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四、
2.攻略対象が来ました
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「このスカート、ちょっと短すぎない?」
「そんなことはないですよ!」
男子生徒ににこにこしながら言われるのもどうかと思うのだけど? 女子生徒は頬を染めながらも楽しそうに着ているからいいことにしよう。こんな機会でもなければこういった衣裳は着られないものね。
ヒロインのクラスの喫茶店で用意されたウエイトレスの衣裳はセミオーダーである。
デザインはみな同じで、体型に合わせて衣裳を作ってくれるというやつだ。赤いウエイトレスの衣裳は全体的にひらひらしていて、頭にはヘッドドレス、スカートの部分は学園の制服よりも短めだった。白いニーハイを履いたらもう絶対領域万歳と言いたくなる、まさに誰得なのかという衣裳である。とりあえずこの衣裳を発注した奴出てこい。
そんな衣裳を着せられて、午前中だけだからとヒロインのクラスの教室で、私はウエイトレスをしていた。
学園祭の開始時間は午前十時だった。午前中というと普通は十二時までだが、交替は1回ということで午前を一時までにしたそうだ。それはもう午前中じゃないだろうと思うのだけど引き受けてしまったのだからしょうがない。ウエイトレス役は私を含めて全部で十名。それを午前と午後に分けたので五名ずつで対応する。
十一時ぐらまでは誰も来なかったが、その後ちらほらと客が来るようになった。十二時には喫茶店の席は満席になり、待ってもらうか別の模擬店に行ってもらうことになる。私はその案内役をかって出たのだが、それがよろしくなかった。
教室の外で客をさばいていた私の目の前に、いきなりがたいのでかい男が現れた。
それはすでに卒業したはずの騎士団長の息子だった。
騎士団長の息子は背が高く、がたいもでかい。精悍な顔つきをしており、見た目だけならばカッコイイ。
しかしその性格はいただけない。
「公爵令嬢ともあろう女性がそんなハレンチな恰好をして恥ずかしいと思わないのか!」
憎々しげに睨みつけながらそんなことを言われ、私は肩を竦めた。
ハレンチって、なんて古風な言い回しなのかしら。
「これはイテイーサ嬢の代わりに着ているだけですわ。本来はイテイーサ嬢が着る衣裳ですのよ?」
ムッとして言えば騎士団長の息子こと、ウキンノ・ニクキン・ダンキシチョウ子爵令息は愕然とした顔をした。
「う、嘘をつくな!」
「あら? 私がそんな嘘をつく必要がどこにありまして?」
ウキンノの顔は真っ赤だ。
王太子もそれなりに背が高く逞しい身体つきをしているから多少その大きさに慣れてはいるけど、そうでなかったら私も委縮してしまったかもしれないと思う。
威圧感マシマシで睨みつけるとか、大声を出すとか本当にやめてほしい。お前はモラ男か。
「あるだろう! イサイーサ嬢にザワーオ様を譲ったような顔をして、本当は王太子殿下と恋仲だったのだろう!」
「……その噂、いったいどこまで流れているんですの?」
私はげんなりした。
くだんの隣国王子が言い出さなくても誰かが言うことは間違いなかったが、はっきり言って私は無罪だ。私は修道院に行く予定だったのに、それを阻止したのはジンセンバニお兄様や王太子である。
「噂だと? 真実だろう?」
確信を持ったような言い方をしない。その根拠はなんなんだ。
「王太子殿下と恋仲だったことなどありませんわ。お客様ではないのでしたら他の場所へ行ってくださらない?」
野次馬ばかり集まってとんだ営業妨害である。
「イテイーサ嬢はどこだ?」
「さあ? そのうち戻ってくるのではないかしら」
「ではここで待たせてもらう」
