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80.気が多いとは思いたくない
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「……そんなに海って近くにあるの?」
「近くはありません。兄上たちの領地はもっと北の方だったと思います。確か……皇島と言っていましたからここから五百公里ぐらいは離れているかと」
「えええ!?」
公里って一キロってことだよな。そしたらこっから500kmも離れてるわけ? 魔法はあるだろうけど移動手段ってどうなんだろう。
「ど、どうやって行くの?」
「領地ですから、転移場所があるはずです。王城内の転移場所から外に移動してそこから飛ぶのでしょう。建文哥の魔力でしたら全く問題はないかと」
「転移場所、とか、飛ぶって何?」
「真崎さまの世界には魔法がないのでしたね」
どうも固定された場所に魔法陣みたいなのが書かれててそこからワープできるらしい。それを使用するには使用料の他にそれを起動させる為の魔力が必要なのだとか。魔力が少ない人はそこから更に魔力提供料を払うそうだ。でも建文は魔力が多いから転移場所の使用料を払うだけでいいみたいだった。
王城の転移場所から直接は飛べないから中継地点を経てその領地にワープするそうだ。そこからは徒歩か、馬車、馬などで移動するのが普通らしいが、建文たちは急いでいるから自分たちで走っていくかもしれないと聞かされてなんともいえない顔になった。
「走る?」
「身体強化魔法を使えば馬よりも早く走れますので。ただ……走ることに素養がない私のような者だといろんな物にぶつかってしまいますから、私は跳ぶ方が楽ですね」
「は?」
跳ぶって何ー? 魔法チートどんだけー?
「と、跳ぶって……」
「高いところに登って落ちるのはいいんですけど、そのまま走ることが苦手なのです。高さがないと速さが出ないので困りますね」
もう雷月が何を言っているのかわからない。
「そ、それって、魔法を使って、ってことなんだよな?」
「はい。魔法の補助なしではさすがに無理です」
雷月が少し恥ずかしそうに笑んだ。でも俺は魔法の補助とかあってもそんなことできそうにないから、雷月はすごいなって思った。
「……だから、貴方を守ると言いながら本当の意味では守れないのではないかと心配なのです……」
長椅子で俺を抱きしめながら、雷月が困ったような顔をした。
「……雷月は、俺に魔法をかけることってできる?」
「ええ、まぁできますが……」
「雷月が俺に補助魔法みたいなのをかけてくれれば、大丈夫だと思う。俺、あんまり格闘技とかしたことないけど……護身術っぽいのは習ったことがあるから」
そうでなければあの男が来た時対処とかとてもできなかったと思う。確か皇太子の息子とか言ってたっけ。今思い出しても腹が立つ。結婚してるのに俺の雷月に懸想するなんて!
でもアイツって離婚させられて放逐だっけ? そんなようなことを皇帝が言ってた気がするけど……。皇子がそうされて生きて行けるのかな?
「真崎さまにそんなことをさせるなどということは……もう二度とありません! 私はこの命を懸けて貴方を守ると誓いました!」
「そんなに重く考えなくて大丈夫だから……」
俺は雷月によりくっついた。
「真、真崎さま……」
雷月が狼狽している。かわいいって思った。
いざという時には、俺が守ればよくない?
「雷月、好き……ずっと一緒にいて?」
こてん、と首を傾げてみる。190cmもあるムキムキマッチョがこんなことしてもキモいだけだと俺は思うんだけど、雷月たちにはこんな俺がかわいく見えるらしい。絶対眼科へ行った方がいいと思うんだが、かわいいと言われるのが嬉しいから言えないでいる。
雷月は俺を凝視して、はーっとため息をついた。
「……真崎さま、煽ってはいけないと言っているでしょう?」
そのままきつく抱きしめられて胸がきゅんきゅんした。
「煽ってないし……」
「真崎さまが私のことを想っていただけているのは理解しております。真崎さまをもっと愛させてください」
「うん……」
望むところだ! って内心ガッツポーズである。ぎゅって雷月に縋り付けばそのまま抱き上げられた。逞しいとはいえないけど、この胸にもたれるのも好き。逞しいって言ったら……。俺は文浩にこの間抱き上げられた時のことを思い出してしまった。
なんで文浩に抱き上げられた時のことなんか思い出してんだよ、俺。
俺は雷月の胸に頭をすり寄せた。他の奴になんか想いを寄せたくはない。
「真崎さま?」
「雷月、好き……」
床に雷月が腰掛けた。俺は顔を上げて雷月に口づけをねだった。
「真崎さま、かわいい……もっと淫らになっても、いいですからね?」
雷月はふふっと笑うと、俺の唇を覆った。すぐに半開きになってしまった唇の間に肉厚の舌がするりと入ってくる。
「んっ、んっ……」
その舌が俺の舌を何度も舐めた。ぴちゃぴちゃと濡れた音がしてその音にも煽られてしまう。舌、舐められるの気持ちいいよぉ。舌だけでなく歯列をなぞられ、口腔内をたっぷり舐められる。唾液を啜られ、びくびく震えた。
「んんっ、んっ……」
もー、なんでこんなにキスだけで気持ちいいんだろう。雷月にキスしてもらうまで、こんなにキスが気持ちいいなんて知らなかった。身体の奥からとろりとなにかが流れてくるのを感じて、俺は見悶えた。
「んぁっ……はぁ、んっ……!」
「真崎さまは口づけも好きですね?」
「んっ、好きっ……!」
雷月が好きだから、雷月にキスされるのが好きなんだし……でもそしたら、文浩たちにあちこち触れられるのってなんであんなに気持ちいいんだろう。気持ちなんてそこにはないはずなのに。
なんだかとても不安になって、俺は雷月に何度もキスをねだったのだった。
「近くはありません。兄上たちの領地はもっと北の方だったと思います。確か……皇島と言っていましたからここから五百公里ぐらいは離れているかと」
「えええ!?」
公里って一キロってことだよな。そしたらこっから500kmも離れてるわけ? 魔法はあるだろうけど移動手段ってどうなんだろう。
「ど、どうやって行くの?」
「領地ですから、転移場所があるはずです。王城内の転移場所から外に移動してそこから飛ぶのでしょう。建文哥の魔力でしたら全く問題はないかと」
「転移場所、とか、飛ぶって何?」
「真崎さまの世界には魔法がないのでしたね」
どうも固定された場所に魔法陣みたいなのが書かれててそこからワープできるらしい。それを使用するには使用料の他にそれを起動させる為の魔力が必要なのだとか。魔力が少ない人はそこから更に魔力提供料を払うそうだ。でも建文は魔力が多いから転移場所の使用料を払うだけでいいみたいだった。
王城の転移場所から直接は飛べないから中継地点を経てその領地にワープするそうだ。そこからは徒歩か、馬車、馬などで移動するのが普通らしいが、建文たちは急いでいるから自分たちで走っていくかもしれないと聞かされてなんともいえない顔になった。
「走る?」
「身体強化魔法を使えば馬よりも早く走れますので。ただ……走ることに素養がない私のような者だといろんな物にぶつかってしまいますから、私は跳ぶ方が楽ですね」
「は?」
跳ぶって何ー? 魔法チートどんだけー?
