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76.自分でも物を知らないのは困る

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 栓……って、あの柔らかい棒のこと、だよな?
 授乳の時、魔力が漏れないようにとちんちんの穴に入れられていた棒のことを侍従長に言及され、カーッと頬に熱が上がった。
 どうしてそんなことを侍従長がわざわざ指摘するのだろうか。それは、一人目の授乳を始めた時からされていたことなのに。
 私は、私の椅子になっている智良(ジーリャン)の手に触れた。

「……あ、の……どういう、こと……?」
「勇志(ヨンジー)、すまない。私たちは貴方に嘘をついていた」

 智良が私の手を軽く握る。

「う、そ……?」

 嘘とはなんだろう。
 やはり私は夫たちに疎まれていたのだろうか。疎まれていたとしてもしかたないとは思うが、これからがんばるからどうか少しでも好きになってほしい。
 だって私は、今は本当に夫たちのことを愛しているから。
 目が潤んでくる。ここで泣いたりしたら更に嫌われてしまいそうなので、どうにかこらえた。

「授乳の際、魔力を外に漏らさないようにとおちんちんに棒を入れていただろう?」
「……え? あ、うん……」

 智良にそう続けられてはっとした。そういえばあの棒のことだった。ということは嘘って……?

「実際、射精しなければ魔力が漏れないことに間違いはないのだが、勇志が感じることで漏れる魔力は微々たるものなのだ」
「……そ、そうなの……?」

 夫たちが私の中に注ぐ時は魔力がいっぱい含まれていると聞いていたから、私が射精をしてもそうなのだと思い込んでいた。
 夫たちが頷く。

「だから、授乳中に勇志のおちんちんに栓をする必要はなかった」
「じゃあ……どうして……あっ」

 智良にきつく抱きしめられて、喘いだ。体温が高い夫に抱きしめられると胸がすぐに疼きだしてしまう。

「それは……」

 智軒(ジージエン)が引き取った。侍従長が仁王立ちで夫たちを睥睨している。

「その……申し訳ない。勇志があまりにも素直で……けなげで……それに、おちんちんに棒を入れられて耐えている姿があまりにもかわいくてですね」

 智軒の顔が珍しく赤い。私はあっけにとられた。

「普段はあまり乱れない勇志の痴態をもっと堪能したいと思ってしまったのです。妊娠中ももっともっとと求めてくれてとてもかわいいのですが、快感と恥ずかしさを耐えている姿がかわいすぎてずっと見ていたいと……本当に申し訳ありませんでした!」

 夫たちがバッと頭を下げた。

「奥さま、このように旦那様方は言っていますがどうなさいますか?」

 侍従長に聞かれてはっとした。

「どう、とは……」
「今は授乳中ですので旦那様方に抱かれるのを奥さまが拒むことはできません。どうしても許せないということであれば授乳期間ののち、奥さまをあまり抱かせないようにさせることも可能です」
「え……」

 それはかえって私への罰みたいなものになってしまうのだけど、侍従長はそうは考えなかったようである。

「あ、あの……私は物を知らなくて、その……」

 うまく言えない。

「ど、どうして私が出してしまっても、漏れる魔力は少しなのかと……」
「そこからですか……」

 侍従長は呆れたようにはーっと大きなため息をついた。
 私の勉強不足は私自身のせいだ。私は己が「抱かれる身体」だということを受け入れられなくて、身体についての説明も話半分に聞いていたのである。でもさすがに私の精液については教えてもらわなかったように思うのだが、それはどうなのだろうか。

「侍従長、勇志は本当に何も知らないのだ。皇室は皇子に「抱かれる身体」を持つ者が生まれることを想定していない。故に、嫁いだ先で夫たちに従うように言われているだけなのだ」
「……そうでございましたか」

 うぉっほん、と侍従長は咳払いをした。

「では奥さまに簡単に説明しましょう。「抱かれる身体」を持った方は、感じれば感じる程身の内に魔力を留めやすくなっているのです。これは夫となる方とは正反対の作用といえます。ですので、奥さまが射精をしても、その精液には魔力は微々たる量しか含まれていないのです。ですので、もし奥さまが誰かを抱いて孕ませようとしても子ができる可能性は低いです」
「そ、そうだったのか……ありがとう、侍従長」
「いえ。それで、どうなさいますか?」
「え?」

 何をどうするというのだろうか?

「……奥さま、私の話は聞いていらっしゃいましたか? 旦那様方への対応でございます」
「ああ……」

 何かした方がいいのだろうか。よくわからなくて、私は私を抱きしめている智良の腕を自分の胸に抱えるようにした。

「勇志?」
「……わからない。知らなかったことばかりで、混乱しているみたいだ……」
「今決めなくてもけっこうです。決まりましたらお伝えください。失礼しました」

 侍従長はそう言うと、さっと拱手して部屋を出て行った。あとには、なんともいえない顔をした夫たちと私だけが残された。
 困ってしまう。
 ぼーっとしていても次の授乳の時間は迫っているのだ。私はとりあえずお茶を飲むことにした。

「智良、お茶を……」
「ああ」

 智良が杯を取ってくれた。ほどよく冷めててちょうどいい。私はこくりこくりとお茶を飲んだ。

「……あの……もうあの棒は……」
「入れない。すまなかった」

 智良にきっぱりと言われて、「そう……」と呟いた。
 やっぱりどうしたらいいのかわからなかった。


ーーーーー
真相はそんなかんじでした。
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