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38.智紀、草むしりについて聞く

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「梅雨の前の草むしり……」
「建物のため……」
「……大事……」

 嵐山さんが出かけたので、先輩たちに聞いたらそんな答えが返ってきた。
 三人で一文を話すのでなかなか理解できなかったけど、総合すると、「梅雨の時期は草が水を含むので、建物の周りの草を取らないと、建物がしけってたいへんなことになる」ということらしい。
 ここまで聞きだすのがたいへんだった。
 やっぱたいへんだよな。

「それは確かにたいへんですね」
「そう……」
「だからずっと……」
「草むしり……」

 先輩たちは遠い目をした。そういえば梅雨の前は毎年やってるのか。それはつらいかもしれない。

「毎年ですか」
「秋の……」
「長雨の前も……」
「……草むしり……」
「そういえばそんな時期もありましたね……」

 秋もそういえばけっこう雨降るんだよな。そう考えると、山に建物を建てるのって、維持とかけっこうたいへんなんじゃないか? と思った。

「山って、たいへんなんだなぁ……」
「たいへんだねー。草むしりかー、腰とか痛くなりそうだね。痛くならない方法とかあるのかな?」

 稲村が首を傾げる。

「膝当てとかあるといいらしいぞ」

 村西がぼそっと呟いた。

「膝当てかー。準備してあるのかな?」
「どうだろ?」

 村西、稲村と共に首を傾げていた。
 んで、嵐山さんが戻ってから確認した。一階の入口である。

「うん、建物が傷まないように草むしりをしてもらいたいんだけど、月一で一時間ぐらいしてもらえると助かるかな。強制ではないんだけどねー」

 何が何でも動員するという話ではないらしい。赤点の生徒は内申点の為に多少がんばるみたいだけど。
 申し訳なさそうに言われて、首を振った。

「草むしりをしたくないって話じゃないんです。草むしりすると腰が痛くなりそうなんで、回避する方法とかあるのかなーって思いまして」
「ああー、簡易の椅子とか用意すると違ったりするよね」
「膝当てとかありますー?」

 稲村が聞いた。

「膝当て? そういうのはないなぁ」
「端切れとかあれば縫うんですけどねー。家庭科室にミシンとかありませんかー?」

 稲村が当たり前のように言うので驚いた。

「え? ミシンとか使えんの?」
「うん。うちのおかーさん趣味で洋裁とかしてたから僕もできるよー。もちろん簡単なやつだけどねー」

 特技ってあるもんなんだなーと感心した。ミシンとか使ったことねーや。

「すげー」
「すごいな」

 村西と共に呟けば、稲村は目を丸くした。

「……トモ君とムラ君て、そういうところ最高だよね」
「は?」

 村西と顔を見合わせ、そして稲村を見た。さっぱりわからなかったけど、稲村はへへっと笑った。

「縫物とか編み物とかやってるとさー、女々しいとかからかわれてたんだよねー」

 意味がわからなかった。確かに稲村はパッと見女の子っぽくは見えるけど、俺は縫物も編み物もできないから、できることがすごいと思う。そう言ったら稲村は不機嫌そうな顔をした。

「……なんでトモ君てそんなにいいやつなワケ? 純粋培養?」

 とかわけがわからないことを言って寮の外へ出た。そして叫ぶ。

「ピー太君、トモ君のことどう育てたらこんないい子になるのー?」
「え? なんでピー太?」

 それ以前にピー太は声が届くところにいるんだろうか。面食らって稲村の後を追い表へ出たら、ピー太が待ってましたとばかりにバサバサと飛んできた。また頭の上に留まる。

「え? ピー太、まだいたのか?」
「ピー太君、ちょっとトモ君に過保護すぎると思うんだけどー!」

 稲村がピー太に抗議している。

「ピータ、トモーノリー、スキー!」
「はっきり言えていいねえ。トモ君がいい子すぎるんだよー。ちゃんと教育しといてよ」
「ピー太が俺を教育? それはないだろー」

 もう意味がわからなかった。でもピー太と稲村はお互いにああでもないこうでもないと言い合っているみたいで、なんか楽しそうだった。
 そういえば明日は健康診断だ。稲村とピー太のやりとりを聞きながら、身長が少しでも伸びてるといいなと思ったのだった。
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