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31.また奴隷を連れて来られて
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ジャンもジャックもビットも嫌いだっ!
俺は更に不機嫌になっていた。
洗浄魔法をかけられて、新しい服を用意され、長い靴下を恭しく履かされた。それすらも忌々しい。人妻の証、だから絶対に隠さなければならないなんて。
「眉間に皺が寄っているぞ」
ジャンは俺に「嫌いっ、大っ嫌いっ!」と罵られてもどこ吹く風だった。ジャックやビットとはえらい違いである。ビットは蒼褪め、ジャック以上に死にそうな顔をした。さすがに言い過ぎたかなと思ってしまうぐらいに。でもジャンに、
「カイトは照れているだけだから気にするな」
と言われたらすぐににこにこしやがった。ムカつく。
ジャンは俺の頬を何度も撫でた。今俺はジャンの腕に抱かれて、玄関の前にある客間にいる。外からシャオに連れられて三人の男が入ってきた。
「ご主人様、奥様、新しい奴隷を連れてきました」
「戻れ」
「はっ」
シャオは玄関の外に出て行った。シャオはしっかり自分の仕事を理解しているようで、こちらを一瞥もしなかった。それはそれでムカつく。
「跪け」
「はっ」
三人はすぐに跪いた。こういうのがよくわからないなって思う。立ったままでもいいじゃん。
「お前たちにはこの家の周囲を守るように。元からいるシャオとレイドと交替で警備をすることになる。なにか質問はあるか?」
「失礼します。ご主人様、私は竜族のロンドと申します。私は基本寝る必要がございません」
「そうか、それで?」
少し緑がかった肌をした精悍な男が発言した。背はジャンより少し低めだったが2mは優に超えているだろう。なんかこの世界の連中って大きい奴多いよな。
「そして私には鋭い感知能力がございます。この家の周囲の守りであれば私一人で十分です」
「ほう」
「ですので交替要員も必要ないと考えます。ただ……」
「なんだ?」
俺はびくり、とした。男の蛇のような目が俺に向けられた。……もしかして? まさか、な。
「できれば三日に一度、天使さまを抱かせていただけないかと……」
「面白いことを言う」
「ぐううっ……」
ジャンは俺をジャックの腕に移すと立ち上がり、竜族だという男の頭を思いっきり踏みつけた。
「大事な妻を貴様のような奴隷に触れさせろと? どの口がほざいたのか見せてみろ」
髪をわしづかみ頭を持ち上げ、勢いよく何度もはたく。俺は怖くなってジャックにしがみついた。こういう光景を見たことがないとは言わないが、それはあくまで冒険者同士での喧嘩ぐらいで、こんな一方的なのはさすがに怖い。
「奴隷が主人と取引をしようなど1000年早い。有益と思い購入したが、こんなものはいらんな」
「う……ご主人様……申し訳ありません、でした……」
「返品してきます。兄さん、コイツらはシャオとレイドに引き合わせてきますから、妻を可愛がってあげてください」
「ご主人様……どうか、お慈悲を……」
髪を掴まれたまま、竜族の男はジャンに引きずられていった。その後を奴隷たちが続いた。
「わかった」
「……えええ……」
俺は唖然として声を上げることぐらいしかできなかった。ビットは全く動じた様子もなく、客間の隅に控えている。天使になってから、この世界の嫌な部分をまとめて見させられているような、そんなかんじだ。童貞でなかったら、もしかしたら一生見ることがなかったかもしれないと思うと娼館に行けばよかったなとも思ってしまう。ただ俺が娼館に行ったとして勃ったかどうかは怪しいのだが。
ジャックが俺を抱いたまま立ち上がる。客間の扉をビットが開けた。そうして俺はまた寝室に戻された。ビットも寝室の隅にいる。
「なぁ、ジャック。この世界って、奴隷って多いのか……?」
「多いかどうかはわからん。ただ家が貧しくて売られるというのは少なく、誘拐されてきたか、借金奴隷はそれなりにいる。ジャンが連れてきているのは主に元冒険者の借金奴隷だ」
「ふうん。口減らしみたいなのってあんまりないのか……」
そういえば男同士だもんな。どうやって子どもってできるんだろう、と思ったけどあまり考えたくないので考えないことにした。確か天使は子を成せないと聞いたことがある。ちょっとほっとした。俺が子どもを産むとか冗談じゃない。
「借金奴隷を選ぶ理由って?」
「元々腕っぷしが強い奴が多いから護衛に向いている」
そういえばそんなようなことをジャンも言っていたような気がする。あくまで気がする程度だけど。
「で、さっきのは何?」
「竜族が借金奴隷になるのは稀だ。奴らは基本高潔な者が多いがいろいろいるのでな。戦闘時の強さで言えば我ら巨人族と互角とも言われている。だからジャンも買ってきたのだろうが……」
「そうなんだ……」
巨人族がすごく強いという話は聞いたことがあった。普通の人間では全く勝てる要素がない。ただ巨人族は穏やかなのでめったに怒ることもないし、暴力をふるうこともないと聞いていた。あれ? ジャンは普通に暴力ふるってたけど? 怖いよー。
「……カイト」
ころん、とベッドに押し倒された。
「まだ怒っているのか?」
ジャックが困ったような顔で俺を見下ろしている。そりゃあ、怒ってるけど……。
「お、怒ってる、よ……」
「機嫌を直してくれ」
