【完結】素直になれない皇子は四人の夫たちに溺愛される~巨人族貴族の結婚事情

浅葱

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31.視察を終えて帰ってきたら

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「あまり見られなかったが、いいところだったな……」
「そうですね。穏やかなところでしたね」

 智倫(ジーリン)が同意した。帰りの馬車の中では智倫の膝の上に乗せられている。それだけで私は嬉しくてたまらない。夫に当たり前のようにくっつけるということがこんなに嬉しいなんて思っていなかった。
 田畑が多く、森ではなく山が遠くに見えた。私の領地は森から離れているらしいと知って、今更ながらほっとしたのは確かだった。
 これもまた皇上(皇帝)の思いやりだろう。私はいろいろな方に助けられているのだなと改めて思い、自分のことばかり考えていた己が恥ずかしかった。

「勇志(ヨンジー)の領地には森はないのだな」
「そうみたい……」
「よかったな」

 智明(ジーミン)に言われて嬉しくなった。

「山が遠くに見えますから、それについては少し考えた方がいいかもしれません。代官が言うには特になんらかの被害はなさそうですが……」

 智倫の言葉にも頷く。山というのは私にとって未知の場所だ。今日は時間がなかったから館の回りだけしか見なかったが、もし次来れる時があればもう少ししっかり見て回りたいと思った。
 こちらの領地にはないが、”森”というのは浅くても深くても危険な場所だというのは聞いている。”森”には鬼と呼ばれる恐ろしい魔物が住んでいるらしい。その魔物はしばしば森を出てきては食べ物や人を略奪していくのだと聞いたことがった。人を略奪してどうするのかというと、犯して子を産ませたり、嬲り殺しにしたりするというから想像しただけでも恐ろしい。
 鬼は巨人族よりもでかい物が多いらしく、巨人族はその大きさ故に犯してもなかなか死なないからという理由で攫われることが多いそうだ。

「山には……そんな怖い魔物がいないといいのだが……」
「そうですね。一度人をやって調査に向かわせましょうか。特別問題がなければ代官も許可を出すでしょう」
「うん、代官と相談してもらえると助かる……」

 私は領地から送られてくる書類を主に見ているだけなので、私が命令するわけにはいかないと思った。
 そうして領地の転移場所を経て、館へ戻ってきた。
 ほっとした。
 領地をいただいていると言っても、私の家はもうここなのだ。

「勇志、庭でお茶でもしませんか?」

 馬車を下りてからも智倫に抱き上げられているのが嬉しいけど少し恥ずかしい。

「あ、うん……仕事は……?」
「今日は智軒哥に任せていますから大丈夫ですよ」

 にっこりとした笑みが少し怖くて、「そ、それなら……」と応えた。智明も当たり前のようについてくる。優秀な兄弟がいるから大丈夫なのだろうと思うことにした。
 侍従にお茶の用意をと智倫が言いつけて、庭の四阿に移動する。花がいろとりどり咲いていて、綺麗だなとぼんやり思った。

「花は好きですか?」
「……嫌いではない」

 名前も知らないが、綺麗だとは思う。
 智明は四阿まではついてきてくれたが、

「智良哥(ジーリャングァ)と代わってくる。勇志、また後で」

 と言い残してさっそうと去っていった。そんなところは一番年下っぽいなと思ってふふと笑んだ。私の方が、智明より一歳下ではあるのだけど。
 私は現皇帝の十番目の皇子だが、あまり哥たちと触れあっていないので兄弟というものがよくわからない。それでも行事毎には顔を合わせたし、小さい頃は理想の妻の話などをしたこともあった。……今は私が妻になってしまったのだけど。
 風がそよそよと吹いてきた。
 智倫の膝の上で杯を傾ける。蓋碗(茶碗の中に茶葉とお湯を入れ、蓋で茶葉を避けながらお茶を飲む為の容器)はちょっと飲みづらい。蓋のずらし方が下手なので茶葉がすぐに一枚二枚口の中に入ってきてしまう。それを取って杯に戻すのは行儀が悪いのでそのまま食べてしまうのだが、茶葉自体の苦味が苦手なのでいつも少しだけ困っていた。
 また茶葉も一緒に口の中に入ってきてしまった。

「勇志」

 智倫に蓋碗を奪われて石造りの卓に置かれる。

「?」

 そして口づけられた。

「んんっ……」

 侍従たちは離れたところで待機させてはいるが、こちらが見えないわけではない。私は戸惑った。
 舌を絡め取られて、飲み込みきれなかった茶葉を奪われた。

「んっ、んっ……」

 唾液も飲まれてぼうっとなった頃、ようやく智倫が唇を離した。

「勇志は茶葉が苦手でしょう?」
「……ぁ……なん、で……」

 しっかりバレていたらしい。頬が熱くなるのを感じた。

「眉間に皺が寄っていましたよ。これからは私がいただきますね?」
「そん、な……」

 そうしたら毎回口づけをされてしまうのだろうか。
 胸が甘く疼いてどうしようと思ったら、また智倫に口づけられた。
 そうして、智良が来るまで何度も唇を重ね合ったのだった。
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