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170.こういうのってちょっとどきどきするよね

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 いつ来てもおかしくないからと、本日ジャンは仕事を休むことにしたらしい。

「一晩ぐらい放置したところで死なないだろう。僕がいなければ他の奴が調教するだろうしな」

 とか恐ろしいことをさらりと言った。調教師怖い。その調教師にお尻の初めてを奪われてはしまったけど。
 やがて通信用の魔道具である水晶に王宮からの連絡が来て、あと一時間ほどで町の役所の人間が来るということを知らされた。
 よく考えてなかったけど、役所の人間が全てすんなり白状してとっとと帰っていくことになっても俺は一日乳首をいじられ続けたり尻穴を舐めまくられたりするんだろうか。やっぱり俺ってば早まったんじゃあ?
 顔を青くしていたら、来客らしい。
 俺は身体の線が見えないようなゆったりした服に着替えさせられ、足には真っ白い絹の靴下を履かせられていた。
 普段は家の裏手を見回っているレイドが客を応接間まで連れてきた。

「ご苦労、戻れ」
「はっ」

 レイドはきっちりとした礼をすると持ち場へ戻って行った。奴隷とか言ってもけっこう待遇いいよなって思う。冒険者稼業なんて刹那的なものから足を洗えてよかったのではないだろうか。本人たちがどう思っているのかは知らないけどな。
 さて、応接間に足を踏み入れたのは、恰幅のいいえらそうなおじさんと、その秘書っぽいおじさんと、青年が三人だった。どうやら五人でここまでやってきたらしい。ここまできた馬車は外に置いてあるのだろう。

「ジャック様、この度は誠に申し訳ありませんでした」

 えらそうなおじさんが平謝りに謝った。俺はジャックに抱き着くような形でジャックの腕の中にいる。おじさんたちが俺に嫌な視線を向けるのはどうなんだと思った。ジャックが俺を優しく抱きしめ直す。情けないけどこの腕の中にいれば安心だった。

「それは何に対しての謝罪なのか?」

 ジャンが蔑むような目で彼らを睥睨した。

「そ、それは……」

 えらそうなおじさんが秘書っぽいおじさんに目配せする。ナニコレ、話通ってないのかな? なんで自分が謝っているのかもわからないってやヴぁくないか?
 俺は目を丸くした。

「ジャック様の国からの給金を抜き取っていた者たちがおりましたが、恥ずかしながらこちらで把握をしておりませんでした。ですが犯人を捕らえましたので煮るなり焼くなり好きにしていただきたく存じます」

 そうしれっと答えたのは秘書っぽいおじさんだった。

「ほほう。犯人とは誰のことか?」

 ジャンが楽しそうに言う。

「この三名でございます。この三名は今年配属された者たちなのですが、国からの給金の額があまりにも多いというのをやっかみまして……」

 すらすらと秘書っぽいおじさんが答えた。俺は首を傾げた。
 そんなわけないじゃん。
 現に共に連れて来られた青年たちが蒼褪めている。こんなことの為に連れて来られたのかと後悔しているようだ。それでもそれを成したのが自分たちではないと弁明しないのはなんでだろうな? 何か弱味でもあるのだろうか。

「ほほう。よくこの短時間で犯人を特定できたものですね。まるで示し合わせたかのようだ」

 ジャンが言うと、青年たちは微かにだが頷いた。つまりそれぐらいしか抵抗はできないということがわかった。

「い、いや、そんな……実は、前々からおかしいとその、内部調査をですな……」

 えらそうなおじさんがだらだらと冷汗を流しているのがわかる。言い訳にしちゃあお粗末すぎませんかねそれ。

「ほほう、内部調査ですか。でしたらその経過も文書にして出していただきたいものですね。ですが……運搬してきた者も袋から抜き取っていたらしいのですよ。どうしたらそんなことができたのか、ご説明願えませんか?」

 ジャンが畳み掛けるように言う。

「そ、それはこの者たちが……」
「おかしいですね」

 ジャンが遮る。

「は?」
「国家の仕事に携わる重要な案件には確か、五年以上勤務している者しか触れられないはずではなかったのでしょうか?」
「そ、それは……」

 へーそうなんだって思った。そりゃあ結界維持なんてすごい仕事をしている人を新人になんか任せられないよな。俺は内心納得したが、何故それを知っているのかという顔を秘書っぽいおじさんがしていた。わかりやすいな。

「給金の運搬に関してだけは別だなんておかしなことを言うつもりはないでしょうね?」

 そんなこと言ったら法律違反で捕まるよな。つまり、連れて来られた青年たちは白ってことで。

「それとも、兄の担当をしているのは貴方たちなのですか? それでご丁寧にも犯人を仕立て上げてやってきたと」
「そんなわけがっ……」
「では何故新人なんかを連れてきたのです? 謝りに来るのなら、役所長だけではなく担当者も来るべきでしょう。それともあれですか? 担当者はコネで入ったぼんくらなのですか?」
「き、さまぁっ……!」

 秘書っぽいおじさんがばっと立ち上がり、ジャンにつかみかかろうとしたところで逆に腕を捻り上げられてしまった。まぁ調教師なんかやってるだけあって腕っぷしは強いよな。

「おや、担当者は貴方だったのですか? それとも貴方のお子さんかな?」
「は、なせえ~~~いたたたたっ! き、貴様ら見てないで助けんかっ! 減給にするぞ!」

 そうおじさんが叫んだけど、元々人望はなかったのか、青年たちは蒼褪めたまま微動だにしなかった。

「あとは言質さえ取れればいいですね。宰相閣下」
「へ?」

 おじさんたちがへんな声を出した。

「うむ、ご苦労だった」

 ジャックが隠し持っていた水晶を俺が両手で持って差し出す。実のところそれは通信用の魔道具で、ずっとこの会話が聞こえるようにジャックが魔力を注いでいたのだ。
 そこに映っていたのは、王宮にいる宰相の姿だった。
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