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137.いろいろ思うところはあるけれど
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文浩の身体はがっしりしていて、抱かれているとすごい安定感がある。
俺が力を抜いてだらーんとしてもちゃんと持っていてくれそうだった。しないけど。
「雷月……」
雷月が前に出た。士官が剣を渡そうとするのを断る。
「私は魔法のみで失礼します」
雷月が笑んだ。
「怪我をされるのでは?」
士官が心配するように、けれど声は嘲ているようだった。俺はムッとした。
「慣れぬ武器を使うよりはいいでしょう」
「では私がお相手しましょう。私は帯剣しますが、よろしいですかな?」
士官が言う。雷月は頷いた。
「え? 雷月は……」
相手が剣を持つのを見て俺も不安になった。対する雷月は無手だ。雷月が怪我したらどうしようって思ってしまう。
「芳、大丈夫だ。例え負けたとしても雷月のことだ、怪我などはせぬだろう」
文浩が俺を安心させるように言う。
「そ、その根拠はなんだよ……」
「雷月がかわいい妻を泣かせるようなことをすると思うのか。現に将軍に負けた私だとて怪我一つしてはいないぞ」
「そ、それは文浩が強いから……」
「芳」
少し強めの声で名を呼ばれてビクッとした。
「雷月を信じろ」
その言葉は俺の胸に響いた。
「……うん」
士官と雷月が少し離れて立つ。試合の立ち位置だ。二人が拱手する。そして、士官が先に動いた。雷月が軽く腕を振ると、士官が押し戻されたようだった。
「え? あれって……」
「風魔法だな。建文もそうだが、魔法の扱いに長けている相手は厄介だ」
士官は無様に転がることはなかった。すぐに体勢を整え、斜めから雷月に迫る。雷月が手のひらを前に出した。赤い炎のようなものが士官の手元を包んだ。
「くっ!」
士官が苦しそうな声を発した。
「あれは剣の柄を熱したな。熱さで放させようとするのはえぐいな」
文浩が苦笑した。士官はさすがに放しはせず、そのまま雷月に迫った。雷月が服を翻して後ろに跳ぶようにして下がる。そして再び腕を軽く振った。青い膜のようなものが士官を包んだかと思うと、そのまま後方へ飛んだ。
バシャーッ! と音がして士官が倒れる。士官はやってられないとばかりに仰向けに倒れた。
「私の負けです」
「雷月は魔力こそ私ほどはありませんが、さまざまな属性魔法が使えます。1:1だと強いですよ」
建文が嬉しそうに言った。
雷月が士官に駆け寄り、士官を持ち上げて剣を持っていた手に触れた。そして瞬く間に士官を乾かしてしまった。
「ありがとうございました」
雷月はそう言うとこちらに戻ってきた。
「さすがだな」
文浩が声をかけた。
「魔法にキレがない。もう少し早く発動した方がいい」
西文が注意した。
「そうですね。西文哥が相手でしたら負けていたと思います。ありがとうございます」
「雷月も私と練習した方がいいでしょう」
「はい。建文哥、よろしくお願いします」
文浩は素直に賞賛したけど、きっと文浩も雷月には楽に勝てるんだろうなと思った。文浩は魔法を使うのはあまりうまくないって言ってたから、魔法の使い方について褒めたのだろう。
でも、この四人には俺は絶対かなわないだろうから素直にすごいなって思った。
「雷月、かっこよかった。すごかったよ」
「芳さま。もっと精進します」
雷月が差し出した腕の中に移動しようとしたその時、パンパンと手を叩く音がした。
「いや、見事ですな。ですが魔法に頼り切りはいけませんぞ。短剣でもかまいませんから武器を持たなければ一瞬でやられるでしょう。ですが今回は試合です。雷月殿が無手であったことで士官の気が緩んだことは間違いありません。よい戦略でしたな」
将軍はまだ側にいたらしい。見た目はかっこいいけど嫌味なおっさんだなと思った。
「おそれいります」
雷月はにこやかにしれっと答えた。
「せっかくですから士兵たちの一糸乱れぬ動きをお見せしましょう。どうぞこちらでお待ちください」
将軍はそう言うと士官や兵たちと一緒に士兵が集まっている場所まで戻っていった。あれ、足の動き全然見えないんだけどどんだけのスピードで走ってるんだろうと思った。
なんか掛け声のようなものが聞こえたけど離れてて内容は聞き取れなかった。それまで互いに訓練をしていただろう士兵が将軍の前に集まり少し間を開けて整然と並んだ。おお、すごいと思った。
また掛け声が聞こえて、士兵が一斉にバッとこちらを向く。思わずビクッとしてしまった。
その後は掛け声に合わせて剣を構え、全員で武術の型のような動きをし始めた。みなの動きが揃っているのがすごい。まるで何かの出し物を見ているみたいで、俺はじっと彼らの動きを見つめた。
「すごいなぁ……」
文浩たちの試合もすごかったけど、士兵の動きもすごい。ここに連れてきてもらえてよかったと思った。
「文浩、ありがとう……」
まだ俺は文浩の腕の中だ。いろいろ思うところはあるけど、俺は素直に礼を言うことができた。
「芳」
