからすぐに人の悪い笑みを浮かべた。そんな表情もお似合いですううう。

「わかったわ……その願い、叶えてあげましょう。もう一枚の願いは?」
「え?」

 そこまで聞かれるとは思っていなくて、私はきょとんとした。そして頭の中をこねくり回してひねり出した。

「え、あ……お、穏やかに暮らしていきたいです!」

 一人でもいいから平穏無事に暮らせるならそれに越したことはない。

「ますます面白い。じゃあ、化粧を直したら、参りましょうか」

 え、何? これって終了のお知らせ? それとも私助かるの?
 頭に盛大な?をくっつけたまま、私はヴィクトーリア様に促され、卒業記念パーティーの会場に足を踏み入れたのだった。
 ヴィクトーリア様、思ったよりも背も高いしやっぱり逞しいなと思った。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...