「お客様ではないのでしたら他の場所へ行ってくださいな。ここは喫茶店ですのよ」
いいからとっととどっか行けっつってんだろ。
いいかげんにこやかな笑顔も限界だ。魔法のような化粧にヒビが入りそうである。
「ここはイテイーサ嬢のクラスなのか?」
「そうですわ」
ウキンノは今頃になってようやくクラスを確認したらしく、信じられないような顔をした。本当に遅いと思う。
去年のヒロインは私と同じクラスだったから驚いたみたいだ。
「……嘘だろう。彼女は学年十位は下らなかったはずだ。やはり貴女が何かしたのか!?」
「どうしてそうなりますの!?」
この思い込みの激しさが嫌なのよ~。
乙女ゲームの攻略相手だった時は、一途で無骨なキャラがツボではあったけど、強引で思い込みが激しいなとは思っていたのだ。それが悪い方に反映されたようなかんじだ。なんか女性関係で詐欺とかに遭いそうなどと余計なことまで考えてしまう。
「彼女がこんなクラスに所属するほど成績を落とすわけがないだろう! 絶対何かの陰謀に決まっている!」
一応模擬店をしている教室の目の前でいつまでもこのやりとりをするわけにはいかないので、少し離れたところに移動はしたが周りからの視線が痛い。またへんな噂が立つのだろうなとため息の一つでもつきたい気分だ。しかも今度は陰謀ときた。ヒロインは自分からやる気をなくして勝手に成績を落としたのだ。それを言ったところでこの男は信用しないだろうが。
これっていつまで続くのだろうと思っていたら、ヒロインがロウヒョと共に戻ってきた。
なんかこれはこれでまずいのではないだろうか。ヒロインは頬を染めてロウヒョと話をしながら戻ってきている。その距離はとても近い。そろそろ腕でも組みそうである。まだ私達に気づいてはいないようだが……。
「ロウヒョ!? 何故お前がイテイーサ嬢と共にいるんだ!?」
私が視線を動かしたのが悪かったのか、ウキンノもまたヒロインたちに気づいてしまった。
これ、誰が収拾するんだろう。
ちょうどいいから私ダッシュで逃げてもいいかな?
「そんなことはないですよ!」
男子生徒ににこにこしながら言われるのもどうかと思うのだけど? 女子生徒は頬を染めながらも楽しそうに着ているからいいことにしよう。こんな機会でもなければこういった衣裳は着られないものね。
ヒロインのクラスの喫茶店で用意されたウエイトレスの衣裳はセミオーダーである。
デザインはみな同じで、体型に合わせて衣裳を作ってくれるというやつだ。赤いウエイトレスの衣裳は全体的にひらひらしていて、頭にはヘッドドレス、スカートの部分は学園の制服よりも短めだった。白いニーハイを履いたらもう絶対領域万歳と言いたくなる、まさに誰得なのかという衣裳である。とりあえずこの衣裳を発注した奴出てこい。
そんな衣裳を着せられて、午前中だけだからとヒロインのクラスの教室で、私はウエイトレスをしていた。
学園祭の開始時間は午前十時だった。午前中というと普通は十二時までだが、交替は1回ということで午前を一時までにしたそうだ。それはもう午前中じゃないだろうと思うのだけど引き受けてしまったのだからしょうがない。ウエイトレス役は私を含めて全部で十名。それを午前と午後に分けたので五名ずつで対応する。
十一時ぐらまでは誰も来なかったが、その後ちらほらと客が来るようになった。十二時には喫茶店の席は満席になり、待ってもらうか別の模擬店に行ってもらうことになる。私はその案内役をかって出たのだが、それがよろしくなかった。
教室の外で客をさばいていた私の目の前に、いきなりがたいのでかい男が現れた。
それはすでに卒業したはずの騎士団長の息子だった。
騎士団長の息子は背が高く、がたいもでかい。精悍な顔つきをしており、見た目だけならばカッコイイ。
しかしその性格はいただけない。
「公爵令嬢ともあろう女性がそんなハレンチな恰好をして恥ずかしいと思わないのか!」
