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9.食事中も甘くて
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食堂には智良が先についていた。
どっかりと椅子に腰かけて腕を組んでいる。智明と智良は智軒や智倫よりも体躯ががっしりしている。身体を鍛え、兵士と共に鍛錬をするのが好きだといっていた。いわゆる脳筋かと最初は思ったが、意外とそうでもないのが不思議だった。
「やっと来たか。勇志、体調はどうだ?」
智良は私の姿を認めると椅子から立ち上がった。そして近寄ってきた。この二人の間に挟まれるのと圧迫感があってちょっと怖い。
「だ、だいじょぶ……」
ただでさえ私の頭一つ分ぐらい背が高い二人である。
「勇志が怯えているだろう。離れろ」
「今まで勇志を抱いていたのではないのか? 少しは年長者に譲れ」
「智軒哥がずっと抱いてて離さなかったんだ」
頭の上で言い争いをされて泣きそうになった。二人はとてもいい声をしている分、余計に迫力があって怖かった。先にそれに気づいたのは智良だった。
「勇志、すまぬ……つい。のちほど私にも抱かせてほしい」
智良にそう言われたけど、私は応えることができなかった。夫たちには抱かれたくてしかたないのに、受け答えがまともにできない。私は思わず智明の胸に頬をすり寄せた。
「先に私が抱かせてもらってからだ。智良哥は今夜か、明日だろう。勇志はとてもかわいいからな」
「……それは否定しないが。嫁が愛らしすぎるというのも困ったものだ」
かわいいとか愛らしいとか、絶対この二人の目はおかしいと思う。兄たちの妻はとてもかわいかったなと思い出した。私よりも小柄で、でも身体にはしっかり筋肉がついていたみたいで、あの肌はどんな感触がするのだろうと思った。もちろんこれは兄たちには内緒だけれども。
かわいいとか、愛らしいなんていうのは兄たちの妻のような方を言うのだと思う。
やがて智軒と智倫が来たことにより、やっと私は席につくことができた。
ほうっと悟られないようにため息をつく。自力で椅子に腰掛けることができてよかった。無理ならば智明に抱かれたまま食事をすることになるところだった。食べる時ぐらい平静でいさせてほしい。
今日の料理はいつも通りでよかった。
何故か兄たちのところから連れ戻された翌日、何か祝い事でもあったのかと聞きたくなるような料理がどどんと出されたのだ。
私は魚介類が好きなのだが、用意された清蒸魚(魚のネギ生姜蒸し)は、かなりでかい魚が使われていた。白身魚ということもあり喜んで沢山食べたのだが、大振りの海老が入った料理とか明らかに私が喜ぶようなものばかりを出されて戸惑った。
たっぷり抱かれてあまり身体が動かせなかったから、横抱きにされて食べるような恰好でいたことも余計だったと思う。
おいしいのだけど、とてもおいしかったのだけど、私は思わず、「……こんなに量はなくてもよいのではないか?」と言ってしまった。
夫たちはそれに困ったように笑んで、いつもの料理にするよう指示したみたいだった。
智軒に声をかけられた。
「勇志、食べたいものはありますか?」
「……あの春巻は、海老か?」
「そうですね。取りましょうか」
私は春巻が好きだが、海老春巻が特に好きである。細くて長い海老春巻がお気に入りで、近くになければ誰かに取ってもらうようにしている。他の料理は諦めることもあるが、卓に運ばれたなら海老春巻だけはどうしても食べたいのだった。
食い意地が張っているって? この館の厨師の作る料理がおいしいのだからしかたないだろう。今では開き直ってこれだけは取ってもらっている。
「勇志、食べたいものがあれば教えてください。どれでも取りますから」
「……ああ」
兄たちの館から連れ戻されてから、夫たちは私にひどく甘い。
この料理はどうですか? とわざわざ料理の載った皿を見せられたりして、その度に胸が甘く疼いて困ってしまう。私には、そんな風に優しくしてもらえる価値などないというのに。
おなかいっぱいになるまでしっかり食べた後、お茶を飲みながら智軒が呟くように聞いた。
「勇志、あの日のことは覚えていますか?」
「……あの日?」
どの日のことだろうか。
「貴方の相手を探す為に開かれた晩餐会の時のことです」
もう四年以上も前のことだ。あの時、自分が「抱かれる身体」だと言われたことで深いショックを受け、あの晩餐会の時のことなど思い出せなかった。
「……何も、覚えてなど……」
「そうですか。私はしっかり覚えていますよ」
「そう、なのか……」
智軒がそっと私の手を撫でた。
「あの時、途方に暮れたような顔をしていた貴方に一目惚れしたのです」
「……え……」
私はあの時、そんな顔をしていたのかと恥ずかしくなった。智軒だけでなく三人の夫たちもうんうんと頷いているからいたたまれない。
「そんな……」
「己の身体に慣れない貴方を私のものにしたかったのです。身も心も蕩かせて、私たちだけを見てほしいと思ってしまいました」
「な、何も、知らないのに……」
お互いのことを何も知らないまま結婚するなんて普通のことではあったけれども、一目惚れでそこまで想われていたなんて知らなかった。
「知らなければ知っていけばいいのです」
「わ、私は自分のことしか考えてなくて……」
「身体のことで戸惑っていたのだから当然です」
そんなに優しくしてもらえる資格なんて、私にはないと思っていた。
「勇志を困らせてしまうだけかと思い自重していましたが、これからはしっかり愛を伝えていきますから」
