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8.相手は長だけではないようです
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キレイにしてもらってから僕はそのまま寝かせてもらった。
身体は回復魔法を唱えてもらったので疲れはないが、なにぶん全てが初めてのことだったので休ませてもらえるのはありがたかった。
目が覚めた時、一人だった。正確には布団の中では、だったけど。
「ん……」
寝返りを打ってからくん、と匂いを嗅ぐ。魔物は臭くて不潔なもの、というイメージがあったけど嫌な臭いは全然しないし、むしろもっと抱きしめていてほしいと思った。体温が高いみたいで、抱きしめられているのがすごく気持ちよかったのだ。そんなことを思い出したら顔がカーッと熱くなった。
「お目覚めですか?」
声をかけられてはっとする。上半身を起こしたら、リンドルが部屋の隅に控えていた。その隣に知らない鬼が……。
その鬼は、角はあるし皮膚の色も灰色だったけどすっきりした容姿をしていた。容姿だけを見たら人のようだった。僕は首を傾げた。
「こちらは長殿の世話役であるカヤテ殿です」
「カヤテと申します。天使さまのお世話も致しますのでこれからよろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします……」
声を出すとかすれているのがわかった。
「水をお持ちします」
カヤテが一度出て行き、木のコップに水を入れて持ってきてくれた。
「……ありがとうございます」
すぐ目の前に来られたら、大きな鬼ほどではないがそれなりに大きいということがわかった。僕が両手でコップを受け取ってコクリと飲んだら、カヤテが両手で僕の両手をそっと包んだ。
「? あの……?」
「……なんと小さくて頼りない。この私よりも小さく華奢な身体で長を受け入れたというのですか」
「え? あの……」
僕は戸惑った。カヤテは何を言っているんだろう。リンドルが補足してくれた。
「カヤテ殿、天使さまは鬼に対しての知識はないのです。村での純粋培養ですので世間のこともほとんど知りません」
「なんと!」
カヤテは驚いたように目を見開いた。
「本当にあの村は……我ら鬼に捧げる為だけに人を育てているというのか……」
「そうなのですよ」
「ならば他の森の側にもあのような村があると?」
「そこまでは存じませんが、もしかしたらあるかもしれません」
「なんということだ……」
他の鬼よりは小さめかもしれないけれど僕にとってはカヤテも十分大きくて怖い存在だった。それでも顔が人寄りでそれほど迫力がなかったからそのままでいられるけど、できればもう手を離してもらいたかった。
「ああ! 怯えさせてしまいましたね、申し訳ございません。長は仕事が溜まっているので私が天使さまのお相手をさせていただきます。天使さまを抱きたいという希望者はたくさんおりますので好みの者がいましたらお申し付けください」
「え……あのぅ……僕は長様のものなのでは……?」
「はい、所有は長になりますが長が許可した者は天使さまとまぐわう機会が与えられます。ただしその者を天使さまが気に食わない場合はお断りすることも可能です」
カヤテにそう教えられ、僕はほっとした。でも僕は鬼に嫁いだんだから求めてくる人は拒んだらだめだよね。だからカヤテが言ったことは心に留めるぐらいにしておこうと思った。
「リンドル殿、天使さまを抱くのは初めてですので何か問題がありましたらお伝えください」
「そうですね。カヤテ殿が天使さまを抱くのを止めはしませんが、先に天使さまに軽食をお出しした方がいいかと。こまめに栄養を取っていただかないと天使うんぬんの前に倒れてしまいますので」
「ああ! そうですね。私としたことが天使さまを抱けるという喜びに我を忘れておりました。では何か食べるものを用意しますので少々お待ちください」
「は、はい……」
やっと手を離され、コップも回収された。カヤテは流れるような動きで部屋を出て行く。僕は目を丸くした。
「……あの?」
なんだかよくわからなくてリンドルを窺うと、優しく微笑まれてしまった。
「ここの鬼には秩序があっていいですね。ウイ様のことも大事にしてくれそうですし」
「そ、そうですね……」
大事にしてもらえるならそれに越したことはない。でもカヤテは僕を抱くことを前提に話していたけどそういうものなのだろうか。
「リンドル……」
「はい、なんでしょう」
