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四、

1.手助けのつもりでした

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第四部開始! たいへんお待たせいたしましたぁっ!(作者大興奮
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「……どうして私が貴女の代わりにウエイトレスをしなければならないのかしら?」
「えーと、似合うから?」

 てへ、と星マークまで散っているように見え、なんだかとても腹が立ったので私ことシーアン・サワクーロ公爵令嬢はヒロインのこめかみに思いっきり梅干し攻撃をしたのだった。

 ここは王立学園二年、ヒロインが所属するクラスの教室である。そう、私が所属するクラスではなく、あくまでヒロインのクラスだ。(大事なことなので二度言いました)
 明日からは学園祭。学園祭の期間は二日間である。私のクラスはそれぞれの研究等を発表または展示することになっている。私? 私は無難にジンセンバニお兄様からいただいた花を調べて、特徴や花言葉を書き出し、ドライフラワーや押し花にしてみたわよ? うまく魔術が使えると凍らせて飾るなんてこともできるみたいだけど、残念ながら私には素養がない。せっかくのファンタジー世界なのに魔術が使えないなんて、と思ったりしたものだが使えないものは使えないのだ。残念ながらセカンドチャンスはないのである。

「サワクーロ嬢はやる気があるんだかないんだかわからないね?」

 と持参したドライフラワーと押し花の量を見て担任の教師に言われたけど、なんのことかしら? と首を傾げた。(ちょっと多かったことは認める)
 特に発表することなどはないので学園祭の当日は適当に模擬店などを冷やかして終り、と思っていたのだけれどもそうは問屋が下ろしてくれなかった。
 確かにヒロインこと、リトーネ・イテイーサ男爵令嬢にそそのかされて一度はこのウエイトレスの衣裳に袖は通した。ウエストも胸の部分もぴったりで、私のサイズはヒロインと同じなのかと愕然としたのだが、ヒロインには睨まれた。ヒロインはどうやら胸に詰め物をしてこのサイズにしていたらしい。

「美人だしウエストも細いし胸もたわわだし……しかも婚約者は王太子だし! なんて憎たらしいのおおっ!」

 訂正しよう。私は美人ではない。侍女たちによる魔法のような化粧で顔面を美しくしてもらっているだけである。言わないけど。

「胸に詰め物なんかしなくてもいいじゃない?」
「たわわなシーアンになんかわかんないわよおおおお!」

 この時はあんまりうるさいのでほっぺみにょーんの刑に処した。ヒロインのほっぺはよく伸びる。
 そんなわけでこの衣裳を私が着れることはわかっていたのである。
 話を戻そう。
 ヒロインは学園祭の二日間、クラスの喫茶店でウエイトレスをすることになっていた。だが前日である今日になって宰相の息子であるロウヒョ・ワヨキ・ショウサイ公爵令息から、明日の午前中学園祭を見て回らないかというお誘いがあったというのだ。

「ねっ! だからシーアンお願い! 明日の午前中だけでいいの!」
「貴女のクラスの人に頼んだらいいじゃないの」
「この衣裳を着れる女子が他にいないのよ!」

 ヒロインの体型に合わせて作られた衣裳である。胸のサイズはともかくウエストがちょっとばかり細いかもしれない。こればっかりはヒロイン補正だからしょうがないのだろうと思う。

「……私ウエイトレスなんてやったことないわよ?」

 元の世界でもね。

「大丈夫、テーブルに案内して、メニュー表から注文をとってそれを給仕すればいいだけだから!」
「会計は?」
「注文書を会計に回せばそちらでやってくれるわ」
「じゃあ私が直接お金を扱う必要はないのね」
「そう! だからお願いっ!」

 ヒロインは手を合わせた。
 私は少し考える顔をした。正直言ってそれがよくなかったのだろうと思う。
 ヒロインのクラスメイトに引き合わされ、「じゃあ明日はよろしく!」などと押し付けられてしまった。ヒロインのクラスメイトはさすがに私が公爵令嬢ということで青い顔をしていたが、「どうかよろしくお願いします」と深々と頭を下げられてしまった。
 しょうがないのでメニュー表を確認し、メニューは全て覚えた。
 寮に戻ってから兄やジンセンバニ、そして王太子には明日の午前中はとても忙しくて教室にいないからこないよう言づけてもらった。これでウエイトレス姿は見られなくて済むだろう。
 私は胸を撫で下ろした。

「全く……どうして私が……」

 そう呟きながらも、ヒロインとロウヒョがうまくいったらいいなと思った。


 さて、簡単にだがおさらいをしておこう。
 この世界は乙女ゲームに酷似した世界である。乙女ゲームの内容は、ヒロインことリトーネ・イテイーサ男爵令嬢が王立学園に入学して、第二王子や私こと悪役令嬢ポジションの従兄であるジンセンバニ伯爵令息、宰相令息や騎士団長の息子などの攻略対象とキャッキャウフフの学園生活を送り、最終的にはそのうちの誰かとくっつく、もしくはお友達エンドなどを迎えるというものだった。
 だがここはあくまで酷似した世界の為、ゲームのようにはいかない。ヒロインが第二王子か私の従兄とくっつこうとすれば私が悪役令嬢として排除される可能性もあったが、私は元婚約者だった第二王子とは円満に婚約解消をし、現在不本意ながら王太子の婚約者となっている。本当に不本意だ。(大事なことなので二度言ってみる)対するヒロインは男爵令嬢の為、第二王子の第二夫人となることに現時点では決まっている。
 けれどヒロインは第二夫人は嫌だという。そんなわけでいろいろあって多少仲良くなった私が、ヒロインの為にほんの少しだけ手助けをしてあげているというわけである。
 しかし最終的には本人の努力が物をいうので、あくまで私はサポートにすぎない。
 今回のウエイトレスも、そんなちょっとした手伝いのはずだった。そう、ただそれだけのはずだったのに。

「サワクーロ嬢? 何故君が恰好をしているんだ?」

 どうして卒業したはずの騎士団長の息子がヒロインのクラスに来て、私は憎々しげに睨まれているのだろうか?
 誰か説明してください。
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