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68.智紀、年越しをする
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稲村が帰省しない事情については一応聞いている。
両親が三年程前に円満離婚をしたそうだ。お互い好きな人ができたわけでも不倫をしていたわけでもないそうだが、そこらへんは稲村にはわからないという。
稲村は父親に引き取られた。
その父親が昨年再婚したらしい。新婚家庭にいるのも邪魔になるし、父親が母親以外の人と仲良くしているのを見るのも複雑だからと全寮制の高校を希望したのだそうだ。俺には想像することしかできないけど、稲村の気持ちが複雑なんだろうってことぐらいはわかる。
稲村の話を聞いて、
「たいへんだな」
とだけ返した。
「……そう、たいへんなんだよー」
稲村はそう言って笑った。
大晦日の夜は、夜食の天ぷらそばを食べてから稲村とこそこそ駄弁っていた。なんたってピー太他三羽のインコが部屋の中にいるわけで、うるさくして起こしては悪いと思ったのだ。(日が暮れるとすぐぐらいに寝てしまう)みんな寒いせいかタオルの中で寄り添って寝ている姿がとてもかわいい。タオルの上から俺のもこもこのフリースで包んでいるから暖かいだろう。
「インコの瞼って薄いよね」
「そうだなぁ」
明かりをつけたら目を覚ましそうだ。だから早い時間から真っ暗にはしている。
暗くなると眠くなるのは俺も一緒だ。俺はあくびをした。
「ほら、トモ君がんばって。そろそろ年が明けるから」
「暗くなると眠くなるんだよな~」
「それって幸せだよねー」
村西にベッドを使っていいと言われたのに、寒いからと稲村がベッドに潜り込んでいるからちと狭い。でもこんな風にじゃれ合っていられるのは学生のうちだけだよなとも思う。
「そういえばさー、トモ君の背、伸びてない?」
「え? そうか?」
「うん、これからぐんぐん伸びるんじゃないかなー」
「だったら嬉しいな」
さすがに身長が150cm台で止まったら切ない。父さんの背が低いなら諦めもつくけど、うちの父さん一応170cmはあるしな。
「170はほしいよなー」
「そうだねー。高すぎるのもたいへんかもだけど、背が高いのっていいよねー」
なんか憧れるのだ。180cmぐらいの景色ってどうなんだろうとか。まぁ今のところ無理そうだが。村西が羨ましい。でも180cmもあったら電車の扉に引っかかったりすんのかな?
「トモ君? あれ? もうー、トモ君ホント寝付きいいなー。まだ年明けてないのにー」
稲村がなんか文句を言っている気がしたが睡魔には勝てなかった。
おやすみー。
そうして寝ている間に年が明けた。
新年の朝ごはんは、雑煮と汁粉だった。餅は自分で焼けだって。
一応食堂のおばさんが一人見守ってくれている。餅は喉に詰まらせやすいから注意するのよと言われた。新年からありがたいことである。
具だくさんの醤油ベースの雑煮に自分たちで餅を焼いて入れるのだ。お汁粉もそうだった。後は朝のバイキングメニューでパンとサラダ、ボイルしたウインナーとスクランブルエッグはあった。どういう取り合わせなのかよくわからない。でも雑煮とお汁粉については新年を感じさせてくれたのだろうと思った。
「えー? 自分でお餅焼くの~?」
稲村が難色を示した。
「ここに餅置いて焼けるのを待つだけだろ。それぐらいしろって」
「トモ君が焼いてよー。僕三つ!」
「三歳かよ」
携帯用電気コンロの上に網みたいなのが置かれててそこで焼くみたいだ。それがいくつか置いてあった。生徒数が少ないからできることだよなと思いながら全部で六つ焼いた。稲村は汁粉に餅を二つ入れた。
「トモ君がいてくれてよかったー」
「現金な奴だなぁ」
食べ終えてから売店で鳥の餌を買って部屋に戻った。売店も新年からやってるんだよな。
「トモーノリー!」
ピー太たちは起きていて、ピー太は怒っていた。なんで置いていったんだってやつだろう。苦笑することしかできない。
「しょうがないだろ。朝飯食いに行ってたんだから。ほら、餌だぞー」
小皿をそれぞれ出して机の上に置く。少しずつ餌を出したらピー太も抗議するのを止めて素直に啄み始めた。水も用意してやる。
「トモ君てホント、丁寧だよね~」
「そうか?」
当たり前のことをやってるだけなんだがな。
そうして食べ終わったのか、ピー太が窓を軽くつつくので開けてやった。風は冷たいのだろうに、ピー太とピーコは表へ飛んで行った。ピコーとピースケも表へ出る気満々だったのだが、外の空気に触れるとぶるりと震えてタオルの中に入ってしまった。
「おもろっ!」
稲村とついつい笑ってしまった。
窓を閉めたらピースケにつつかれた。
「ごめんごめん」
いや、笑うだろ普通。
稲村と共に厚着をして見回りに出かけた。
一日から売店が開いていたから普通に鳥の餌を買ったけど、一月一日ってお金使っちゃいけないんだったっけ?
