求婚はスイーツで

浅葱

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3.ファースネイト(魅了する)

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 客観的に見て、セネガは気配りのできる青年だった。
 元々亜人の男性は女性をとにかく大切にする。荷物持ちは当り前、基本は先に歩き、何かあれば即座に対処する。体格も女性より一回り近く大きいということもあるが、女性が相対的に少ないというのが一番の理由だろう。
 それだけでなくセネガはちょうど結婚適齢期だった。成人してから伴侶が見つかるまでの亜人の男女は異性を惹きつけるフェロモンを放つ。それは成人が近い未婚の男女にも影響を及ぼすので、結婚適齢期の男性は成人前の女子にも近づきたがるのだ。
 エレインは人族なのでそれほどフェロモンの影響は受けなかったが、セネガには好感を持った。

「ただいま」
「あ! 母さん、エレイン! 人族の商人が森の方へ行ったって聞いたけど大丈夫だったかい!?」

 帰宅すると義弟が慌てたように近づいてきて怒鳴るように言った。義弟、と言ってもエレインの一歳下だから彼女よりも体格はでかい。そんな大きな少年に詰め寄られてエレインは一歩後ずさった。

「エルダー、落ち着きなさい。お父さんたちが来てくれたし、セネガも送ってくれたから大丈夫よ」
「そうか、よかった。ありがとうセネガ兄さん」

 義弟は養母の言葉にほっとしたように息をついた。

「いや、当り前のことだ。では失礼します」

 エレインがお礼を言う間もなく、セネガは戻っていった。彼女はただその背中を見送ることしかできなかった。
 閉じられたドアを少しの間ぼうっと見つめるエレインの様子を、養母と義弟が窺っていたことに彼女は全く気づかなかった。
 

 外出すると誰かに迷惑がかかるらしいと気づいたエレインは、それからは家の庭ぐらいにしか出なくなった。
 そうは言っても村の家々の敷地は広い。個人の家の庭もテーブルセットが置けて、家庭菜園なのに普通の畑かと思うぐらいの広さはあった。敷地の区切りは木の柵なので外から誰かが覗こうと思えば庭を見ることはできたが、年頃の娘のいる家の周囲は自警団が毎日巡回しているので安心だった。
 セネガはエレインの養父母の家付近の巡回を担当しているらしく、彼女はよく彼の姿を見かけた。
 彼はエレインから見ても格好良く映った。

(女性が少ないとは聞いてるけど、恋人とかいないのかな?)

 義弟もそれなりに格好いいとは思うが気になるほどではない。義弟も亜人の男らしく養母やエレインを大切にしてくれているとは思うが何が違うのだろうと彼女は首を傾げた。

(あ、でも)

 都会で引き取られていた家族のことをエレインは思い出した。養父母は彼女に対してとても親切だったが、義兄にはことあるごとにからかわれていた気がする。そういえばそんな義兄も結婚適齢期ではなかったか。嫌い、というほどではなかったがエレインは義兄が苦手だった。

(やっぱりみんながみんなそうなわけはないよね)

 義兄から言わせるとエレインが人族だったからかもしれないが。
 そう思ったら彼女は少し悲しくなった。別に義兄に親切にしてほしかったわけではないが、もし亜人族にとって人族が恋愛対象外だったらと考えてしまったのだ。そしてそんなことを考えてしまったことを自己嫌悪した。

(なんか私おかしいのかな……)

 柵の側で花殻を摘んでいたら今日もセネガが通りかかった。

「こ、こんにちは!」

 エレインは意を決して声をかけてみた。するとセネガが驚いたように目を見開き、少し困ったように笑んだ。

「こんにちは、エレイン嬢。まだ成人していないとはいえ、むやみに男に声をかけてはいけないよ」
「あ……ご、ごめんなさい……」

 まだそういったことを真面目に教えられたことがなかったエレインは意気消沈し、柵から一歩後ずさった。そんな彼女の手を、柵の向こうからセネガがそっと触れた。

「男はオオカミだから、気をつけて」

 そう言って流し目をくれるセネガに、エレインは真っ赤になった。

「は、はいいいいい~~~~!!」

 そして悲鳴のような声を上げながら彼女は家の中に逃げ戻ったのだった。

 
「な、なにあれなにあれなにあれ~~~!?」
「あら? エレインどうかしたの?」
「な、ななななんでもないですなんでもありません!!」

 不思議そうに養母に聞かれたが、エレインはぶんぶんと首を振ることしかできなかった。
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