「僕、カヤテさんに抱かれるの?」
「長殿から許可を取ったそうですよ。わざわざ念書まで取ったそうで。こちらに」
木の札のようなものを見せられてなんともいえない顔になった。
「念書、なの?」
「こちらではいろいろなことをこのように薄く切った木の板に書くのが普通だそうです。必要なくなればそのまま薪になりますから合理的ではありますね」
「でも念書って……」
「約束事としてこちらに知らせる意図がある程度ですから、そこまで縛られるものではありませんよ。もちろんこの部屋に入れる前に長殿に確認はとってあります」
「そう、なんだ……」
念書というのは僕たちを安心させる為に用意したのかもしれないと思った。大きな鬼が思いつくとは思えないから、昔からあるものなのか、それともカヤテが考えた物なのかまではわからなかったけれど。
やがてカヤテが戻ってきた。大きな取っ手付きの木の板にいろいろな物を載せて。あれはお盆の代わりなのかもしれない。
「お待たせしました。食べるもの、とはお聞きしましたがどういうものを召し上がるのか伺っていませんでした。うっかり者で申し訳ございません。ですので、こちらでご用意できるものを全て少しずつお持ちしました。どうぞご賞味くださいませ」
カヤテが運んできた木の板だけでなく、その後からも何人もの鬼が木の板を運んできた。その上に載せられているものを見て僕は目を丸くしてしまった。
驚くことばかりでちょっと面白いと思った。
見た目は怖いけど、もしかしたらやっていけるかもしれないと少しだけ思った。
「うわ、なんですかあのかわいい笑顔……」
「天使さまはとても愛らしいのです。私も早く抱きたくてたまりません」
カヤテとリンドルが何やらぼそぼそと言い合っている。僕は目の前に置かれた木の板から、いくつかの木の実や果物、そしていびつな形の小麦粉をこねて焼いたようなものを選び食べさせてもらうことにしたのだった。
その頃の長と監視役(最初にウイを運んできた鬼):
「ぐああああ! なんでこんな手紙を見なきゃならんのだ!」
「あの弱っちい嫁のところに戻りたければとっとと読んで返事を書くだよ」
「カヤテめええええ!」
「でもこれ元々全部長の仕事だんべ。半分以上はカヤテがやっちまったぞ」
「うるせええええええ! 全部アイツが済ませばいいじゃねえかああああ!」
「いつまで経っても嫁を抱けねえべ?」
「くそおおおお!」
「あ、俺にも許可くれな? 弱っちくてかわいいなぁ、あれ」
「きさまもかああああ!!」
身体は回復魔法を唱えてもらったので疲れはないが、なにぶん全てが初めてのことだったので休ませてもらえるのはありがたかった。
目が覚めた時、一人だった。正確には布団の中では、だったけど。
「ん……」
寝返りを打ってからくん、と匂いを嗅ぐ。魔物は臭くて不潔なもの、というイメージがあったけど嫌な臭いは全然しないし、むしろもっと抱きしめていてほしいと思った。体温が高いみたいで、抱きしめられているのがすごく気持ちよかったのだ。そんなことを思い出したら顔がカーッと熱くなった。
「お目覚めですか?」
声をかけられてはっとする。上半身を起こしたら、リンドルが部屋の隅に控えていた。その隣に知らない鬼が……。
その鬼は、角はあるし皮膚の色も灰色だったけどすっきりした容姿をしていた。容姿だけを見たら人のようだった。僕は首を傾げた。
「こちらは長殿の世話役であるカヤテ殿です」
「カヤテと申します。天使さまのお世話も致しますのでこれからよろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします……」
声を出すとかすれているのがわかった。
「水をお持ちします」
カヤテが一度出て行き、木のコップに水を入れて持ってきてくれた。
「……ありがとうございます」
すぐ目の前に来られたら、大きな鬼ほどではないがそれなりに大きいということがわかった。僕が両手でコップを受け取ってコクリと飲んだら、カヤテが両手で僕の両手をそっと包んだ。
「? あの……?」
「……なんと小さくて頼りない。この私よりも小さく華奢な身体で長を受け入れたというのですか」
「え? あの……」
僕は戸惑った。カヤテは何を言っているんだろう。リンドルが補足してくれた。
「カヤテ殿、天使さまは鬼に対しての知識はないのです。村での純粋培養ですので世間のこともほとんど知りません」
「なんと!」
カヤテは驚いたように目を見開いた。
「本当にあの村は……我ら鬼に捧げる為だけに人を育てているというのか……」
「そうなのですよ」
「ならば他の森の側にもあのような村があると?」
「そこまでは存じませんが、もしかしたらあるかもしれません」
「なんということだ……」
他の鬼よりは小さめかもしれないけれど僕にとってはカヤテも十分大きくて怖い存在だった。それでも顔が人寄りでそれほど迫力がなかったからそのままでいられるけど、できればもう手を離してもらいたかった。
「ああ! 怯えさせてしまいましたね、申し訳ございません。長は仕事が溜まっているので私が天使さまのお相手をさせていただきます。天使さまを抱きたいという希望者はたくさんおりますので好みの者がいましたらお申し付けください」
「え……あのぅ……僕は長様のものなのでは……?」
「はい、所有は長になりますが長が許可した者は天使さまとまぐわう機会が与えられます。ただしその者を天使さまが気に食わない場合はお断りすることも可能です」
カヤテにそう教えられ、僕はほっとした。でも僕は鬼に嫁いだんだから求めてくる人は拒んだらだめだよね。だからカヤテが言ったことは心に留めるぐらいにしておこうと思った。
「リンドル殿、天使さまを抱くのは初めてですので何か問題がありましたらお伝えください」
「そうですね。カヤテ殿が天使さまを抱くのを止めはしませんが、先に天使さまに軽食をお出しした方がいいかと。こまめに栄養を取っていただかないと天使うんぬんの前に倒れてしまいますので」
「ああ! そうですね。私としたことが天使さまを抱けるという喜びに我を忘れておりました。では何か食べるものを用意しますので少々お待ちください」
「は、はい……」
やっと手を離され、コップも回収された。カヤテは流れるような動きで部屋を出て行く。僕は目を丸くした。
「……あの?」
なんだかよくわからなくてリンドルを窺うと、優しく微笑まれてしまった。
「ここの鬼には秩序があっていいですね。ウイ様のことも大事にしてくれそうですし」
「そ、そうですね……」
大事にしてもらえるならそれに越したことはない。でもカヤテは僕を抱くことを前提に話していたけどそういうものなのだろうか。
「リンドル……」
「はい、なんでしょう」
「僕、カヤテさんに抱かれるの?」
「長殿から許可を取ったそうですよ。わざわざ念書まで取ったそうで。こちらに」
木の札のようなものを見せられてなんともいえない顔になった。
「念書、なの?」
「こちらではいろいろなことをこのように薄く切った木の板に書くのが普通だそうです。必要なくなればそのまま薪になりますから合理的ではありますね」
「でも念書って……」
「約束事としてこちらに知らせる意図がある程度ですから、そこまで縛られるものではありませんよ。もちろんこの部屋に入れる前に長殿に確認はとってあります」
「そう、なんだ……」
念書というのは僕たちを安心させる為に用意したのかもしれないと思った。大きな鬼が思いつくとは思えないから、昔からあるものなのか、それともカヤテが考えた物なのかまではわからなかったけれど。
やがてカヤテが戻ってきた。大きな取っ手付きの木の板にいろいろな物を載せて。あれはお盆の代わりなのかもしれない。
「お待たせしました。食べるもの、とはお聞きしましたがどういうものを召し上がるのか伺っていませんでした。うっかり者で申し訳ございません。ですので、こちらでご用意できるものを全て少しずつお持ちしました。どうぞご賞味くださいませ」
カヤテが運んできた木の板だけでなく、その後からも何人もの鬼が木の板を運んできた。その上に載せられているものを見て僕は目を丸くしてしまった。
驚くことばかりでちょっと面白いと思った。
見た目は怖いけど、もしかしたらやっていけるかもしれないと少しだけ思った。
「うわ、なんですかあのかわいい笑顔……」
「天使さまはとても愛らしいのです。私も早く抱きたくてたまりません」
カヤテとリンドルが何やらぼそぼそと言い合っている。僕は目の前に置かれた木の板から、いくつかの木の実や果物、そしていびつな形の小麦粉をこねて焼いたようなものを選び食べさせてもらうことにしたのだった。
その頃の長と監視役(最初にウイを運んできた鬼):
「ぐああああ! なんでこんな手紙を見なきゃならんのだ!」
「あの弱っちい嫁のところに戻りたければとっとと読んで返事を書くだよ」
「カヤテめええええ!」
「でもこれ元々全部長の仕事だんべ。半分以上はカヤテがやっちまったぞ」
「うるせええええええ! 全部アイツが済ませばいいじゃねえかああああ!」
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