47 / 73
四七、想見您(会いたい)
しおりを挟む
偉仁と明玲が再び顔を合わせたのは、それから半月後のことだった。
それまでの間、明玲は趙山琴たちと共にずっと皇都にいた。一日にして成された革命は民間にはあまり影響はなかったものの、皇都の出入りは厳しくなったこともあり、あらぬ疑惑を持たれないようにと出るのを見送ったのだ。とはいえ皇都の中を自由に闊歩するわけにもいかないので、明玲たちは館の中で過ごした。中秋節後のとても気持ちのいい季節ではあったが、それはしかたのないことだった。
こんな時明玲は自分がただの老百姓(一般の民)であったらなと思うこともある。皇帝が変わろうが変わるまいが、生活が変わらないのならば雲の上の話だ。市井では皇帝はどんな風に思われていたのだろう。皇帝はあくまで皇帝というもので、同じ人間だとは思われていなかったのかもしれない。
そして国内に発布された文言の内容は明玲たちにも知らされた。
皇弟殿下、薊王が立つ。
色に狂い、私欲を満たし、更なる増税を企てていた先帝を廃し、薊王が即位した。
即時先帝の後宮は閉鎖。増税もまた廃された。
変わらず大明帝国の民として新たな皇帝の誕生を寿げ―
と。
全国への発布ということもあり一時は騒然となったようだが、すぐに沈静化したらしい。民の関心事はあくまで自分たちの生活がどうなるかということだけである。変わらないのなら、それほど興味を持つとは明玲にも思えなかった。
それに新たな皇帝が即位する場合、一時的にでも減税などの措置を取られることが多いらしい。ちょうど稲の収穫が終り乾燥させて脱穀がなされた時期である。徴税官が動きだしたかださないかの時期であり、一時的に徴税は中止された。それにより農家は猶予を得、すでに徴収された米の一部は国で買い取ることを決定したという。
老百姓にとって歓迎こそすれ、新たな皇帝の即位を厭うことはないだろう。
(これでよかったのよね?)
明玲は思う。ちなみに即位に伴う恩赦はないらしい。公明正大を謳う薊王は犯罪者を決して許しはしないという決意の現れだという。明玲はそれに首を傾げたが、そういう皇帝の方が民には受けがいいだろうと納得した。実際権力者というのは自分の都合のいいように物事を改ざんしていくものだ。
薊王などどうでもよかった。
「偉仁哥にはいつ会えるのかしら……」
最初はすごく怒っていたが、会えないと思うと寂しい気持ちの方が勝ってしまう。そんな明玲を見て山琴は、「かわいらしいこと」と笑う。
そうして半月が過ぎ、やっと会えた偉仁に明玲は何も言うことができなかった。
会いたかった。とても会いたかったのだ。
いつのまにか腹立たしい気持ちも溶けていた。そんなことではいけないと思うのに、今は偉仁の腕の中に飛び込みたかった。
「……息災だったか?」
「……いいえ」
否定すると偉仁はとても困ったような表情をした。
「明玲、もしや病か何か……」
「……はい。気鬱の病かと思います。……哥のせいで」
「……すまなかった」
「哥は謝ればそれで済むと思っていらっしゃるのですか」
偉仁がとても困っているのが感じられた。困らせたいわけではない、なんて言わない。明玲は会いたかった。ただ偉仁に会いたかったのだ。
「……思ってはいない。ただ、情けないことだが謝る以外にどうすればいいのか私にはわからぬのだ」
そう言って偉仁は明玲の腕を引き、その腕の中に明玲を捕らえた。
「哥……」
「そなたは私のものだ。皇帝などにくれてやるつもりはない」
その言葉だけで、ここ半月のもやもやが溶けていく気がした。
ーーーー
即位に伴う減税については独自設定です。
それまでの間、明玲は趙山琴たちと共にずっと皇都にいた。一日にして成された革命は民間にはあまり影響はなかったものの、皇都の出入りは厳しくなったこともあり、あらぬ疑惑を持たれないようにと出るのを見送ったのだ。とはいえ皇都の中を自由に闊歩するわけにもいかないので、明玲たちは館の中で過ごした。中秋節後のとても気持ちのいい季節ではあったが、それはしかたのないことだった。
