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四、
3.更に混乱してきました
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「ウキンノ!? どうして君がここに……」
それまで頬を紅潮させてヒロインとにこやかに話していたロウヒョの顔は、一気に青ざめた。
そんなヒロインたちに向かってウキンノはのっしのっしと近づいていく。二人は猫にロックオンされたネズミのごとく動けなくなった。
ああもうこんな時に限って誰もいないんだから!
「ちょっと、そこのあなた!」
「えっ、俺!?」
野次馬の男子一人を指さす。
「そう貴方よ貴方! リングオ王子を連れてきてちょうだい!」
「えっ? は、はいっ!」
男子生徒は弾かれたように隣国の第三王子である、レックス・コンプ・ミコイモー・リングオを呼びに走っていった。今この王立学園に在学中で頼りになりそうなのはリングオ王子ぐらいしかいない。
「ロウヒョ、何故お前のような者がイテイーサ嬢と共にいる? イテイーサ嬢はザワーオ様の……」
「そんなことはわかっている! だが私は彼女が好きなのだ。王子の第二夫人にさせるぐらいなら私がいただきたいと思っているのだ!」
「なんだってっ!?」
野次馬が更に増えた気がする。ヒロインの目にはもうハートマークが散っている。そろそろ私の為に争わないでっ! とか言いだしそうな雰囲気だ。やっぱり私逃げてもいいかな?
「……サワクーロ様、どうしましょう……」
ヒロインのクラスメイトたちが怯えているのを見て、さすがに逃げるわけにはいかないと思った。隣国の王子はいったいどこにいるわけ? 早く来てもらわないと困るのだけど。
「リングオ王子を呼んできてもらっているから……来ていただければと思うのだけど……」
「いくら公爵家の息子だからといってお前は調子に乗りすぎではないのかっ!」
「調子になど乗っていない! 私は彼女に会いたくてここに来ているんだ。ザワーオ様にも先日お会いしている!」
ロウヒョは蒼褪めながらも果敢に言い返している。ひょろひょろしてて頼りない容姿をしているロウヒョだが、こんな頼もしい一面もあったようだ。私は素直に感心した。
とはいえただ見ているだけというわけにもいかないだろう。
さすがに殴られることはないだろうがあの間に入るのはちょっと怖い。なのに目にハートマークを散らしたまま二人の男を見ているヒロインは一種異様にも見えた。相変わらずあの娘は状況が正しく見えていない。
「イテイーサ嬢」
「シーアン! どうしよう、二人がっ!」
「……貴女しっかり喜んでるじゃないのっ!」
ヒロインの顔が崩れている。さすがにその顔はないだろうと呆れた。ギャラリーがいなければほっぺみにょーんの刑にするところだ。
「サワクーロ嬢、イテイーサ嬢に何をする気だ!? いくらイテイーサ嬢の方が美しいからといって嫌がらせをするつもりではあるまいな!」
ウキンノは目ざとくヒロインに近づいている私に怒鳴った。
言っとくけど今はヒロインの方からかけよってきたのだ。とんだウェットクロスである。
ヒロインは小首を傾げた。
「私の方が美しい? ウキンノ様の顔の好みが私ってことかしら?」
私は青くなった。先ほど近くで話していた時に、この魔法のような化粧がウキンノに見破られてしまったのかもしれない。こうなったらなんとしてでもウキンノの口を塞がなければと思ったけどその機会はなかった。
「イテイーサ嬢の方が何倍も美しいに決まっている。サワクーロ嬢など、厚化粧で美しく見せているだけではないかっ!」
よりにもよって厚化粧とか言いだしたー!
いや、うん、まぁそうだけどさ……侍女たちに作ってもらうのはいいけどけっこう時間かかるんだよね、この顔。厚化粧というよりもはや芸術作品だと私は思っているんだけどどうだろう。
「厚化粧!?」
野次馬が激しく反応し、じろじろと顔にぶしつけな視線を浴びせられた。
そーですよ、どーせ厚化粧で美しく見せているだけですよ。なんか文句あっか。
私はすっかりやさぐれてしまった。
今日はもう散々だ。自分のクラスでもないのにウエイトレスはやらされるわ(引き受けたのは私だけど)、いきなり現れた騎士団長の息子に言いがかりはつけられるわ、しまいには化粧をバラされるわで。今度こそ私帰ってもいいよね?
「ウキンノ様」
内心泣きそうになっていたら、ヒロインが顔を上げた。そしてキッとウキンノを睨みつける。
「……なんだ?」
「女性の容姿についてそんなことを言うなんて、ウキンノ様には失望しました! シーアンに謝ってください!」
「なっ……」
ウキンノは絶句した。
それと同時に、私は後ろからそっと抱き寄せられた。全然気づかなかった。
「?」
この香りはかぎ覚えがある。
「そうだな。何を言ったか知らないがイテイーサ嬢を怒らせるなんて。ダンキシチョウ君、これはいったいどういうことなんだい?」
ここのところよく聞く声にほっとしてしまったことは事実で。
「もしかして、私の最愛の婚約者を泣かせるような真似はしていないだろうね?」
声は楽しげだが、なんというかオーラがまがまがしく感じられる。オーラなんてあるんだなとちょっと現実逃避してみた。
「お、王太子殿下……どうしてここに……」
「私もここの卒業生だよ、ダンキシチョウ君」
ちら、と後ろを見れば隣国王子の姿が見えた。たまたま隣国王子と一緒にいたのだろうか。
いいところで現れてくれたのは間違いないけど、あともう少し早く来てほしかったなと私は思ったのだった。
それまで頬を紅潮させてヒロインとにこやかに話していたロウヒョの顔は、一気に青ざめた。
そんなヒロインたちに向かってウキンノはのっしのっしと近づいていく。二人は猫にロックオンされたネズミのごとく動けなくなった。
ああもうこんな時に限って誰もいないんだから!
