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43.皇帝に会った後は

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「はっはっはっはっ!!」

 いきなり皇帝が大声を上げて笑い出した。え? 俺そんなにおかしなこと言ったか?

「なんとも健気なものよのぅ! 雷月、大事にするのだぞ」
「はい!」
「え?」
西文シーウェン
「はっ」

 皇帝は今度は西文に声をかけた。

「お前たちに機会を与えてくれているのは朕ではない。”天使”だ。ゆめゆめそれを忘れるでないぞ!」
「はっ! 肝に銘じます」
「本来妻の世話は夫たちが相談して行うものだ。真崎、そなたは嫌がるかもしれぬが、文浩たちにもそなたを世話する権利をくれてやってくれ。抱かせろとは言わぬ」
「……そ、そういうことでしたら……」

 抱かれるのは嫌だと思った。天使の身体は性に貪欲だから、いずれ雷月だけでは満足できなくなってしまうかもしれない。そうなった時はしかたないと思うが、今は雷月にだけ愛してもらえればそれでいい。
 西文が何か言いたそうな顔をしているのが見えたが、見なかったことにした。西文は上の二人よりは俺のことを気づかってくれていたのかもしれなかったが、雷月のように守ってはくれなかった。だから俺にとっては、西文も文浩たちと同じだった。
 でも俺の世話って何をするんだろう? 皇帝に聞くのは憚られた。雷月に聞けば教えてもらえるだろうか。
 皇太子の息子の処分については向こうに任せ、俺は雷月に抱かれたまま部屋に戻ることになった。今回の謁見に関しては、俺の様子を見るという目的もあっただろうが、一番は文浩たちの取り成しだったのだろうと思われた。
 皇帝と言っても親だからだろうか。それとも”天使”という存在になにかあるのだろうか。また疑問が増えてしまった。
 雷月は俺を抱いたまま元来た道を戻った。ベールを取れとか言われなくてよかったと思った。あ、でもやっぱり不敬だったかも、と思ったけど咎められなかったから甘えることにする。もう皇帝の顔を見るなんてことはそうないだろうし。
 居住区の門をくぐったことで、俺はちょっとほっとした。すぐ目に映る庭園の様子が目に優しい。

「なぁ、雷月(レイユエ)」
「はい、なんでしょう」
「この庭って、見て回ることはできないのか?」
「今日はいろいろありましたので、後日でしたら問題はないかと思いますよ」
「うん、わかった。ありがとう」

 今からと思ったわけではないからそれはかまわない。なんか、抱き上げられて移動するのが当たり前すぎて困る。でも妻の移動は夫が担うものだとか言われると、それでいいのかなと甘えてしまう。抱き上げられながら移動するということが、実は嬉しくてならなかった。
 だって身長190cmもあるマッチョな俺がお姫様だっこをされているのだ。ときめくなって方が無理だろう。しかも雷月、わざわざ魔法まで使って俺のこと抱き上げてるんだぞ? そうまでして俺を抱き上げるって抱き上げるって……。もう嬉しくて恥ずかしくてたまらない。
 渡り廊下を進んで、俺たちが住んでいる建物についた。そこであ、と気づく。

「真崎さま、どうかなさいましたか?」

 俺の様子にすぐ気づく雷月もたまらない。あー、もー、好きー!
 じゃなくて、ときめくのは後、後。

「あの、さ……俺を抱いたまま階段は、そのぅ……」

 いくらなんでも足元見えなくて危ないのではないかと思ったのだ。

「ああ、そんなことですか」

 問題ありません、と当たり前のように言われ、階段の下につくと、そのままパッ、パッと三回ぐらいで上まで軽やかに跳ばれた。

「えええ?」

 そうして雷月は平然として俺を部屋に運んだ。

「さ、さっきの何?」

 別の意味でちょっとときめいてしまったのは仕方ないことだと思う。あれってもしかして軽功とかいうやつ? それとも魔法かな?
 だが、何か聞きたいことがあるのは俺だけではなかったらしい。

「西文グァ、少し真崎さまに聞きたいことがあります。今からはどなたの要請も受けませんので、よろしくお願いします」
「文浩哥たちは戻ってきても?」
「それはかまいません」
「承知した」
「え?」

 雷月の顔を見ると、微笑んでいるのだが、目が笑っていない。なんでだろうと思ったけど、そんなのん気に考えていられる場面ではなかったと気づいたのは、その後すぐのことだった。
 だってまさか、雷月がこんなマッチョと一生添い遂げるつもりだなんて思わないだろ?
 優しくベッドに下ろされ、結界を張られたのがわかった。雷月以外が入ってこられない空間になったことで、俺はほっとした。
 だけど。

「真崎さま? 先ほど皇上に言われた言葉の意味を教えていただきたい」
「え?」

 俺はきょとんとした。そしてすぐにカーッと頬に熱が上がるのを感じた。

「こ、言葉の意味って……」

 そのまんまじゃないかって思う。雷月に側にいてほしくて……ってでもなんか様子が違う?

「真崎さま。私が貴方をうっとうしく思うなんてそんなことはありえません。何故そんなことを思われたのか、是非教えていただけませんか?」

 あ、そっち?

「え? だ、だって俺……雷月に今おんぶにだっこだから……天使になっちゃったからこれからもずっとそうだろうし……」
「……確かに、真崎さまが私を認識したのはつい三日程前でしたね。ですが私はずっと真崎さまを欲しいと思っていたのでえすよ? これはもう、私の愛をたっぷり教え込まないといけないようですね?」
「ええ?」

 雷月が覆いかぶさってきた。
 そうして俺は、夕飯の時間まで雷月の愛を教え込まされた。もちろんそれだけじゃ終わらなくて、夕飯後も食休みを経て、またたっぷり……。
 好きだけど、たいへん。



ーーーーー
BL小説大賞応援ありがとうございましたー♪ 引き続き完結まで書いていきますのでよろしくお願いします!
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