3 / 73
三、你是我的最愛(私の最愛)
しおりを挟む
明玲が連れて行かれたのは偉仁の部屋だった。兄の部屋には小さい頃足を踏み入れたことはあったが、もう何年も入ってはいなかった。懐かしい、というよりどうしてここに連れてこられたのかわからなくて、明玲は偉仁の腕の中できょろきょろと部屋の中を見回した。
明玲が兄である偉仁に引き取られたの八歳の頃である。兄の母である芳妃が兄妹共に暮らせるようにと皇帝に口添えをしたと聞いている。明玲は本来ならば公主として、成人するまで後宮の子女が暮らす場所で過ごさなければならないはずだ。だが明玲はその生い立ちが複雑故に、皇帝の血を引いていないのではないかとも言われていた。
「……偉仁哥(偉仁兄さん)、どうなさったのですか?」
なかなか自分を下ろさない兄を少し不安に思い、明玲は声をかけた。
「……明玲、そなた自分の生い立ちは知っているか?」
「は?」
だれだれに嫁ぐという話から何故自分の生い立ちが出てくるのだろうと明玲は眉を寄せた。
生い立ち、と言っても皇帝の後宮で生まれたと聞いているぐらいである。ただありえない程に早産であった為、生まれてしばらくはみなに世話をかけたとは聞いた。
「そなたの母上の……明妃の来歴については聞いていないか?」
「母、ですか」
明玲の母はいつも儚げな笑みを浮かべていて、芳妃と共にいることが多い。あまり自分のことは話したがらない人だったので、明玲は母のことは後宮内の噂でしか聞いたことがなかった。
曰く、明妃は皇帝がお忍びで各地を視察していた際出会った人妻であると。皇帝が曹家に立ち寄った時、もてなす為に顔を出した明妃に皇帝が一目惚れし、皇城に戻る際強引に攫ってきてしまったという。夫を恋しがる明妃を無理やり抱き、それで生まれたのが明玲だとは聞いている。
ただこれはあくまで後宮内の噂で、全てが全て本当とは限らないのだと明玲は侍女に教えられた。それは明玲が母に望まれて生まれてきた子ではなかったと、悲しがらなくても済むようにとの配慮だったかもしれない。母に尋ねても、
「さぁ……どうだったかしら?」
と変わらず儚げな笑みを浮かべたまま、首を傾げてはぐらかされるだけだった。
「明玲、過去なんてどうでもいいでしょう? 明妃には妾がいるわ。貴女が気にすることは何もないのよ」
そんな時芳妃は笑って、明玲をそう諭した。そう言われてしまえば、明玲にはもう何も言えなかった。
そのことを思い出し、
「母は、曹家に嫁いでいたのに……皇上(皇帝)に攫われてきたとは、聞いています……」
明玲はそう答えたが、そんなことは偉仁も知っているはずである。何故今頃になってそんなことを聞かれるのかわからなかった。偉仁は頷いた。
「そうだ。そしてそなたはありえぬほどに早産だった。何せ皇上が攫ってきて五か月後にはそなたが産まれたのだから」
「……え? えええ!?」
それは明玲にとって初耳だった。確か赤子とは十月十日母の胎内にいて産まれてくるのではなかったか。
「そ、そんなに早く産まれて、生きていたなんて……」
「……そなたの教育係は本当に何をしていたのだ。よしんば五か月で子が産まれたとして、生きているはずがなかろう」
「で、ですよね……」
偉仁は嘆息してやっと床に腰掛けた。もちろん明玲を抱いたままである。
明玲の心は千々に乱れていた。五か月で子が産まれるはずがないと、そんなに早く産まれたとしても育つはずがないと聞かされれば答えは一つである。
「私は……皇上の子ではないのですね……?」
「そうだ。そなたと私に血の繋がりはない」
そう決定的なことを言った偉仁は、聞かされた事実に愕然としている明玲をそのまま床に押し倒した。ただでさえ秀麗な面が嫣然と笑う。
「明玲、そなたは私のものだ」
明玲はぼうっと、その美しい面を見つめることしかできなかった。
明玲が兄である偉仁に引き取られたの八歳の頃である。兄の母である芳妃が兄妹共に暮らせるようにと皇帝に口添えをしたと聞いている。明玲は本来ならば公主として、成人するまで後宮の子女が暮らす場所で過ごさなければならないはずだ。だが明玲はその生い立ちが複雑故に、皇帝の血を引いていないのではないかとも言われていた。
「……偉仁哥(偉仁兄さん)、どうなさったのですか?」
なかなか自分を下ろさない兄を少し不安に思い、明玲は声をかけた。
「……明玲、そなた自分の生い立ちは知っているか?」
「は?」