ちら、とそんなことを考えたけど、寮を出た寒さで忘れてしまった。(嵐山さんに新年の挨拶はした)
空は晴れている。今夜雪の予報みたいなのがあったけど大丈夫だろうか。
村西が無理しないといいのだが。
少し心配だった。
両親が三年程前に円満離婚をしたそうだ。お互い好きな人ができたわけでも不倫をしていたわけでもないそうだが、そこらへんは稲村にはわからないという。
稲村は父親に引き取られた。
その父親が昨年再婚したらしい。新婚家庭にいるのも邪魔になるし、父親が母親以外の人と仲良くしているのを見るのも複雑だからと全寮制の高校を希望したのだそうだ。俺には想像することしかできないけど、稲村の気持ちが複雑なんだろうってことぐらいはわかる。
稲村の話を聞いて、
「たいへんだな」
とだけ返した。
「……そう、たいへんなんだよー」
稲村はそう言って笑った。
大晦日の夜は、夜食の天ぷらそばを食べてから稲村とこそこそ駄弁っていた。なんたってピー太他三羽のインコが部屋の中にいるわけで、うるさくして起こしては悪いと思ったのだ。(日が暮れるとすぐぐらいに寝てしまう)みんな寒いせいかタオルの中で寄り添って寝ている姿がとてもかわいい。タオルの上から俺のもこもこのフリースで包んでいるから暖かいだろう。
「インコの瞼って薄いよね」
「そうだなぁ」
明かりをつけたら目を覚ましそうだ。だから早い時間から真っ暗にはしている。
暗くなると眠くなるのは俺も一緒だ。俺はあくびをした。
「ほら、トモ君がんばって。そろそろ年が明けるから」
「暗くなると眠くなるんだよな~」
「それって幸せだよねー」
村西にベッドを使っていいと言われたのに、寒いからと稲村がベッドに潜り込んでいるからちと狭い。でもこんな風にじゃれ合っていられるのは学生のうちだけだよなとも思う。
「そういえばさー、トモ君の背、伸びてない?」
「え? そうか?」
「うん、これからぐんぐん伸びるんじゃないかなー」
「だったら嬉しいな」
さすがに身長が150cm台で止まったら切ない。父さんの背が低いなら諦めもつくけど、うちの父さん一応170cmはあるしな。
「170はほしいよなー」
「そうだねー。高すぎるのもたいへんかもだけど、背が高いのっていいよねー」
なんか憧れるのだ。180cmぐらいの景色ってどうなんだろうとか。まぁ今のところ無理そうだが。村西が羨ましい。でも180cmもあったら電車の扉に引っかかったりすんのかな?
「トモ君? あれ? もうー、トモ君ホント寝付きいいなー。まだ年明けてないのにー」
稲村がなんか文句を言っている気がしたが睡魔には勝てなかった。
おやすみー。
そうして寝ている間に年が明けた。
新年の朝ごはんは、雑煮と汁粉だった。餅は自分で焼けだって。
一応食堂のおばさんが一人見守ってくれている。餅は喉に詰まらせやすいから注意するのよと言われた。新年からありがたいことである。
具だくさんの醤油ベースの雑煮に自分たちで餅を焼いて入れるのだ。お汁粉もそうだった。後は朝のバイキングメニューでパンとサラダ、ボイルしたウインナーとスクランブルエッグはあった。どういう取り合わせなのかよくわからない。でも雑煮とお汁粉については新年を感じさせてくれたのだろうと思った。
「えー? 自分でお餅焼くの~?」
稲村が難色を示した。
「ここに餅置いて焼けるのを待つだけだろ。それぐらいしろって」
「トモ君が焼いてよー。僕三つ!」
「三歳かよ」
携帯用電気コンロの上に網みたいなのが置かれててそこで焼くみたいだ。それがいくつか置いてあった。生徒数が少ないからできることだよなと思いながら全部で六つ焼いた。稲村は汁粉に餅を二つ入れた。
「トモ君がいてくれてよかったー」
「現金な奴だなぁ」
食べ終えてから売店で鳥の餌を買って部屋に戻った。売店も新年からやってるんだよな。
「トモーノリー!」
ピー太たちは起きていて、ピー太は怒っていた。なんで置いていったんだってやつだろう。苦笑することしかできない。
「しょうがないだろ。朝飯食いに行ってたんだから。ほら、餌だぞー」
小皿をそれぞれ出して机の上に置く。少しずつ餌を出したらピー太も抗議するのを止めて素直に啄み始めた。水も用意してやる。
「トモ君てホント、丁寧だよね~」
「そうか?」
当たり前のことをやってるだけなんだがな。
そうして食べ終わったのか、ピー太が窓を軽くつつくので開けてやった。風は冷たいのだろうに、ピー太とピーコは表へ飛んで行った。ピコーとピースケも表へ出る気満々だったのだが、外の空気に触れるとぶるりと震えてタオルの中に入ってしまった。
「おもろっ!」
稲村とついつい笑ってしまった。
窓を閉めたらピースケにつつかれた。
「ごめんごめん」
いや、笑うだろ普通。
稲村と共に厚着をして見回りに出かけた。
一日から売店が開いていたから普通に鳥の餌を買ったけど、一月一日ってお金使っちゃいけないんだったっけ?
ちら、とそんなことを考えたけど、寮を出た寒さで忘れてしまった。(嵐山さんに新年の挨拶はした)
空は晴れている。今夜雪の予報みたいなのがあったけど大丈夫だろうか。
村西が無理しないといいのだが。
少し心配だった。
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