「ちょっと、そこのあなた!」
「えっ、俺!?」
野次馬の男子一人を指さす。
「そう貴方よ貴方! リングオ王子を連れてきてちょうだい!」
「えっ? は、はいっ!」
男子生徒は弾かれたように隣国の第三王子である、レックス・コンプ・ミコイモー・リングオを呼びに走っていった。今この王立学園に在学中で頼りになりそうなのはリングオ王子ぐらいしかいない。
「ロウヒョ、何故お前のような者がイテイーサ嬢と共にいる? イテイーサ嬢はザワーオ様の……」
「そんなことはわかっている! だが私は彼女が好きなのだ。王子の第二夫人にさせるぐらいなら私がいただきたいと思っているのだ!」
「なんだってっ!?」
野次馬が更に増えた気がする。ヒロインの目にはもうハートマークが散っている。そろそろ私の為に争わないでっ! とか言いだしそうな雰囲気だ。やっぱり私逃げてもいいかな?
「……サワクーロ様、どうしましょう……」
ヒロインのクラスメイトたちが怯えているのを見て、さすがに逃げるわけにはいかないと思った。隣国の王子はいったいどこにいるわけ? 早く来てもらわないと困るのだけど。
「リングオ王子を呼んできてもらっているから……来ていただければと思うのだけど……」
「いくら公爵家の息子だからといってお前は調子に乗りすぎではないのかっ!」
「調子になど乗っていない! 私は彼女に会いたくてここに来ているんだ。ザワーオ様にも先日お会いしている!」
ロウヒョは蒼褪めながらも果敢に言い返している。ひょろひょろしてて頼りない容姿をしているロウヒョだが、こんな頼もしい一面もあったようだ。私は素直に感心した。
とはいえただ見ているだけというわけにもいかないだろう。
さすがに殴られることはないだろうがあの間に入るのはちょっと怖い。なのに目にハートマークを散らしたまま二人の男を見ているヒロインは一種異様にも見えた。相変わらずあの娘は状況が正しく見えていない。
「イテイーサ嬢」
「シーアン! どうしよう、二人がっ!」
「……貴女しっかり喜んでるじゃないのっ!」
ヒロインの顔が崩れている。さすがにその顔はないだろうと呆れた。ギャラリーがいなければほっぺみにょーんの刑にするところだ。
「サワクーロ嬢、イテイーサ嬢に何をする気だ!? いくらイテイーサ嬢の方が美しいからといって嫌がらせをするつもりではあるまいな!」
ウキンノは目ざとくヒロインに近づいている私に怒鳴った。
言っとくけど今はヒロインの方からかけよってきたのだ。とんだウェットクロスである。
ヒロインは小首を傾げた。
「私の方が美しい? ウキンノ様の顔の好みが私ってことかしら?」
私は青くなった。先ほど近くで話していた時に、この魔法のような化粧がウキンノに見破られてしまったのかもしれない。こうなったらなんとしてでもウキンノの口を塞がなければと思ったけどその機会はなかった。
「イテイーサ嬢の方が何倍も美しいに決まっている。サワクーロ嬢など、厚化粧で美しく見せているだけではないかっ!」
よりにもよって厚化粧とか言いだしたー!
いや、うん、まぁそうだけどさ……侍女たちに作ってもらうのはいいけどけっこう時間かかるんだよね、この顔。厚化粧というよりもはや芸術作品だと私は思っているんだけどどうだろう。
「厚化粧!?」
野次馬が激しく反応し、じろじろと顔にぶしつけな視線を浴びせられた。
そーですよ、どーせ厚化粧で美しく見せているだけですよ。なんか文句あっか。
私はすっかりやさぐれてしまった。
今日はもう散々だ。自分のクラスでもないのにウエイトレスはやらされるわ(引き受けたのは私だけど)、いきなり現れた騎士団長の息子に言いがかりはつけられるわ、しまいには化粧をバラされるわで。今度こそ私帰ってもいいよね?
「ウキンノ様」
内心泣きそうになっていたら、ヒロインが顔を上げた。そしてキッとウキンノを睨みつける。
「……なんだ?」
「女性の容姿についてそんなことを言うなんて、ウキンノ様には失望しました! シーアンに謝ってください!」
「なっ……」
ウキンノは絶句した。
それと同時に、私は後ろからそっと抱き寄せられた。全然気づかなかった。
「?」
この香りはかぎ覚えがある。
「そうだな。何を言ったか知らないがイテイーサ嬢を怒らせるなんて。ダンキシチョウ君、これはいったいどういうことなんだい?」
ここのところよく聞く声にほっとしてしまったことは事実で。
「もしかして、私の最愛の婚約者を泣かせるような真似はしていないだろうね?」
声は楽しげだが、なんというかオーラがまがまがしく感じられる。オーラなんてあるんだなとちょっと現実逃避してみた。
「お、王太子殿下……どうしてここに……」
「私もここの卒業生だよ、ダンキシチョウ君」
ちら、と後ろを見れば隣国王子の姿が見えた。たまたま隣国王子と一緒にいたのだろうか。
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