優しい声。これに絆されてはいけないって思うけど、なんで絆されちゃいけないのかなとも考えてしまう。自分のチョロインっぷりが嫌で、俺はじっと士兵たちの動きを見つめていた。
俺が力を抜いてだらーんとしてもちゃんと持っていてくれそうだった。しないけど。
「雷月……」
雷月が前に出た。士官が剣を渡そうとするのを断る。
「私は魔法のみで失礼します」
雷月が笑んだ。
「怪我をされるのでは?」
士官が心配するように、けれど声は嘲ているようだった。俺はムッとした。
「慣れぬ武器を使うよりはいいでしょう」
「では私がお相手しましょう。私は帯剣しますが、よろしいですかな?」
士官が言う。雷月は頷いた。
「え? 雷月は……」
相手が剣を持つのを見て俺も不安になった。対する雷月は無手だ。雷月が怪我したらどうしようって思ってしまう。
「芳、大丈夫だ。例え負けたとしても雷月のことだ、怪我などはせぬだろう」
文浩が俺を安心させるように言う。
「そ、その根拠はなんだよ……」
「雷月がかわいい妻を泣かせるようなことをすると思うのか。現に将軍に負けた私だとて怪我一つしてはいないぞ」
「そ、それは文浩が強いから……」
「芳」
少し強めの声で名を呼ばれてビクッとした。
「雷月を信じろ」
その言葉は俺の胸に響いた。
「……うん」
士官と雷月が少し離れて立つ。試合の立ち位置だ。二人が拱手する。そして、士官が先に動いた。雷月が軽く腕を振ると、士官が押し戻されたようだった。
「え? あれって……」
「風魔法だな。建文もそうだが、魔法の扱いに長けている相手は厄介だ」
士官は無様に転がることはなかった。すぐに体勢を整え、斜めから雷月に迫る。雷月が手のひらを前に出した。赤い炎のようなものが士官の手元を包んだ。
「くっ!」
士官が苦しそうな声を発した。
「あれは剣の柄を熱したな。熱さで放させようとするのはえぐいな」
文浩が苦笑した。士官はさすがに放しはせず、そのまま雷月に迫った。雷月が服を翻して後ろに跳ぶようにして下がる。そして再び腕を軽く振った。青い膜のようなものが士官を包んだかと思うと、そのまま後方へ飛んだ。
バシャーッ! と音がして士官が倒れる。士官はやってられないとばかりに仰向けに倒れた。
「私の負けです」
「雷月は魔力こそ私ほどはありませんが、さまざまな属性魔法が使えます。1:1だと強いですよ」
建文が嬉しそうに言った。
雷月が士官に駆け寄り、士官を持ち上げて剣を持っていた手に触れた。そして瞬く間に士官を乾かしてしまった。
「ありがとうございました」
雷月はそう言うとこちらに戻ってきた。
「さすがだな」
文浩が声をかけた。
「魔法にキレがない。もう少し早く発動した方がいい」
西文が注意した。
「そうですね。西文哥が相手でしたら負けていたと思います。ありがとうございます」
「雷月も私と練習した方がいいでしょう」
「はい。建文哥、よろしくお願いします」
文浩は素直に賞賛したけど、きっと文浩も雷月には楽に勝てるんだろうなと思った。文浩は魔法を使うのはあまりうまくないって言ってたから、魔法の使い方について褒めたのだろう。
でも、この四人には俺は絶対かなわないだろうから素直にすごいなって思った。
「雷月、かっこよかった。すごかったよ」
「芳さま。もっと精進します」
雷月が差し出した腕の中に移動しようとしたその時、パンパンと手を叩く音がした。
「いや、見事ですな。ですが魔法に頼り切りはいけませんぞ。短剣でもかまいませんから武器を持たなければ一瞬でやられるでしょう。ですが今回は試合です。雷月殿が無手であったことで士官の気が緩んだことは間違いありません。よい戦略でしたな」
将軍はまだ側にいたらしい。見た目はかっこいいけど嫌味なおっさんだなと思った。
「おそれいります」
雷月はにこやかにしれっと答えた。
「せっかくですから士兵たちの一糸乱れぬ動きをお見せしましょう。どうぞこちらでお待ちください」
将軍はそう言うと士官や兵たちと一緒に士兵が集まっている場所まで戻っていった。あれ、足の動き全然見えないんだけどどんだけのスピードで走ってるんだろうと思った。
なんか掛け声のようなものが聞こえたけど離れてて内容は聞き取れなかった。それまで互いに訓練をしていただろう士兵が将軍の前に集まり少し間を開けて整然と並んだ。おお、すごいと思った。
また掛け声が聞こえて、士兵が一斉にバッとこちらを向く。思わずビクッとしてしまった。
その後は掛け声に合わせて剣を構え、全員で武術の型のような動きをし始めた。みなの動きが揃っているのがすごい。まるで何かの出し物を見ているみたいで、俺はじっと彼らの動きを見つめた。
「すごいなぁ……」
文浩たちの試合もすごかったけど、士兵の動きもすごい。ここに連れてきてもらえてよかったと思った。
「文浩、ありがとう……」
まだ俺は文浩の腕の中だ。いろいろ思うところはあるけど、俺は素直に礼を言うことができた。
「芳」
優しい声。これに絆されてはいけないって思うけど、なんで絆されちゃいけないのかなとも考えてしまう。自分のチョロインっぷりが嫌で、俺はじっと士兵たちの動きを見つめていた。
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