だれだれに嫁ぐという話から何故自分の生い立ちが出てくるのだろうと明玲は眉を寄せた。
生い立ち、と言っても皇帝の後宮で生まれたと聞いているぐらいである。ただありえない程に早産であった為、生まれてしばらくはみなに世話をかけたとは聞いた。
「そなたの母上の……明妃の来歴については聞いていないか?」
「母、ですか」
明玲の母はいつも儚げな笑みを浮かべていて、芳妃と共にいることが多い。あまり自分のことは話したがらない人だったので、明玲は母のことは後宮内の噂でしか聞いたことがなかった。
曰く、明妃は皇帝がお忍びで各地を視察していた際出会った人妻であると。皇帝が曹家に立ち寄った時、もてなす為に顔を出した明妃に皇帝が一目惚れし、皇城に戻る際強引に攫ってきてしまったという。夫を恋しがる明妃を無理やり抱き、それで生まれたのが明玲だとは聞いている。
ただこれはあくまで後宮内の噂で、全てが全て本当とは限らないのだと明玲は侍女に教えられた。それは明玲が母に望まれて生まれてきた子ではなかったと、悲しがらなくても済むようにとの配慮だったかもしれない。母に尋ねても、
「さぁ……どうだったかしら?」
と変わらず儚げな笑みを浮かべたまま、首を傾げてはぐらかされるだけだった。
「明玲、過去なんてどうでもいいでしょう? 明妃には妾がいるわ。貴女が気にすることは何もないのよ」
そんな時芳妃は笑って、明玲をそう諭した。そう言われてしまえば、明玲にはもう何も言えなかった。
そのことを思い出し、
「母は、曹家に嫁いでいたのに……皇上(皇帝)に攫われてきたとは、聞いています……」
明玲はそう答えたが、そんなことは偉仁も知っているはずである。何故今頃になってそんなことを聞かれるのかわからなかった。偉仁は頷いた。
「そうだ。そしてそなたはありえぬほどに早産だった。何せ皇上が攫ってきて五か月後にはそなたが産まれたのだから」
「……え? えええ!?」
それは明玲にとって初耳だった。確か赤子とは十月十日母の胎内にいて産まれてくるのではなかったか。
「そ、そんなに早く産まれて、生きていたなんて……」
「……そなたの教育係は本当に何をしていたのだ。よしんば五か月で子が産まれたとして、生きているはずがなかろう」
「で、ですよね……」
偉仁は嘆息してやっと床に腰掛けた。もちろん明玲を抱いたままである。
明玲の心は千々に乱れていた。五か月で子が産まれるはずがないと、そんなに早く産まれたとしても育つはずがないと聞かされれば答えは一つである。
「私は……皇上の子ではないのですね……?」
「そうだ。そなたと私に血の繋がりはない」
そう決定的なことを言った偉仁は、聞かされた事実に愕然としている明玲をそのまま床に押し倒した。ただでさえ秀麗な面が嫣然と笑う。
「明玲、そなたは私のものだ」
明玲はぼうっと、その美しい面を見つめることしかできなかった。
1
お気に入りに追加
610
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
悪役令嬢はオッサンフェチ。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
侯爵令嬢であるクラリッサは、よく読んでいた小説で悪役令嬢であった前世を突然思い出す。
何故自分がクラリッサになったかどうかは今はどうでも良い。
ただ婚約者であるキース王子は、いわゆる細身の優男系美男子であり、万人受けするかも知れないが正直自分の好みではない。
ヒロイン的立場である伯爵令嬢アンナリリーが王子と結ばれるため、私がいじめて婚約破棄されるのは全く問題もないのだが、意地悪するのも気分が悪いし、家から追い出されるのは困るのだ。
だって私が好きなのは執事のヒューバートなのだから。
それならさっさと婚約破棄して貰おう、どうせ二人が結ばれるなら、揉め事もなく王子がバカを晒すこともなく、早い方が良いものね。私はヒューバートを落とすことに全力を尽くせるし。
……というところから始まるラブコメです。
悪役令嬢といいつつも小説の設定だけで、計算高いですが悪さもしませんしざまあもありません。単にオッサン好きな令嬢が、防御力高めなマッチョ系執事を落とすためにあれこれ頑張るというシンプルなお話です。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる