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猫神である
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ん? わしか? わしの名は茶々と申す。
猫神である。
気が付いた時には山野におったが、此度は嫁取りの仕儀にて……。
これ、さや、何をする。
「茶々さんって猫だけど、こういうのでじゃれたりするの~?」
これ、猫じゃらしとやらで鼻をくすぐるでない。この頭がふさふさしている植物は猫じゃらしなどと呼ばれているが、どうやらエノコログサという名で、漢字とやらでは「狗尾草」と書くらしい。犬のしっぽじゃと? そんなものにわしはじゃれたりなぞ……。
「茶々さんもじゃれるんだねー。あーでもぐちゃぐちゃ……」
「にゃっ、にゃにゃにゃっ!」
じゃ、じゃれてなどおらぬわあっ! それにしてもなんじゃこのつぶのようなものは……犬のしっぽにはとても見えぬが、やはり人の感性というのはわからぬのぅ。
「でっかい猫さんがじゃれてるのもかわいいなぁ……」
ま、まぁさやがご機嫌ならわしはかまわぬがな!
……つい遊んでしまったが、遊ぶことも大事じゃしな! それでさやが喜ぶならいくらでも遊んでやろうではないか!
ふう……わしは猫神。そう、猫神である。
さやと過ごす時間は人の姿になっていることも多い。猫のままではしゃべれぬのでな。
「茶々さんて、やっぱり魚が好きなんです?」
「うむ、魚でなくてもいいのじゃが、やはり魚の方がしっくりくるのぅ」
箸を使うのは難しいが、人の姿をとるようになってから学んだ。日本では猫は魚を食べるものらしいが、世界的に見れば珍しいことだと聞く。基本人から投げられる残り物を食べておったから魚を食べるというようなイメージがついたのじゃろうなぁ。
わしは魚も肉も好きだから問題ないが、マグロは特に好きかもしれぬ。
「生の方がいいんですか?」
「生でなくてもかまわぬが、生の方がよりよいのぅ」
「そうなんですか。覚えておきますね~」
猫の発情期に引きずられてひどい行いをしてしまったが、さやはわしを受け入れてくれた。そんなさやにわしは夢中である。
さやはわしと共に生きることを考えてくれている。そんなかわいいさやを養うのはわしの務めじゃ。というわけで仕事を始めた。
ぱそこんなるものはなかなか難しかったが、それなりに操作は覚えた。役人とやらが気をきかせ、さやの御父君の会社に出向させてくれた。そんなわけで職場は遠くなってしまったが、本日は定期連絡の為役所にいた。
「……む?」
「茶白さま、どうかなさいましたか?」
「……北西方向、十分後に雨じゃ。おそらく長く降り続けるであろう」
どうもヒゲの調子が悪いと思ったら雨である。ほんに濡れるのは勘弁してもらいたいものじゃ。
「ありがとうございます」
役所の人間は当然ながらわしの正体を知っている。
「むむ?」
時計を見た。ちょうどこの時間だとさやが大学から出てくる頃ではなかろうか。
「茶白さま、傘をどうぞ」
「うむ」
大きい傘を渡された。これは迎えに行けということじゃろう。念の為と普通の大きさの傘も受け取る。
「かたじけない」
さやにLINEなるもので連絡をし、わしはさやが通う大学まで迎えに行った。その頃にはちょうど雨が降ってきた。毛並みも整わぬし、雨というのはほんに嫌なものだ。
「……ホントに来てくれたんですね。ありがとうございます」
さやがはにかんだ。出てきた時は友人とやらと一緒である。だが傘は二本しかない。
「茶々さん、傘かしてください」
「うむ」
普通の大きさの傘をさやに渡すと、さやは友人にその傘を渡した。
「ありがとう!」
「明日返してね。茶々さん、入れてください」
「うむ」
さやの友人は手を振って帰っていった。
二人で同じ傘に入ることを相合傘というらしい。大きめの傘を受け取ってよかったと思った。
「予報では雨なんて言ってなかったのに。でも、よくわかりましたね」
「ヒゲがのぅ……」
「ああ……猫って天気には敏感だって聞きますねー。他の動物もそうかもしれないけど……」
「どれだけ雨に濡れたくないかの違いだろうて。あまり濡れぬうちに帰ろうぞ」
「はい!」
大きな傘ではあるがさやの肩がわしの腕に触れている。雨に濡れるのは嫌だが、たまにはこのような日も悪くない。
「茶々さん、帰ったらブラッシングさせてくださいね」
「うむ」
今日はたまたまさやがバイトのない日ということもあり、その後さやに盛大にもふられてしまったのだった。
さやはもしかしてわしの毛だけが目当てなのではないかと思うこともあるが……今はそれでもいいことにしよう。
ゆっくり口説き、やがてわしから離れられなくなればいいのだから。
「あ、ぐちゃぐちゃになっちゃった。またブラッシングしなきゃ~」
さやがそう言ってまた毛並みを整えてくれる。
たまらなくなって腕の中に捕らえれば、さやが嬉しそうに笑んだ。
「はぁ~、もふもふ~」
どうやら……毛以外にも魅力を感じてもらえるよう、がんばらねばならぬようである。
しかしどこをどうしたらいいのかわからない。明日、職場ででも誰かに聞いてみようと思ったのだった。
おしまい。
茶々さん視点でした。また何か思いついたら書きますね~。
お付き合いありがとうございました。
ーーーーー
キャラ文芸大賞参加しています! 是非投票をよろしくお願いします!