こんな時明玲は自分がただの老百姓(一般の民)であったらなと思うこともある。皇帝が変わろうが変わるまいが、生活が変わらないのならば雲の上の話だ。市井では皇帝はどんな風に思われていたのだろう。皇帝はあくまで皇帝というもので、同じ人間だとは思われていなかったのかもしれない。
そして国内に発布された文言の内容は明玲たちにも知らされた。
皇弟殿下、薊王が立つ。
色に狂い、私欲を満たし、更なる増税を企てていた先帝を廃し、薊王が即位した。
即時先帝の後宮は閉鎖。増税もまた廃された。
変わらず大明帝国の民として新たな皇帝の誕生を寿げ―
と。
全国への発布ということもあり一時は騒然となったようだが、すぐに沈静化したらしい。民の関心事はあくまで自分たちの生活がどうなるかということだけである。変わらないのなら、それほど興味を持つとは明玲にも思えなかった。
それに新たな皇帝が即位する場合、一時的にでも減税などの措置を取られることが多いらしい。ちょうど稲の収穫が終り乾燥させて脱穀がなされた時期である。徴税官が動きだしたかださないかの時期であり、一時的に徴税は中止された。それにより農家は猶予を得、すでに徴収された米の一部は国で買い取ることを決定したという。
老百姓にとって歓迎こそすれ、新たな皇帝の即位を厭うことはないだろう。
(これでよかったのよね?)
明玲は思う。ちなみに即位に伴う恩赦はないらしい。公明正大を謳う薊王は犯罪者を決して許しはしないという決意の現れだという。明玲はそれに首を傾げたが、そういう皇帝の方が民には受けがいいだろうと納得した。実際権力者というのは自分の都合のいいように物事を改ざんしていくものだ。
薊王などどうでもよかった。
「偉仁哥にはいつ会えるのかしら……」
最初はすごく怒っていたが、会えないと思うと寂しい気持ちの方が勝ってしまう。そんな明玲を見て山琴は、「かわいらしいこと」と笑う。
そうして半月が過ぎ、やっと会えた偉仁に明玲は何も言うことができなかった。
会いたかった。とても会いたかったのだ。
いつのまにか腹立たしい気持ちも溶けていた。そんなことではいけないと思うのに、今は偉仁の腕の中に飛び込みたかった。
「……息災だったか?」
「……いいえ」
否定すると偉仁はとても困ったような表情をした。
「明玲、もしや病か何か……」
「……はい。気鬱の病かと思います。……哥のせいで」
「……すまなかった」
「哥は謝ればそれで済むと思っていらっしゃるのですか」
偉仁がとても困っているのが感じられた。困らせたいわけではない、なんて言わない。明玲は会いたかった。ただ偉仁に会いたかったのだ。
「……思ってはいない。ただ、情けないことだが謝る以外にどうすればいいのか私にはわからぬのだ」
そう言って偉仁は明玲の腕を引き、その腕の中に明玲を捕らえた。
「哥……」
「そなたは私のものだ。皇帝などにくれてやるつもりはない」
その言葉だけで、ここ半月のもやもやが溶けていく気がした。
ーーーー
即位に伴う減税については独自設定です。
1
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
月と秘密とプールサイド
スケキヨ
恋愛
あぁ、あの指が。
昨夜、私のことを好きなように弄んだのだ――。
高校三年生のひな子と彼女を犯す男。
夜のプールサイドで繰り広げられた情事の秘密とは……?
2020.2.3 完結しました。
R18描写のある話には※をつけています。
以前、投稿していた作品に加筆・修正したものの再投稿となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる