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7.私にも友人はおりまして
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猫はとりあえず、私が家にいない間だけ働くことにしたらしい。
神様が働くって何をするのか知らないけど、国としては神様や妖怪の存在を把握しておくのは重要なのだそうだ。
飼い殺し、という言葉は脳裏に浮かんだが、神様も妖怪もわかっていて国に所属しているのだろう。それなら私がとやかく言うことではない。
さて、私も大学に入学して二か月が好きだ。その間に一応友人なるものができた。
「羽村ちゃん、お願い!」
私は目を反らした。その友人が困っていることはわかっていたが、うちだけはダメなのだ。
「……うちは誰も入れちゃいけないことになってるから」
「親友とかでもだめ?」
友人が小首を傾げた。そもそも親友じゃない。気が合うことは認めるけど。
「……うちは絶対誰も入れないってことを条件で借りてるからダメなの。悪いけど他を当たって?」
「一晩ぐらいならバレないんじゃない?」
「絶対にバレるから困ります」
それに私は今日もバイトである。大事な大事な猫との家に、いくらレポート提出期限が明日で、彼女が家に帰っているヒマがないとしても入れるわけにはいけない。それこそマンガ喫茶にでも行ってほしい。
「羽村ちゃんのケチ……」
「そんなに家が遠いなら、いっそのこと大学の近くで下宿したら?」
彼女は実家通いで、片道二時間かかるところから大学に来ているのだ。ちなみに私は県外からで、まともに通おうと思ったら片道三時間はかかる。だからこちらの物件を借りたのである。
「うーん……通学の交通費程度で借りられれば考えるけど……さすがに月々三万円では借りられないよねー」
どきっとした。うちは家賃と管理費込みで月三万円である。
「羽村ちゃんが借りてるところっていくらなの?」
キター!
私は物件を借りる際の条件をどうにか思い出した。
「……管理費は一万円だけど……」
「えっ!? 高いじゃん!」
「管理費は確かに高いけど、家賃は格安なの」
「じゃあその家賃は?」
「んーと、それは……部屋によって家主さんが違うから家賃は違うんだって。気になるなら不動産屋さんに紹介しようか?」
「そうねー……家賃が格安ってのは気になるかも。今度紹介して!」
ってことでその日はそれで話が終った。私は友人を家に招かなくてすんでほっとした。でも彼女うちの大体の位置を知ってるんだよね? 表札はバカ丁寧に名前を書いてあるからもし押しかけられたらどうしよう。
ちょっと心配になった。家に電話はないし、猫が電話を取れるとも思えない。
「茶々さんと連絡を取る手段がない……」
仕事をすることになったのならスマホぐらい支給されないんだろうか。そんなことを考えながらどうにかバイトを終えて店を出たら、
「え?」
ちょうど私の目に入る位置に人型の猫がいた。
「さや」
「え? ど、どうしたの、茶々さん……」
意外すぎて思わずどもってしまった。ただでさえ猫は美形でイケメンなのである。表に出てくるのはともかく私と一緒にいてはいけないのではないか。
「さやが呼んでいる気がしてのう」
「よ、呼んでない、デス……」
でも連絡を取りたいとは思っていた。だって友人が押しかけてきたりしたら困るし。頬が熱くなった。バイトに迎えに来てくれる彼氏とか、実は憧れていたのだ。
「そうか。ならばわしが迎えにきたかったのだ」
その笑顔が眩しすぎます。夜なのになんかすごいです。
「……茶々さん」
「なんだ?」
「……ありがとう。嬉しい」
「……さや」
猫はため息をついた。
「頼むから、わしを試すのはやめてくれ」
試す? と思ったけど、その時には手を繋がれて帰路についていた。もし私に尻尾があったら高速でぶんぶん振られていたに違いないと思う。それぐらい猫が迎えにきてくれたのは嬉しかった。
「あっ、羽村ちゃん!」
家の近くで、友人に声をかけられた。やっぱりうちに押しかけてくるつもりだったらしい。
「ええっ!? 彼氏? じゃあやっぱりダメかぁ……」
私はぶんぶんと首を縦に振った。そうなんです。猫は私の大事な旦那さま候補なんです! 誰にもあげたくありません!
「だ、だからダメって言ったじゃない!」
「わかったー……今度不動産屋さん紹介してねー……」
友人はすごすごと去っていった。どうするつもりなんだろうと心配になったが、うちには入れられないのだからしかたない。
「さやの友人か?」
「はい。レポートが終らないから泊めてって言われたんですけど、うちは無理ですし」
「そうだな。しばし待て」
猫は当たり前のようにスマホを取り出した。後で連絡先を交換させてもらおうと思った。
「わしだ。……そうだ。よろしく頼む」
それだけ言って猫は電話を切った。なにか用事があったらしい。
「茶々さん、後でスマホの番号交換させてください。連絡取りたい時に取れないと困りますんで!」
「わしはこういう機械はとんとわからぬのだが」
「やり方調べますから!」
そう食い下がり、私たちは家に帰った。
しばらくして友人から、
「今夜はどうにかなったよー。お騒がせしてごめんねー」
というLINEが入ってきた。どうにかなってよかった、と私は胸を撫で下ろしたのだった。
神様が働くって何をするのか知らないけど、国としては神様や妖怪の存在を把握しておくのは重要なのだそうだ。
飼い殺し、という言葉は脳裏に浮かんだが、神様も妖怪もわかっていて国に所属しているのだろう。それなら私がとやかく言うことではない。
さて、私も大学に入学して二か月が好きだ。その間に一応友人なるものができた。
「羽村ちゃん、お願い!」
私は目を反らした。その友人が困っていることはわかっていたが、うちだけはダメなのだ。
「……うちは誰も入れちゃいけないことになってるから」
「親友とかでもだめ?」
友人が小首を傾げた。そもそも親友じゃない。気が合うことは認めるけど。
「……うちは絶対誰も入れないってことを条件で借りてるからダメなの。悪いけど他を当たって?」
「一晩ぐらいならバレないんじゃない?」
「絶対にバレるから困ります」
それに私は今日もバイトである。大事な大事な猫との家に、いくらレポート提出期限が明日で、彼女が家に帰っているヒマがないとしても入れるわけにはいけない。それこそマンガ喫茶にでも行ってほしい。
「羽村ちゃんのケチ……」
「そんなに家が遠いなら、いっそのこと大学の近くで下宿したら?」
彼女は実家通いで、片道二時間かかるところから大学に来ているのだ。ちなみに私は県外からで、まともに通おうと思ったら片道三時間はかかる。だからこちらの物件を借りたのである。
「うーん……通学の交通費程度で借りられれば考えるけど……さすがに月々三万円では借りられないよねー」
どきっとした。うちは家賃と管理費込みで月三万円である。
「羽村ちゃんが借りてるところっていくらなの?」
キター!
私は物件を借りる際の条件をどうにか思い出した。
「……管理費は一万円だけど……」
「えっ!? 高いじゃん!」
「管理費は確かに高いけど、家賃は格安なの」
「じゃあその家賃は?」
「んーと、それは……部屋によって家主さんが違うから家賃は違うんだって。気になるなら不動産屋さんに紹介しようか?」
「そうねー……家賃が格安ってのは気になるかも。今度紹介して!」
ってことでその日はそれで話が終った。私は友人を家に招かなくてすんでほっとした。でも彼女うちの大体の位置を知ってるんだよね? 表札はバカ丁寧に名前を書いてあるからもし押しかけられたらどうしよう。
ちょっと心配になった。家に電話はないし、猫が電話を取れるとも思えない。
「茶々さんと連絡を取る手段がない……」
仕事をすることになったのならスマホぐらい支給されないんだろうか。そんなことを考えながらどうにかバイトを終えて店を出たら、
「え?」
ちょうど私の目に入る位置に人型の猫がいた。
「さや」
「え? ど、どうしたの、茶々さん……」
意外すぎて思わずどもってしまった。ただでさえ猫は美形でイケメンなのである。表に出てくるのはともかく私と一緒にいてはいけないのではないか。
「さやが呼んでいる気がしてのう」
「よ、呼んでない、デス……」
でも連絡を取りたいとは思っていた。だって友人が押しかけてきたりしたら困るし。頬が熱くなった。バイトに迎えに来てくれる彼氏とか、実は憧れていたのだ。
「そうか。ならばわしが迎えにきたかったのだ」
その笑顔が眩しすぎます。夜なのになんかすごいです。
「……茶々さん」
「なんだ?」
「……ありがとう。嬉しい」
「……さや」
猫はため息をついた。
「頼むから、わしを試すのはやめてくれ」
試す? と思ったけど、その時には手を繋がれて帰路についていた。もし私に尻尾があったら高速でぶんぶん振られていたに違いないと思う。それぐらい猫が迎えにきてくれたのは嬉しかった。
「あっ、羽村ちゃん!」
家の近くで、友人に声をかけられた。やっぱりうちに押しかけてくるつもりだったらしい。
「ええっ!? 彼氏? じゃあやっぱりダメかぁ……」
私はぶんぶんと首を縦に振った。そうなんです。猫は私の大事な旦那さま候補なんです! 誰にもあげたくありません!
「だ、だからダメって言ったじゃない!」
「わかったー……今度不動産屋さん紹介してねー……」
友人はすごすごと去っていった。どうするつもりなんだろうと心配になったが、うちには入れられないのだからしかたない。
「さやの友人か?」
「はい。レポートが終らないから泊めてって言われたんですけど、うちは無理ですし」
「そうだな。しばし待て」
猫は当たり前のようにスマホを取り出した。後で連絡先を交換させてもらおうと思った。
「わしだ。……そうだ。よろしく頼む」
それだけ言って猫は電話を切った。なにか用事があったらしい。
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「わしはこういう機械はとんとわからぬのだが」
「やり方調べますから!」
そう食い下がり、私たちは家に帰った。
しばらくして友人から、
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