憎々しげに睨みつけながらそんなことを言われ、私は肩を竦めた。
ハレンチって、なんて古風な言い回しなのかしら。
「これはイテイーサ嬢の代わりに着ているだけですわ。本来はイテイーサ嬢が着る衣裳ですのよ?」
ムッとして言えば騎士団長の息子こと、ウキンノ・ニクキン・ダンキシチョウ子爵令息は愕然とした顔をした。
「う、嘘をつくな!」
「あら? 私がそんな嘘をつく必要がどこにありまして?」
ウキンノの顔は真っ赤だ。
王太子もそれなりに背が高く逞しい身体つきをしているから多少その大きさに慣れてはいるけど、そうでなかったら私も委縮してしまったかもしれないと思う。
威圧感マシマシで睨みつけるとか、大声を出すとか本当にやめてほしい。お前はモラ男か。
「あるだろう! イサイーサ嬢にザワーオ様を譲ったような顔をして、本当は王太子殿下と恋仲だったのだろう!」
「……その噂、いったいどこまで流れているんですの?」
私はげんなりした。
くだんの隣国王子が言い出さなくても誰かが言うことは間違いなかったが、はっきり言って私は無罪だ。私は修道院に行く予定だったのに、それを阻止したのはジンセンバニお兄様や王太子である。
「噂だと? 真実だろう?」
確信を持ったような言い方をしない。その根拠はなんなんだ。
「王太子殿下と恋仲だったことなどありませんわ。お客様ではないのでしたら他の場所へ行ってくださらない?」
野次馬ばかり集まってとんだ営業妨害である。
「イテイーサ嬢はどこだ?」
「さあ? そのうち戻ってくるのではないかしら」
「ではここで待たせてもらう」
「お客様ではないのでしたら他の場所へ行ってくださいな。ここは喫茶店ですのよ」
いいからとっととどっか行けっつってんだろ。
いいかげんにこやかな笑顔も限界だ。魔法のような化粧にヒビが入りそうである。
「ここはイテイーサ嬢のクラスなのか?」
「そうですわ」
ウキンノは今頃になってようやくクラスを確認したらしく、信じられないような顔をした。本当に遅いと思う。
去年のヒロインは私と同じクラスだったから驚いたみたいだ。
「……嘘だろう。彼女は学年十位は下らなかったはずだ。やはり貴女が何かしたのか!?」
「どうしてそうなりますの!?」
この思い込みの激しさが嫌なのよ~。
乙女ゲームの攻略相手だった時は、一途で無骨なキャラがツボではあったけど、強引で思い込みが激しいなとは思っていたのだ。それが悪い方に反映されたようなかんじだ。なんか女性関係で詐欺とかに遭いそうなどと余計なことまで考えてしまう。
「彼女がこんなクラスに所属するほど成績を落とすわけがないだろう! 絶対何かの陰謀に決まっている!」
一応模擬店をしている教室の目の前でいつまでもこのやりとりをするわけにはいかないので、少し離れたところに移動はしたが周りからの視線が痛い。またへんな噂が立つのだろうなとため息の一つでもつきたい気分だ。しかも今度は陰謀ときた。ヒロインは自分からやる気をなくして勝手に成績を落としたのだ。それを言ったところでこの男は信用しないだろうが。
これっていつまで続くのだろうと思っていたら、ヒロインがロウヒョと共に戻ってきた。
なんかこれはこれでまずいのではないだろうか。ヒロインは頬を染めてロウヒョと話をしながら戻ってきている。その距離はとても近い。そろそろ腕でも組みそうである。まだ私達に気づいてはいないようだが……。
「ロウヒョ!? 何故お前がイテイーサ嬢と共にいるんだ!?」
私が視線を動かしたのが悪かったのか、ウキンノもまたヒロインたちに気づいてしまった。
これ、誰が収拾するんだろう。
ちょうどいいから私ダッシュで逃げてもいいかな?
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