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46.久しぶりに彼女に会えたのだけれど

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 ……あれは、なんだろう。
 そう思った時、僕は自分の目を疑った。
 木の格子状の何かが見える。何度か瞬きをしたが、それが消えることはなかった。

「……え?」
「旦那さま、お目覚めですか?」
「あ……」

 格子の向こうから顔が覗く。それは久しぶりともいえるゆかりさんのものだった。

「ゆかりさん……」

 僕は身体を起こし、ふらふらと格子に近づいた。

「まだ本調子ではございませんでしょう? もう少し休んでくださいませ」
「これは、何?」

 格子に触れる。なんだかまるで、僕は牢屋の中かなにかにいるみたいだった。
 ゆかりさんが笑む。

「旦那さまを保護する為に入っていただきました。無事済みましたら出られますので、ご不便をおかけしますがそちらで休んでいてくださいませ」
「済むって……何が?」

 ゆかりさんが苦笑する。

「それはお答えできません」

 きっぱりと言われて、そうなのかと納得した。どちらにせよ僕はこの村では部外者でしかない。でも僕をこんな牢屋みたいなところに閉じ込める理由を考えるのは自由だろう。

「そう……水をもらっていいかな?」
「はい、今お茶をお持ちします」

 そう言ってゆかりさんは立ち上がった。
 僕は布団に寝かせられていた。布団はいつも使っているのと大差ない。布団の下は畳である。部屋の隅には壺のような物が置かれている。多分あれでトイレをしろということなのだろう。
 僕はいつも通り着物を着せられている。へんな臭いもしない。本当にただ僕を保護する為にここに入れたみたいだ。
 格子は木組みでがっちりとしている。簡単には壊せそうもない造りだった。
 牢屋の中には灯りはないからどうしてもこちら側は暗いが、格子の向こうはそれなりに明るい。

「お待たせしました」
「ありがとう」

 格子自体は大きいのでお茶ぐらいは受け取れる。一瞬、睡眠薬とか入れられてないよな? と考えてしまった。でも喉が渇いているからまぁいいかとも思う。確か解毒の魔法があったはず、と自分の中の魔法を探ろうとしたら頭が痛んだ。

「ッ……!」
「旦那さま、魔法を使ってはなりません。一時的に使えなくしておりますので、無理に使おうとすれば身体に触ります」
「……え?」

 さらりとゆかりさんに言われて、戸惑った。ふと触れた首に、何かが付いているのがわかった。

「こ、これって……」
「魔法を使用できなくする魔道具です。無理に外そうとはなさいませんよう、お願いします」
「なんで……」
「旦那さまを保護する為ですわ。さ、どうぞお茶を」

 ゆかりさんは淡々とそう教えてくれた。なんなんだよ、と叫び出したくなったが、相手が冷静だとこちらも冷静になるらしい。僕は今度こそ素直にゆかりさんからお茶を受け取って飲んだ。

「……おいしい」

 思ったより喉が渇いていたらしく、お茶は喉に沁みた。

「それはようございました」

 ゆかりさんが格子越しににっこりする。

「食事は出るのかな」
「はい、おなかが空きましたらおっしゃってください。ご用意します」
「そっか……」

 ちょっと考える。

「答えられないことは答えなくていいけど、いくつか質問してもいい?」
「私に答えられることでしたら」

 湯のみをゆかりさんに返した。

「僕の他の仲間はどうしてるの?」
「あの方々も別のところで保護しております」
「そっか」

 多分この近くではないんだろう。広い屋敷の中にいくつもこういうところがあるんだろうな。

「何かしているみたいだけど、それっていつ頃終わるのかな?」
「そうですね……」

 ゆかりさんは考えるような顔をした。

「早ければ一日で終わりますが、長引けば三日ぐらいはかかるかもしれません」
「そっか……」

 本当に何をやってるんだろう。
 かやに抱きしめられたと思ったら意識が落ちたんだよな。ってことはあの時かやがなんかしたんだろう。
 そのことはいい。
 その前に確かなんかバタバタ音が聞こえて……。

「ゆかりさん、ジャンニー村って何? ここはメイニー村だよね?」
「……もう、旦那さまは察しが良くて困りますわ」

 ゆかりさんはため息混じりにそう言った。そして困ったような顔をする。どこまで俺に話すべきか葛藤しているみたいだった。
 その間に僕も考えることにした。
 あの時確か、「ジャンニー村がっ!」って切羽詰まったような声が聞こえた。ってことは村同士でなんかあるのかな。それに僕たちがこんなところに閉じ込められる理由はなんだろう。
 ……そういえばこの世界は男が極端に少ないと言っていた。
 もしかして。

「……男の取り合い、とか?」

 自分で口に出して恥ずかしくなった。僕は好きな女子をただ眺めているだけの奴だった。その女子にカレシができたのを見て悔しいけど目を逸らすような、そんな奴だったのに。ここに来たら種馬という程度の役割でも、女性たちに求めてもらえるのが嬉しくてたまらなかったんだ。

「旦那さま……」
「あっ、ごめん。今のは忘れてください……」

 女性たちに乗っかってもらってるからうぬぼれました、ごめんなさい。最後は消え入りそうな声になってしまった。

「旦那さまは察しが良くて本当に困りますわ……」

 ゆかりさんは同じことを言ったけど、その声は笑っているようにも聞こえた。

「そうなのです。私たちは旦那さまを奪われたくないのですよ」
「えっ……?」

 顔を上げてゆかりさんを見る。ゆかりさんはとても優しい笑みを浮かべていた。
 やっぱり村同士の、男を巡る争いらしいということはわかったけど、なんで今になってとも思ったのだった。
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