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48.この世界なりのルールがあるらしい

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 メイニー村の村長がため息をついた。

「……だからなんだというのです?」
「あぁ? そこの男たちが”稀人”なら分けろって言ってんだよ。今回は協定違反をしたんだから三人は寄こしな!」

 ジャンニー村の代表者と思しき女性が偉そうに言う。悪いけど僕は嫌だなと思った。

「”稀人”の意志を尊重しない場合、”稀人”がいなくなってしまうことは知っているでしょう? それとも、先代の村長から聞いていないのですか?」

 こちらの村長が煽るようなことを言った。
 僕たちは”稀人”と呼ばれているらしいけど、いなくなってしまうとはいったいどういうことなんだろう。小平と顔を見合わせた。
 ジャンニー村の女性はチッと舌打ちをした。

「……少なくとも二人はもらうぞ」
「意志の確認は必要です。”稀人”は何も知りませんから、無理矢理連れて行くというのもなしですよ」
「あー、もう! 面倒臭えなあ!」

 緑頭の女性は頭をガシガシ掻いた。そんな乱暴に扱ったら髪が抜けてしまいそうだなと思った。

「どーすりゃいいんだよ?」
「何人かこちらの里でお過ごしいただければいいのではないですか? それでお互いを知り合えばそちらの村に移住したいと思われるかもしれません。ただし……いろいろ壊してくださったので、修理と援助はお願いしますね?」
「元はと言えばお前らがっ!」
「そのような強い口調で話されると、”稀人”が怯えてしまいますわ」

 こちらの村長、口はとにかく達者らしい。緑頭の女性をやり込めていく。

「ぐっ……」

 どうやら争いは継続しないみたいなので、僕はほっとした。現代日本は平和だから、まずこんな建物を壊すような争いってなかなかないしな。……他の国では違うけどさ。

「……わかった。こちらから十人向かわせる。うちの女共を”稀人”が気に入ってうちに来たいっつーなら引き止めるなよ?」
「ええ、もちろんです。もう”稀人”の方々は建物の中に入れてもいいですよね?」
「顔を見せろ」

 緑頭の女性はそう言うと、こちらの女性たちをかき分けるようにして僕たちの前に立った。

「ふぅん? ま、必要なのは種だからな」

 彼女は僕たちを眺めると、そう言って踵を返した。どうやらあの女性は僕たちをお気に召さなかったらしい。内心ほっとした。ジャンニー村に行くなんてごめんだ。

「旦那さま、どうぞこちらへ」

 女性たちに促されて建物の中に戻る。

「ぼ、僕は部屋に戻ってもいいんだよなっ!?」

 前髪長男が変な高い声で怒るように言った。

「はい、ご不便をおかけしました。部屋へ戻りましょう」
「ふ、ふんっ! なんだあの女たちは!」

 前髪長男は虚勢を張るように渡り廊下をだんだんと音を立てて歩いていった。怖かったんだろうなと思った。気持ちはわかる。

「けっ、情けねーヤツ」

 そう言うロンゲだって足が少し震えている。指摘はしない。僕もすごく怖かったから。小平を見やると、笑いかけられた。一番余裕なのはコイツなんだよな。

「じゃあまた」
「またな」

 僕はゆかりさんに伴われてやっと部屋に戻った。つってもどこも似たような建物だから本当に自分が与えられた部屋なのかわからない。一応押し入れの長持には僕の私物がしまってあるが、それも出さなければわからないのだ。
 ゆかりさんは僕に座布団に座るよう促すと、お茶を淹れてくれた。

「ありがとう」

 礼を言うと微笑んでくれる。やっぱりゆかりさんのことが好きだと思う。お茶を半分ほど飲んだところで障子の向こうから声がかかった。

「かやでございます。よろしいでしょうか」

 固い声だった。ゆかりさんが僕を見る。入れてもいいかと聞いているようだった。

「いいよ」
「……失礼します」

 かやは膝立ちで部屋に入ってきた。そしてゆかりさんと共に、平伏した。

「えっ?」
「旦那さま、このようなことになってしまい、誠に申し訳ありません!」

 二人に悲痛な声で謝られて困惑した。別に彼女たちが僕に謝ることなんてないと思う。

「え? いや、僕はなんとも思ってないから顔を上げてくれ」
「な、なんとも……ですか……」

 かやが消え入りそうな声を発した。あれ? なんか間違っただろうか。

「えーと。僕はこちらの、しきたりみたいなものはわからないからなんとも言えないというか……ただお世話をしてもらっている立場だからね。だから、どうしても無理ってこと以外は僕が言うべきことはないし……」

 自分でも何を言っているんだかわからない。
 ゆかりさんが顔を上げ、ふふっと笑った。

「……旦那さまらしいですわ」
「ゆかりさんはさ……その、終わったの?」

 生理が、とはなんか言えなくて曖昧な聞き方になってしまった。

「はい。昨日ちょうど終わりました。ですがその後も二、三日は様子をみるようにしております」
「そうなんだね」

 内心がっかりした。ゆかりさんに会えたことで、もしかしたら抱かせてもらえるかも? なんて浅ましいことを考えていたからだ。

「旦那さまをお迎えすることはできませんが、気持ちよくなっていただきたいですわ。よろしければこちらの、かやと共にお情けをいただいてもよろしいでしょうか?」

 なんという誘惑だろう。鼻血が出そうだった。
 そしてここで拒むなんて選択肢は僕にはない。

「よ、よろしくお願いします!」

 僕が三つ指をつくような勢いで、ゆかりさんたちにお願いしたのだった。
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