「と、跳ぶって……」
「高いところに登って落ちるのはいいんですけど、そのまま走ることが苦手なのです。高さがないと速さが出ないので困りますね」
もう雷月が何を言っているのかわからない。
「そ、それって、魔法を使って、ってことなんだよな?」
「はい。魔法の補助なしではさすがに無理です」
雷月が少し恥ずかしそうに笑んだ。でも俺は魔法の補助とかあってもそんなことできそうにないから、雷月はすごいなって思った。
「……だから、貴方を守ると言いながら本当の意味では守れないのではないかと心配なのです……」
長椅子で俺を抱きしめながら、雷月が困ったような顔をした。
「……雷月は、俺に魔法をかけることってできる?」
「ええ、まぁできますが……」
「雷月が俺に補助魔法みたいなのをかけてくれれば、大丈夫だと思う。俺、あんまり格闘技とかしたことないけど……護身術っぽいのは習ったことがあるから」
そうでなければあの男が来た時対処とかとてもできなかったと思う。確か皇太子の息子とか言ってたっけ。今思い出しても腹が立つ。結婚してるのに俺の雷月に懸想するなんて!
でもアイツって離婚させられて放逐だっけ? そんなようなことを皇帝が言ってた気がするけど……。皇子がそうされて生きて行けるのかな?
「真崎さまにそんなことをさせるなどということは……もう二度とありません! 私はこの命を懸けて貴方を守ると誓いました!」
「そんなに重く考えなくて大丈夫だから……」
俺は雷月によりくっついた。
「真、真崎さま……」
雷月が狼狽している。かわいいって思った。
いざという時には、俺が守ればよくない?
「雷月、好き……ずっと一緒にいて?」
こてん、と首を傾げてみる。190cmもあるムキムキマッチョがこんなことしてもキモいだけだと俺は思うんだけど、雷月たちにはこんな俺がかわいく見えるらしい。絶対眼科へ行った方がいいと思うんだが、かわいいと言われるのが嬉しいから言えないでいる。
雷月は俺を凝視して、はーっとため息をついた。
「……真崎さま、煽ってはいけないと言っているでしょう?」
そのままきつく抱きしめられて胸がきゅんきゅんした。
「煽ってないし……」
「真崎さまが私のことを想っていただけているのは理解しております。真崎さまをもっと愛させてください」
「うん……」
望むところだ! って内心ガッツポーズである。ぎゅって雷月に縋り付けばそのまま抱き上げられた。逞しいとはいえないけど、この胸にもたれるのも好き。逞しいって言ったら……。俺は文浩にこの間抱き上げられた時のことを思い出してしまった。
なんで文浩に抱き上げられた時のことなんか思い出してんだよ、俺。
俺は雷月の胸に頭をすり寄せた。他の奴になんか想いを寄せたくはない。
「真崎さま?」
「雷月、好き……」
床に雷月が腰掛けた。俺は顔を上げて雷月に口づけをねだった。
「真崎さま、かわいい……もっと淫らになっても、いいですからね?」
雷月はふふっと笑うと、俺の唇を覆った。すぐに半開きになってしまった唇の間に肉厚の舌がするりと入ってくる。
「んっ、んっ……」
その舌が俺の舌を何度も舐めた。ぴちゃぴちゃと濡れた音がしてその音にも煽られてしまう。舌、舐められるの気持ちいいよぉ。舌だけでなく歯列をなぞられ、口腔内をたっぷり舐められる。唾液を啜られ、びくびく震えた。
「んんっ、んっ……」
もー、なんでこんなにキスだけで気持ちいいんだろう。雷月にキスしてもらうまで、こんなにキスが気持ちいいなんて知らなかった。身体の奥からとろりとなにかが流れてくるのを感じて、俺は見悶えた。
「んぁっ……はぁ、んっ……!」
「真崎さまは口づけも好きですね?」
「んっ、好きっ……!」
雷月が好きだから、雷月にキスされるのが好きなんだし……でもそしたら、文浩たちにあちこち触れられるのってなんであんなに気持ちいいんだろう。気持ちなんてそこにはないはずなのに。
なんだかとても不安になって、俺は雷月に何度もキスをねだったのだった。
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