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六八、好久没見(久しぶり)
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元宵節は正月十五日のことで、日本では小正月と呼ばれる。
この頃街中では屋台が出され、夜はいたるところに灯籠が吊るされ、とても明るくなる。みなは喜んで街に繰り出し、飲み食いしたり、美しい灯籠を眺めたり踊ったりと忙しい。
基本的に夜の外出は禁止されているが、この元宵の数日だけは例外でみなが夜更かしをして楽しむのだった。
明玲はその日の朝、久しぶりに食堂へ足を踏み入れた。
「明玲、おめでとう」
「明玲様、おめでとうございます!」
趙山琴を始め、妾妃たちが満面の笑みで明玲たちを迎えた。明玲は今偉仁に抱き上げられている。自分で歩くと言ったのだが偉仁は全く取り合ってくれなかった。自分のものになったということを実感したいのだと言われてしまえば、逆らうこともできない。明玲は赤くなりっぱなしである。
「……そなたら、私に対する言葉はないのか」
「あら、そうでしたわね。偉仁様、念願が叶いましたことお慶び申し上げます」
「蘇王、おめでとうございます!!」
そう言ってみな朝食の席についた。
今日は湯圓が用意されている。温かくて甘い湯の中に白玉団子が入った食べ物だ。明玲は嬉しくなって顔を綻ばせる。これを食べなくては元宵ではないと明玲は思うのだ。
「あつっ……」
はふはふしながら湯圓を食べる。胡麻餡がとろりと口の中で蕩けて火傷してしまいそうだった。
「落ち着いて食べなさい」
「はい」
偉仁にそう言われて素直に返事をする。もう成人したというのにいつまでも子どものようで、明玲は赤面した。
「ところで、随分と長くお籠りでしたこと」
「……うっ……」
山琴の言葉に明玲は吹き出しそうになるのをどうにかこらえた。
「……言っておいただろう」
「ええ、聞いておりましたわ。念願叶ったわけですから、妾共はもうお相手はしないということでよろしいですわね」
「ああ、世話をかけた」
「明玲、これからはたいへんだとは思うけど、しっかり偉仁様を繋ぎ止めてね」
「……は、はい……」
なんだか会話の内容が生々しいと思ったが、何がどうたいへんなのかまではわからなかった。ただ偉仁を山琴や妾妃の元へは通わせたくないので、そこは明玲がどうにかしなければならないとも思った。
「私は明玲一筋だぞ」
「存じております。ですが偉仁様の性欲は……失礼しました」
朝からそんな会話をしていいのだろうか。明玲は顔が熱くなるのを感じた。なんだかもうずっと頭に血が上っているような気がする。
「私の愛は明玲が全て受け止めることになっている。それでよいな?」
手を取られ、偉仁の口に触れさせられた。その目が逆らうことは許さないと告げている。明玲は胸が高鳴った。
「は、はい……」
「……明玲、何かあれば相談に乗るわ」
山琴が同情するように言う。明玲もさすがに不安になった。
「問題など生じるはずはなかろう」
「あら、女のことは女が一番よくわかっておりますのよ。悔しかったらしっかり明玲を見て、大事にしてくださいませ」
「……そうしよう」
そんな和やかとは全くいえない状態で朝食は終わった。
周梨に伴われて久しぶりに部屋に戻る。それほどの日数が経っているわけではないが、とても懐かしいと明玲は思った。
「明玲様、おかえりなさいませ。ご結婚おめでとうございます」
周梨と曹梅花に改めて挨拶をされ、明玲は背筋を正した。
「ありがとう」
「今宵は街へ出られるのですか?」
「ええ、そうなるみたい」
「では準備いたします」
周梨がそう言って寝室に入った。衣装箪笥は寝室にある。梅花はそわそわしていた。
「あの……明玲様……」
もじもじしながら話しかけられて、明玲まで少し恥ずかしくなってしまった。
「なあに?」
「ええと、その……したんですよね。ずっと……」
「ええ……ずっとだったわ……」
梅花とお互い真っ赤になってしまい、その先は続けられなかった。あんなこと、いつか慣れる日が来るのだろうか。