胸が甘く疼いて、泣きそうになってしまった。
どうしよう。
どっかりと椅子に腰かけて腕を組んでいる。智明と智良は智軒や智倫よりも体躯ががっしりしている。身体を鍛え、兵士と共に鍛錬をするのが好きだといっていた。いわゆる脳筋かと最初は思ったが、意外とそうでもないのが不思議だった。
「やっと来たか。勇志、体調はどうだ?」
智良は私の姿を認めると椅子から立ち上がった。そして近寄ってきた。この二人の間に挟まれるのと圧迫感があってちょっと怖い。
「だ、だいじょぶ……」
ただでさえ私の頭一つ分ぐらい背が高い二人である。
「勇志が怯えているだろう。離れろ」
「今まで勇志を抱いていたのではないのか? 少しは年長者に譲れ」
「智軒哥がずっと抱いてて離さなかったんだ」
頭の上で言い争いをされて泣きそうになった。二人はとてもいい声をしている分、余計に迫力があって怖かった。先にそれに気づいたのは智良だった。
「勇志、すまぬ……つい。のちほど私にも抱かせてほしい」
智良にそう言われたけど、私は応えることができなかった。夫たちには抱かれたくてしかたないのに、受け答えがまともにできない。私は思わず智明の胸に頬をすり寄せた。
「先に私が抱かせてもらってからだ。智良哥は今夜か、明日だろう。勇志はとてもかわいいからな」
「……それは否定しないが。嫁が愛らしすぎるというのも困ったものだ」
かわいいとか愛らしいとか、絶対この二人の目はおかしいと思う。兄たちの妻はとてもかわいかったなと思い出した。私よりも小柄で、でも身体にはしっかり筋肉がついていたみたいで、あの肌はどんな感触がするのだろうと思った。もちろんこれは兄たちには内緒だけれども。
かわいいとか、愛らしいなんていうのは兄たちの妻のような方を言うのだと思う。
やがて智軒と智倫が来たことにより、やっと私は席につくことができた。
ほうっと悟られないようにため息をつく。自力で椅子に腰掛けることができてよかった。無理ならば智明に抱かれたまま食事をすることになるところだった。食べる時ぐらい平静でいさせてほしい。
今日の料理はいつも通りでよかった。
何故か兄たちのところから連れ戻された翌日、何か祝い事でもあったのかと聞きたくなるような料理がどどんと出されたのだ。
私は魚介類が好きなのだが、用意された清蒸魚(魚のネギ生姜蒸し)は、かなりでかい魚が使われていた。白身魚ということもあり喜んで沢山食べたのだが、大振りの海老が入った料理とか明らかに私が喜ぶようなものばかりを出されて戸惑った。
たっぷり抱かれてあまり身体が動かせなかったから、横抱きにされて食べるような恰好でいたことも余計だったと思う。
おいしいのだけど、とてもおいしかったのだけど、私は思わず、「……こんなに量はなくてもよいのではないか?」と言ってしまった。
夫たちはそれに困ったように笑んで、いつもの料理にするよう指示したみたいだった。
智軒に声をかけられた。
「勇志、食べたいものはありますか?」
「……あの春巻は、海老か?」
「そうですね。取りましょうか」
私は春巻が好きだが、海老春巻が特に好きである。細くて長い海老春巻がお気に入りで、近くになければ誰かに取ってもらうようにしている。他の料理は諦めることもあるが、卓に運ばれたなら海老春巻だけはどうしても食べたいのだった。
食い意地が張っているって? この館の厨師の作る料理がおいしいのだからしかたないだろう。今では開き直ってこれだけは取ってもらっている。
「勇志、食べたいものがあれば教えてください。どれでも取りますから」
「……ああ」
兄たちの館から連れ戻されてから、夫たちは私にひどく甘い。
この料理はどうですか? とわざわざ料理の載った皿を見せられたりして、その度に胸が甘く疼いて困ってしまう。私には、そんな風に優しくしてもらえる価値などないというのに。
おなかいっぱいになるまでしっかり食べた後、お茶を飲みながら智軒が呟くように聞いた。
「勇志、あの日のことは覚えていますか?」
「……あの日?」
どの日のことだろうか。
「貴方の相手を探す為に開かれた晩餐会の時のことです」
もう四年以上も前のことだ。あの時、自分が「抱かれる身体」だと言われたことで深いショックを受け、あの晩餐会の時のことなど思い出せなかった。
「……何も、覚えてなど……」
「そうですか。私はしっかり覚えていますよ」
「そう、なのか……」
智軒がそっと私の手を撫でた。
「あの時、途方に暮れたような顔をしていた貴方に一目惚れしたのです」
「……え……」
私はあの時、そんな顔をしていたのかと恥ずかしくなった。智軒だけでなく三人の夫たちもうんうんと頷いているからいたたまれない。
「そんな……」
「己の身体に慣れない貴方を私のものにしたかったのです。身も心も蕩かせて、私たちだけを見てほしいと思ってしまいました」
「な、何も、知らないのに……」
お互いのことを何も知らないまま結婚するなんて普通のことではあったけれども、一目惚れでそこまで想われていたなんて知らなかった。
「知らなければ知っていけばいいのです」
「わ、私は自分のことしか考えてなくて……」
「身体のことで戸惑っていたのだから当然です」
そんなに優しくしてもらえる資格なんて、私にはないと思っていた。
「勇志を困らせてしまうだけかと思い自重していましたが、これからはしっかり愛を伝えていきますから」
胸が甘く疼いて、泣きそうになってしまった。
どうしよう。
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