そんなふうに言われて、鼻に、頬に、額にと口づけられたらすぐにほだされてしまう。俺ってチョロいなって思った。
俺は更に不機嫌になっていた。
洗浄魔法をかけられて、新しい服を用意され、長い靴下を恭しく履かされた。それすらも忌々しい。人妻の証、だから絶対に隠さなければならないなんて。
「眉間に皺が寄っているぞ」
ジャンは俺に「嫌いっ、大っ嫌いっ!」と罵られてもどこ吹く風だった。ジャックやビットとはえらい違いである。ビットは蒼褪め、ジャック以上に死にそうな顔をした。さすがに言い過ぎたかなと思ってしまうぐらいに。でもジャンに、
「カイトは照れているだけだから気にするな」
と言われたらすぐににこにこしやがった。ムカつく。
ジャンは俺の頬を何度も撫でた。今俺はジャンの腕に抱かれて、玄関の前にある客間にいる。外からシャオに連れられて三人の男が入ってきた。
「ご主人様、奥様、新しい奴隷を連れてきました」
「戻れ」
「はっ」
シャオは玄関の外に出て行った。シャオはしっかり自分の仕事を理解しているようで、こちらを一瞥もしなかった。それはそれでムカつく。
「跪け」
「はっ」
三人はすぐに跪いた。こういうのがよくわからないなって思う。立ったままでもいいじゃん。
「お前たちにはこの家の周囲を守るように。元からいるシャオとレイドと交替で警備をすることになる。なにか質問はあるか?」
「失礼します。ご主人様、私は竜族のロンドと申します。私は基本寝る必要がございません」
「そうか、それで?」
少し緑がかった肌をした精悍な男が発言した。背はジャンより少し低めだったが2mは優に超えているだろう。なんかこの世界の連中って大きい奴多いよな。
「そして私には鋭い感知能力がございます。この家の周囲の守りであれば私一人で十分です」
「ほう」
「ですので交替要員も必要ないと考えます。ただ……」
「なんだ?」
俺はびくり、とした。男の蛇のような目が俺に向けられた。……もしかして? まさか、な。
「できれば三日に一度、天使さまを抱かせていただけないかと……」
「面白いことを言う」
「ぐううっ……」
ジャンは俺をジャックの腕に移すと立ち上がり、竜族だという男の頭を思いっきり踏みつけた。
「大事な妻を貴様のような奴隷に触れさせろと? どの口がほざいたのか見せてみろ」
髪をわしづかみ頭を持ち上げ、勢いよく何度もはたく。俺は怖くなってジャックにしがみついた。こういう光景を見たことがないとは言わないが、それはあくまで冒険者同士での喧嘩ぐらいで、こんな一方的なのはさすがに怖い。
「奴隷が主人と取引をしようなど1000年早い。有益と思い購入したが、こんなものはいらんな」
「う……ご主人様……申し訳ありません、でした……」
「返品してきます。兄さん、コイツらはシャオとレイドに引き合わせてきますから、妻を可愛がってあげてください」
「ご主人様……どうか、お慈悲を……」
髪を掴まれたまま、竜族の男はジャンに引きずられていった。その後を奴隷たちが続いた。
「わかった」
「……えええ……」
俺は唖然として声を上げることぐらいしかできなかった。ビットは全く動じた様子もなく、客間の隅に控えている。天使になってから、この世界の嫌な部分をまとめて見させられているような、そんなかんじだ。童貞でなかったら、もしかしたら一生見ることがなかったかもしれないと思うと娼館に行けばよかったなとも思ってしまう。ただ俺が娼館に行ったとして勃ったかどうかは怪しいのだが。
ジャックが俺を抱いたまま立ち上がる。客間の扉をビットが開けた。そうして俺はまた寝室に戻された。ビットも寝室の隅にいる。
「なぁ、ジャック。この世界って、奴隷って多いのか……?」
「多いかどうかはわからん。ただ家が貧しくて売られるというのは少なく、誘拐されてきたか、借金奴隷はそれなりにいる。ジャンが連れてきているのは主に元冒険者の借金奴隷だ」
「ふうん。口減らしみたいなのってあんまりないのか……」
そういえば男同士だもんな。どうやって子どもってできるんだろう、と思ったけどあまり考えたくないので考えないことにした。確か天使は子を成せないと聞いたことがある。ちょっとほっとした。俺が子どもを産むとか冗談じゃない。
「借金奴隷を選ぶ理由って?」
「元々腕っぷしが強い奴が多いから護衛に向いている」
そういえばそんなようなことをジャンも言っていたような気がする。あくまで気がする程度だけど。
「で、さっきのは何?」
「竜族が借金奴隷になるのは稀だ。奴らは基本高潔な者が多いがいろいろいるのでな。戦闘時の強さで言えば我ら巨人族と互角とも言われている。だからジャンも買ってきたのだろうが……」
「そうなんだ……」
巨人族がすごく強いという話は聞いたことがあった。普通の人間では全く勝てる要素がない。ただ巨人族は穏やかなのでめったに怒ることもないし、暴力をふるうこともないと聞いていた。あれ? ジャンは普通に暴力ふるってたけど? 怖いよー。
「……カイト」
ころん、とベッドに押し倒された。
「まだ怒っているのか?」
ジャックが困ったような顔で俺を見下ろしている。そりゃあ、怒ってるけど……。
「お、怒ってる、よ……」
「機嫌を直してくれ」
そんなふうに言われて、鼻に、頬に、額にと口づけられたらすぐにほだされてしまう。俺ってチョロいなって思った。
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