野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱

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62.智紀、冬休み前はこう過ごす

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 親たちは29日に帰国するらしい。その出迎えだけは行くということで話をつけた。
 夕方に着くらしいから都内で一泊して戻ってくる予定だ。
 一晩会えないだけ……と考えてもなんかつらい。俺はどんだけピー太と一緒にいたいんだろう。昼のバスで出てって、戻ってくるのも昼のバスかな。乗り遅れると夕方になるか。

「あー、やだー!」

 頭を抱えて叫んでしまった。部屋に来ていた稲村が苦笑している。村西の予定を聞けば、

「31日に帰る。1日には戻ってくる予定だ」

 という話だった。

「稲村は結局どーすんの?」
「こっちに残るよー。帰っても邪魔だろうしねー」
「そっか」

 じゃあ年越しは稲村と一緒だ。ちょっと嬉しい。年越しぐらいピー太たちも部屋で過ごしてくれると嬉しいんだけどな。
 ここの寮は年末年始も追い出されないから助かる。大掃除には駆り出されるみたいだけど、それぐらい手伝うって思う。
 ここの寮にはお世話になってるんだから当たり前だ。


 さて、「合コンだー!」と意気込んでいた緒方だったが、見事に撃沈してクリスマスイブは部活の面々と過ごしたらしい。終業式中ずっと暗い顔をしていたからダメだったのは丸わかりだった。そんなに簡単にいくものでもないよな。
 食堂のおばさんたちが気を遣ってくれて、クリスマスディナーみたいなものを寮で24日に用意してくれたから猶更だったみたいだ。チキンすっげーうまかったけどな。

「でも本当は七面鳥だよねー。なんで日本では鶏肉になったんだろー?」

 稲村がローストチキンにかぶりついてから呟いた。

「フライドチキンについてはケン〇ッキーが関わってるんじゃなかったか?」
「じゃあこのローストチキンとは由来が違うの?」
「確かそのはずだぞ」

 村西、意外といろんなことに詳しいのである。(意外とは余計だ)

「ここの飯もうまいけど、ここって調理禁止なんだよな……」

 ちょっとそれだけが不満といえば不満である。調理実習はあるんだけど作るのは本当に簡単なものだけだしな。

「あれ? トモ君て料理とかするの?」
「自分で食うもんとかだけな。全然作ってないから忘れちまったけど……」

 さすがに食堂のおばさんに言って厨房を貸してもらうわけにもいかないしなぁ。一応各階に台所っぽい場所はある。水道があって、ケトルが置かれていて、電子レンジもある。食堂の開いている時間に行けなかった生徒が売店で買い込んだ物でしのぐ為に設置されていたりするのだ。
 電子レンジの前には電子レンジの使い方がでっかく書かれた紙も置いてある。なんでこんなものをと思ったが、知らない奴だと平気で生卵をレンジに入れたりするらしい。こわっ。
 ただ温めるだけのレンジだが、壊されたりしたらたまらないだろう。壊した時の弁償代なども書いてあるから、みんな説明書はよく読んで使っているみたいだ。
 俺はたまにコーヒーが飲みたくなるからケトルは使っている。部屋で持てないのは不便だけど、ピー太たちが来るからそれはそれでいい。ひっくり返したりしたらたいへんだもんな。(中には部屋に隠し持ってる生徒もいるらしい。火事になったりしたら困るので見つけ次第嵐山さんが没収しているそうだ)

「そっかー。トモ君の手料理食べてみたかったなー」
「冬休み中って生徒少なくなるんだよな? 厨房少し貸してもらえねーかなー」
「僕、聞いてみる!」

 稲村の方がなんか意気込んでいた。
 稲村と一旦別れてから首を傾げた。(夕飯の後もかなりの頻度で部屋に来る)

「稲村もそんなに料理してみたいのか?」
「……大林……それはボケたつもりなのか?」
「え?」

 村西にわけがわからないことを言われてしまった。ボケってなんだ? だって厨房を貸してくれないか聞いてみるっつったの稲村だろ?


 夏休み中はそれなりに生徒が残っていたが、さすがに冬休みは帰省する生徒が多いらしい。
 正月はやっぱ家族で過ごしたいってことなんだろう。俺もあんまりしつこく言われないなら一緒に過ごしても……とは思うんだが、寮で好き勝手やらせてもらっているせいか小言は聞きたくないなと思ってしまう。
 これが親離れってやつなのかなとか考えてみた。
 ピー太たちはけっこういつも通りである。寒い季節ということもあり、ピコーはかなり長い時間うちにいることが増えた。朝もお寝坊さんで、俺たちが学校へ行く頃になってようやくよたよたと林へ戻っていくことが多い。別に戻っていかなくてもいいと思うのだが、ピコーなりのけじめなのだろう。
 ピー太も寒いからかねぼすけで、俺たちが朝の見回りで顔を出してから寝ぼけまなこで出てくることが多い。寒いということもあるのかピーコと一緒に同じ小屋から出てくることが多い。うん、仲がいいのはいいことだ。ぶるぶるっと震えてから、

「オハヨー」

 とか声をかけてくれるのがかわいくてたまらん。
 ピースケはもうすっかり藤沢先輩の部屋に居座っているみたいだ。昼間は戻ってくるみたいだけど夜は普通に藤沢先輩のところへ戻るらしい。
 それで冬休みの間頼まれてしまった。

「申し訳ないのだが、夜は君たちの部屋に置いてもらえないだろうか?」
「まぁいいですけど……」

 ピコーが常駐しているような状態だから別にかまわない。

「卒業時にはピースケは連れて帰るつもりだが、それまでは一緒にここで過ごしたくてな。申し訳ない」

 藤沢先輩はわざわざ頭を下げた。さすがにそんなことはしなくていいと慌てた。
 こういうのはお互い様なんだからそれは全然かまわない。
 そうして冬休みが始まったのだった。
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