「森のくまさんと元OL」連載中
「虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~」(完結済)
こちらもどうぞよろしくお願いします~
猫神である。
気が付いた時には山野におったが、此度は嫁取りの仕儀にて……。
これ、さや、何をする。
「茶々さんって猫だけど、こういうのでじゃれたりするの~?」
これ、猫じゃらしとやらで鼻をくすぐるでない。この頭がふさふさしている植物は猫じゃらしなどと呼ばれているが、どうやらエノコログサという名で、漢字とやらでは「狗尾草」と書くらしい。犬のしっぽじゃと? そんなものにわしはじゃれたりなぞ……。
「茶々さんもじゃれるんだねー。あーでもぐちゃぐちゃ……」
「にゃっ、にゃにゃにゃっ!」
じゃ、じゃれてなどおらぬわあっ! それにしてもなんじゃこのつぶのようなものは……犬のしっぽにはとても見えぬが、やはり人の感性というのはわからぬのぅ。
「でっかい猫さんがじゃれてるのもかわいいなぁ……」
ま、まぁさやがご機嫌ならわしはかまわぬがな!
……つい遊んでしまったが、遊ぶことも大事じゃしな! それでさやが喜ぶならいくらでも遊んでやろうではないか!
ふう……わしは猫神。そう、猫神である。
さやと過ごす時間は人の姿になっていることも多い。猫のままではしゃべれぬのでな。
「茶々さんて、やっぱり魚が好きなんです?」
「うむ、魚でなくてもいいのじゃが、やはり魚の方がしっくりくるのぅ」
箸を使うのは難しいが、人の姿をとるようになってから学んだ。日本では猫は魚を食べるものらしいが、世界的に見れば珍しいことだと聞く。基本人から投げられる残り物を食べておったから魚を食べるというようなイメージがついたのじゃろうなぁ。
わしは魚も肉も好きだから問題ないが、マグロは特に好きかもしれぬ。
「生の方がいいんですか?」
「生でなくてもかまわぬが、生の方がよりよいのぅ」
「そうなんですか。覚えておきますね~」
猫の発情期に引きずられてひどい行いをしてしまったが、さやはわしを受け入れてくれた。そんなさやにわしは夢中である。
さやはわしと共に生きることを考えてくれている。そんなかわいいさやを養うのはわしの務めじゃ。というわけで仕事を始めた。
ぱそこんなるものはなかなか難しかったが、それなりに操作は覚えた。役人とやらが気をきかせ、さやの御父君の会社に出向させてくれた。そんなわけで職場は遠くなってしまったが、本日は定期連絡の為役所にいた。
「……む?」
「茶白さま、どうかなさいましたか?」
「……北西方向、十分後に雨じゃ。おそらく長く降り続けるであろう」
どうもヒゲの調子が悪いと思ったら雨である。ほんに濡れるのは勘弁してもらいたいものじゃ。
「ありがとうございます」
役所の人間は当然ながらわしの正体を知っている。
「むむ?」
時計を見た。ちょうどこの時間だとさやが大学から出てくる頃ではなかろうか。
「茶白さま、傘をどうぞ」
「うむ」
大きい傘を渡された。これは迎えに行けということじゃろう。念の為と普通の大きさの傘も受け取る。
「かたじけない」
さやにLINEなるもので連絡をし、わしはさやが通う大学まで迎えに行った。その頃にはちょうど雨が降ってきた。毛並みも整わぬし、雨というのはほんに嫌なものだ。
「……ホントに来てくれたんですね。ありがとうございます」
さやがはにかんだ。出てきた時は友人とやらと一緒である。だが傘は二本しかない。
「茶々さん、傘かしてください」
「うむ」
普通の大きさの傘をさやに渡すと、さやは友人にその傘を渡した。
「ありがとう!」
「明日返してね。茶々さん、入れてください」
「うむ」
さやの友人は手を振って帰っていった。
二人で同じ傘に入ることを相合傘というらしい。大きめの傘を受け取ってよかったと思った。
「予報では雨なんて言ってなかったのに。でも、よくわかりましたね」
「ヒゲがのぅ……」
「ああ……猫って天気には敏感だって聞きますねー。他の動物もそうかもしれないけど……」
「どれだけ雨に濡れたくないかの違いだろうて。あまり濡れぬうちに帰ろうぞ」
「はい!」
大きな傘ではあるがさやの肩がわしの腕に触れている。雨に濡れるのは嫌だが、たまにはこのような日も悪くない。
「茶々さん、帰ったらブラッシングさせてくださいね」
「うむ」
今日はたまたまさやがバイトのない日ということもあり、その後さやに盛大にもふられてしまったのだった。
さやはもしかしてわしの毛だけが目当てなのではないかと思うこともあるが……今はそれでもいいことにしよう。
ゆっくり口説き、やがてわしから離れられなくなればいいのだから。
「あ、ぐちゃぐちゃになっちゃった。またブラッシングしなきゃ~」
さやがそう言ってまた毛並みを整えてくれる。
たまらなくなって腕の中に捕らえれば、さやが嬉しそうに笑んだ。
「はぁ~、もふもふ~」
どうやら……毛以外にも魅力を感じてもらえるよう、がんばらねばならぬようである。
しかしどこをどうしたらいいのかわからない。明日、職場ででも誰かに聞いてみようと思ったのだった。
おしまい。
茶々さん視点でした。また何か思いついたら書きますね~。
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