【完結】素直になれない皇子は四人の夫たちに溺愛される~巨人族貴族の結婚事情

浅葱

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30.領地へ行ってみた

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 智軒(ジージエン)に抱き上げられて食堂へ向かうと、もうみな席に付いていた。

「おはようございます。勇志(ヨンジー)、よく眠れましたか?」
「おはよう。勇志、体調はどうだ」
「おはよう。勇志、今日はどこかへ出かけないか?」

 智倫(ジーリン)、智良(ジーリャン)、智明(ジーミン)に次々と声をかけられて胸が熱くなった。今までは事務的に言葉を交わす程度だった。その時も夫たちはこんな風に優しい眼差しを私に向けてくれていたのだろうか。
 いろいろはっとすることが多くてうまく処理ができない。

「よく、寝ました。体調も悪くありません……ですが、出かけるとはどちらへ?」
「智明、勝手なことを言うな」

 智良が智明を窘めた。

「勇志が勇志の領地を見に行きたいようなことを言ってたし、海も見に行きたいと言ってたからな。他にも連れて行きたい場所は沢山ある」
「今日の今日連れて行くのは難しいだろう。勇志の領地であれば私か智倫が付き添えば連れて行けるかもしれないが」

 智軒が苦笑した。

「えっ、本当に?」

 私は目を丸くした。
 智明が私をどこかへ連れていってくれようとしているのはとても嬉しいが、仕事もきちんとしてほしいと思う。そして私の領地であれば今日中に行けるのだろうか。

「それは、本日、ということですか?」
「短い時間でよろしければ本日視察に向かうことも可能ですよ。勇志、向かわれますか?」
「行きたい……」

 智倫に問われて即答した。
 私が領主だというのに結婚してからは全くと言っていいほど訪れていないのだ。書類上では穀物などがよく獲れているというのが窺えるが、やはり実地で見てこそだろう。

「では昼食後に参りましょう。私と共にでよろしいですか?」
「はい」

 智倫に聞かれて、私は頷いた。とても嬉しい。
 見に行ったからどうのということはないだろうが、やはり領主として見てみたいと思ってはいた。
 そんなわけで、昼食後私は智倫、智明と共に領地へ向かうことになった。
 領地は王(ワン)の館からそれなりに離れている。私が与えられた領地(現在は嫁いだ為、正確には王の家の所属になっている)と王の土地は隣接しているのだが、中心部分に向かおうとすると些か遠かった。
 そんなわけで館の転移できる場所から、私の領地にある転移場所へ跳ぶこととなった。王城からもそうやって転移場所を移動して王の館へやってきたのである。
 私は智明に抱き上げられ、そうして領地へと向かった。

「あの……智明、下ろして……」
「だめだ。私が勇志を抱いて連れて行きたいのだから逆らってはいけない」
「はい……」

 行きにこんなやりとりがあったが、胸が甘く疼いてたまらなかった。だって、本当はこうして当たり前のように運ばれるのも夢だったから……。私は、どれほど遠回りをしていたのだろう。
 気を取り直して視察である。
 転移場所は代官が住んでいる館から馬車で一時間というところである。代官が馬車を寄こしてくれていた。
 馬車で代官が住んでいる館へ移動する間、なんとなく外を見ていた。青々とした稲が風になびいている。それらがどこまでも続く光景にため息をついた。私の領地は穀物の生産が多いので、文字通り嫁入り道具であった。
 先に連絡をしておいたということもあったが、代官がわざわざ表に出てきて私たちを出迎えた。

「勇志殿下、ようこそいらっしゃいました。どうぞ中へ」
「うむ」

 代官は一度だけ会ったことがある、智倫ぐらいの背があるひょろりとした印象のある青年だった。青年、と言っても私よりはるかに年は上だろう。
 代官の名は成正(チョンジョン)と言った。

「久しいな」
「はい。して、此度はどのようなご用件で? 今現在も作物はそれなりにございますが……」
「視察に来ただけだ。気にせずともよい」
「承知しました」

 侍従がお茶を運んでくる。私の飲み物はまず智明が飲んだ。夫に毒味をさせるなんてと内心慌てたが、

「大丈夫だ」

 と言って杯を渡されたのでそのまま受け取った。智倫も当たり前のように杯を傾ける。

「これはこの地で生産しているお茶だろうか」
「はい、そうでございます」

 お茶菓子は見た目が美しいとはいえなかったがなかなかおいしかった。
 困りごとはないかなど聞き取り、館の周りを歩いた。歩いた、と言っても私は智明に抱かれたままであったのだけど。

「……殿下と旦那様方の仲睦まじいご様子を見て安心しました。こちらへはいつでもいらしてください。精いっぱいもてなさせていただきます」

 成は少し頬を赤くして興奮したようにそんなことを言った。その際私の手に触れようとしたからか、智明がやんわりと成の手を押し返した。

「妻に触れるな」
「たいへん失礼しました」

 成は悪びれもせず、笑んだ。この領地の代官は成の家が代々継いでいるらしい。だから領地経営は実質成家が行っていると言っても過言ではなかった。
 お土産にと山の幸というものを沢山持たされた。持てない分は後日送ってくれるという。
 領地を見に行けたことはよかったが、なんだか少し引っかかりを覚えたのもまた確かだった。
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