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三、你是我的最愛(私の最愛)

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 明玲が連れて行かれたのは偉仁の部屋だった。兄の部屋には小さい頃足を踏み入れたことはあったが、もう何年も入ってはいなかった。懐かしい、というよりどうしてここに連れてこられたのかわからなくて、明玲は偉仁の腕の中できょろきょろと部屋の中を見回した。
 明玲が兄である偉仁に引き取られたの八歳の頃である。兄の母である芳妃が兄妹共に暮らせるようにと皇帝に口添えをしたと聞いている。明玲は本来ならば公主として、成人するまで後宮の子女が暮らす場所で過ごさなければならないはずだ。だが明玲はその生い立ちが複雑故に、皇帝の血を引いていないのではないかとも言われていた。

「……偉仁哥ウェイレングァ(偉仁兄さん)、どうなさったのですか?」

 なかなか自分を下ろさない兄を少し不安に思い、明玲は声をかけた。

「……明玲ミンリン、そなた自分の生い立ちは知っているか?」
「は?」

 だれだれに嫁ぐという話から何故自分の生い立ちが出てくるのだろうと明玲は眉を寄せた。
 生い立ち、と言っても皇帝の後宮で生まれたと聞いているぐらいである。ただありえない程に早産であった為、生まれてしばらくはみなに世話をかけたとは聞いた。

「そなたの母上の……明妃の来歴については聞いていないか?」
「母、ですか」

 明玲の母はいつも儚げな笑みを浮かべていて、芳妃と共にいることが多い。あまり自分のことは話したがらない人だったので、明玲は母のことは後宮内の噂でしか聞いたことがなかった。
 曰く、明妃は皇帝がお忍びで各地を視察していた際出会った人妻であると。皇帝が曹家に立ち寄った時、もてなす為に顔を出した明妃に皇帝が一目惚れし、皇城に戻る際強引に攫ってきてしまったという。夫を恋しがる明妃を無理やり抱き、それで生まれたのが明玲だとは聞いている。
 ただこれはあくまで後宮内の噂で、全てが全て本当とは限らないのだと明玲は侍女に教えられた。それは明玲が母に望まれて生まれてきた子ではなかったと、悲しがらなくても済むようにとの配慮だったかもしれない。母に尋ねても、

「さぁ……どうだったかしら?」

 と変わらず儚げな笑みを浮かべたまま、首を傾げてはぐらかされるだけだった。

「明玲、過去なんてどうでもいいでしょう? 明妃にはわたくしがいるわ。貴女が気にすることは何もないのよ」

 そんな時芳妃は笑って、明玲をそう諭した。そう言われてしまえば、明玲にはもう何も言えなかった。
 そのことを思い出し、

「母は、曹家に嫁いでいたのに……皇上(皇帝)に攫われてきたとは、聞いています……」

 明玲はそう答えたが、そんなことは偉仁も知っているはずである。何故今頃になってそんなことを聞かれるのかわからなかった。偉仁は頷いた。

「そうだ。そしてそなたはありえぬほどに早産だった。何せ皇上が攫ってきて五か月後にはそなたが産まれたのだから」
「……え? えええ!?」

 それは明玲にとって初耳だった。確か赤子とは十月十日母の胎内にいて産まれてくるのではなかったか。

「そ、そんなに早く産まれて、生きていたなんて……」
「……そなたの教育係は本当に何をしていたのだ。よしんば五か月で子が産まれたとして、生きているはずがなかろう」
「で、ですよね……」

 偉仁は嘆息してやっとベッドに腰掛けた。もちろん明玲を抱いたままである。
 明玲の心は千々に乱れていた。五か月で子が産まれるはずがないと、そんなに早く産まれたとしても育つはずがないと聞かされれば答えは一つである。

「私は……皇上の子ではないのですね……?」
「そうだ。そなたと私に血の繋がりはない」

 そう決定的なことを言った偉仁は、聞かされた事実に愕然としている明玲をそのまま床に押し倒した。ただでさえ秀麗な面が嫣然と笑う。

「明玲、そなたは私のものだ」

 明玲はぼうっと、その美しい面を見つめることしかできなかった。
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