【完結】ブラコンの私が悪役令嬢に転生するとどうなる? こうなる

浅葱

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一、

2.努力してみます

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 ベッドの上で侍女から水を受け取り、お昼はどうされますかと聞かれていた時、廊下のむこうからダダダダッという派手な足音が聞こえてきた。それに眉を寄せる。途端部屋の扉がバンッと音を立てて開かれた。扉が痛むからやめてくれ。

「シーア、大丈夫か!?」
「熱が下がったと、聞いて……」

 現れたのは兄のシェーンと従兄のジンセンバニだった。

「あらお兄さま、とジンお兄さま……ごきげんよう」

 ベッドの上からで失礼、と笑んで飲み終わったコップを侍女に渡す。侍女は心得たようにスッと部屋の隅に下がった。

「何をのん気に挨拶など……!」
「ああやはり可愛いお前を王城になど行かせるのではなかった!」

 まだ10歳とはいえ淑女の部屋に堂々と足を踏み入れ、2人はベッドの横に陣取った。兄よ、学園はどうした? あの学園は全寮制でなおかつ今の時間は授業中のはずだが。そして従兄よ、馬車で30分はかかる屋敷からどうやってここへきた? もしかして意味もなく朝から来ていたのでは……。

「ご心配おかけしてごめんなさい。もうすっかりよくなりましたので大丈夫ですわ」

 だからとっとと部屋から出ていけという意思をこめて微笑んでみたのだが、残念ながら効果がない。

「シーア、なんと思いやり深い! やはりもっと早く父に進言し、君に婚約を申し込むのだった!」
「お前になど可愛い妹をくれてやるものか! しかし私の不在時に勝手に王子との婚約を決めてしまうとは……」

 2人とも頼むから私の手を握りながら大げさに嘆くのはやめてくれないだろうか?
 はたから見れば両手に美少年をはべらす身の程知らずの平凡少女という図である。しかし侍女も慣れたもので、「お嬢様は病み上がりで疲れていらっしゃいますから」と二人を部屋から追い出してくれた。

「ありがとう」

 ため息交じりにお礼を言って、しばらく私は思考の海に沈んだ。


 まず乙女ゲームの設定と現状との違いについて整理してみよう。
 ヒロインはシーアンと同い年で、学園にはシーアンに次いで二番目の成績で入学し、新入生代表の挨拶を嫌がったシーアンの代わりに壇上へ上がる。それによりヒロインの顔を全校生徒が覚えるという設定だった。
 前述したシーアンは美少女で成績優秀である。公爵家の令嬢という立場を笠に着て我儘放題しても許されることは間違いない。しかし現実のシーアンは決してまずくはないが平凡顔で頭がいいとも言えない。公爵家の令嬢でなければ王子と婚約はできなかっただろう。
 だが、と首を傾げてみる。
 いくらシーアンより顔も頭もいいからといって、2つ年下の少女にあのような暴言を吐く男と誰が結婚したいと思うのだろうか。
 あれなら従兄のジンセンバニと結婚した方がはるかにましだとシーアンは思う。
 なので王子に婚約破棄されたところで痛くも痒くもない。むしろこちらから婚約破棄させていただきたいぐらいである。あんな暴言王子、ヒロインに熨斗つけてくれてやる。ただゲームが開始するのはヒロインが16歳、学園に入学する年である。それまでの6年間暴言王子の婚約者として耐えられるだろうか。答えは否である。
 どうしたらもっと早く婚約破棄できるだろうか。
 しかし私が悪者になるのはごめんである。円満とまではいかないまでも必要最低限自分にも家にも累が及ばないようにしなければならない。
 その為には決して好きではない勉強もしなければならないだろう。
 ふーっとため息をつく。
 自分と家族の為だ。しかたない。

 それからの私は家庭教師の授業を比較的まともに受けるようになった。運動神経のなさはいかんともしがたいが、とにかく参加することに意義があると礼儀作法やダンスの練習もがんばった。その結果母の覚えがめでたくなり、久しぶりにお褒めの言葉をいただいた。
 まず人に話を聞いてもらうにはそれに見合うだけの行動をしなければならない。
 父と兄に無条件に愛されている私は確かに我儘だ。それ故に母は父と兄をできるだけ私から遠ざけようと苦労していた。

「お母さま、私お父さまに何の仕事をなさっていらっしゃるのかお尋ねしたいと思っていますの」

 とりあえず無邪気に言ってみたがそう簡単に許可が下りるはずもなく、公爵家の現状を調べるのは兄が帰省する夏休みまでできそうもなかった。
 その間いい子でいるのはなかなか骨が折れる仕事だった。しかも心を入れ替えたのは王子妃としての自覚が芽生えたからではないかと好意的解釈をされ、また王城に招かれたりもした。いや、王子妃とかマジ勘弁してほしい。
 王妃と母による、後は若い2人で……というおせっかいにより再び庭園に追い出されると、王子はまた本性を出した。

「いろいろがんばっているらしいと聞いたがそんなことは当然だ。むしろ今までがひどすぎたのだと恥じるべきだ」

 お前にそんなこと言われなくてもわかっている。笑顔の裏でコイツ可愛くねーなと思っていたのはないしょだ。

「勉学に励むのはもちろんだが、もう少し容姿にも気を使え。今のままではこうして側にいるのも苦痛だ」

 容姿ってどうしろと。この10歳のピチピチのお肌にパックでもしろというのか。身なりに関していえば侍女たちがかなり努力してくれたはずだが。

「たいへん申し訳ありません」

 内心はらわたが煮えくり返りそうだが、相手は腐っても王子なので聞き流すことにする。王子は拍子抜けしたように、

「次に会う時はもう少しましな恰好をするように」

 と偉そうに言い、また私を置いて1人で戻っていった。いくら私が平凡顔だからってあんまりだ。しかたなく私はまた侍女の助けを借りて迷路のような庭園を抜け、屋敷へと帰ったのだった。

 しっかしあの王子むかつくな。置き去りにするとかありえないだろう。
 部屋に戻ってから枕でバンバンとベッドを叩き八つ当たりした。侍女もさすがに思うところあったのか止めはしなかった。
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