とりあえず明玲は気を取り直して今夜のお出かけを考えることにした。
この頃街中では屋台が出され、夜はいたるところに灯籠が吊るされ、とても明るくなる。みなは喜んで街に繰り出し、飲み食いしたり、美しい灯籠を眺めたり踊ったりと忙しい。
基本的に夜の外出は禁止されているが、この元宵の数日だけは例外でみなが夜更かしをして楽しむのだった。
明玲はその日の朝、久しぶりに食堂へ足を踏み入れた。
「明玲、おめでとう」
「明玲様、おめでとうございます!」
趙山琴を始め、妾妃たちが満面の笑みで明玲たちを迎えた。明玲は今偉仁に抱き上げられている。自分で歩くと言ったのだが偉仁は全く取り合ってくれなかった。自分のものになったということを実感したいのだと言われてしまえば、逆らうこともできない。明玲は赤くなりっぱなしである。
「……そなたら、私に対する言葉はないのか」
「あら、そうでしたわね。偉仁様、念願が叶いましたことお慶び申し上げます」
「蘇王、おめでとうございます!!」
そう言ってみな朝食の席についた。
今日は湯圓が用意されている。温かくて甘い湯の中に白玉団子が入った食べ物だ。明玲は嬉しくなって顔を綻ばせる。これを食べなくては元宵ではないと明玲は思うのだ。
「あつっ……」
はふはふしながら湯圓を食べる。胡麻餡がとろりと口の中で蕩けて火傷してしまいそうだった。
「落ち着いて食べなさい」
「はい」
偉仁にそう言われて素直に返事をする。もう成人したというのにいつまでも子どものようで、明玲は赤面した。
「ところで、随分と長くお籠りでしたこと」
「……うっ……」
山琴の言葉に明玲は吹き出しそうになるのをどうにかこらえた。
「……言っておいただろう」
「ええ、聞いておりましたわ。念願叶ったわけですから、妾共はもうお相手はしないということでよろしいですわね」
「ああ、世話をかけた」
「明玲、これからはたいへんだとは思うけど、しっかり偉仁様を繋ぎ止めてね」
「……は、はい……」
なんだか会話の内容が生々しいと思ったが、何がどうたいへんなのかまではわからなかった。ただ偉仁を山琴や妾妃の元へは通わせたくないので、そこは明玲がどうにかしなければならないとも思った。
「私は明玲一筋だぞ」
「存じております。ですが偉仁様の性欲は……失礼しました」
朝からそんな会話をしていいのだろうか。明玲は顔が熱くなるのを感じた。なんだかもうずっと頭に血が上っているような気がする。
「私の愛は明玲が全て受け止めることになっている。それでよいな?」
手を取られ、偉仁の口に触れさせられた。その目が逆らうことは許さないと告げている。明玲は胸が高鳴った。
「は、はい……」
「……明玲、何かあれば相談に乗るわ」
山琴が同情するように言う。明玲もさすがに不安になった。
「問題など生じるはずはなかろう」
「あら、女のことは女が一番よくわかっておりますのよ。悔しかったらしっかり明玲を見て、大事にしてくださいませ」
「……そうしよう」
そんな和やかとは全くいえない状態で朝食は終わった。
周梨に伴われて久しぶりに部屋に戻る。それほどの日数が経っているわけではないが、とても懐かしいと明玲は思った。
「明玲様、おかえりなさいませ。ご結婚おめでとうございます」
周梨と曹梅花に改めて挨拶をされ、明玲は背筋を正した。
「ありがとう」
「今宵は街へ出られるのですか?」
「ええ、そうなるみたい」
「では準備いたします」
周梨がそう言って寝室に入った。衣装箪笥は寝室にある。梅花はそわそわしていた。
「あの……明玲様……」
もじもじしながら話しかけられて、明玲まで少し恥ずかしくなってしまった。
「なあに?」
「ええと、その……したんですよね。ずっと……」
「ええ……ずっとだったわ……」
梅花とお互い真っ赤になってしまい、その先は続けられなかった。あんなこと、いつか慣れる日が来るのだろうか。
とりあえず明玲は気を取り直して今夜のお出かけを考えることにした。
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