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10.智紀、山暮らしの厳しさを知る
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入学して二日目は学校の中を見て回った。保健室は1階でーとかいうやつである。運動場は校舎の裏手、北西にある。
山の中なんだけどけっこう広い。ちなみに、寮へはこの運動場の脇を通って上がっていくのだ。だから運動場が広いことはここに来た初日に知っていた。
寮の南側には畑も田んぼもある。それほど広いとはいえないが、授業で使ったりもするらしい。
そうして学校の敷地内を一通り見てから教室へ戻った。
暑くはないが、俺は意外と運動不足だったのかもしれない。すでに疲れていた。なんとも情けない話である。
ここ数日筋トレをサボったからだな。今日からまた再開しよう。
「休んだらジャージに着替えて体育館へ移動するぞ」
「えええ」
入学して二日目には体育の授業とか勘弁してほしいんだが。稲村もえーと言いたげな顔をしていた。
「大事な話があるからサボるなよ」
担任の奥田に釘を刺されたので、悪態をつく奴は悪態をつきながらジャージに着替えた。担任は教室を出て行った。
稲村はわざわざ俺の側に来て着替え始めた。俺より白くて細い腕をついまじまじと見てしまった。
背は俺より10cmぐらい高いんだけどな。
「トモのえっちー」
視線を感じたのか稲村が笑って茶化す。
「ほせーなと思っただけだよ」
ブレザーとシャツをバッと脱いで体育着を着る。
「うわ……トモ、けっこう鍛えてる?」
今度は稲村が目を丸くした。
「いやん、稲村のえっちー」
「えー」
「じゃれるのはいいが、着替えろよー」
ガラッと教室の扉が開けられた。担任だった。
周りの連中と一緒に、「きゃーーーっ!」とか「先生のえっちーー!」とか叫んで胸を隠すフリをする。
ノリのいいクラスでいいことだ。俺と稲村の他に二、三人は反応してくれた。
「……勘弁してくれ」
担任は頭を掻いた。おかげでなんとなくみんな仲良くなれたような気がする。楽しいのが一番だ。
冗談はともかくジャージに着替えて体育館に移動した。
体育の授業なのかなと思っていたが、違った。
高校に通う際の注意事項を教えられたのだが、山ってこえーなと思った。
で、それがなんでジャージに着替えることと関係していたのかというと、
「校則は生徒手帳や寮の冊子を確認してもらうのが一番だが、ここ春嵐高校は山の上にある為他に注意事項がいくつかある」
生活指導の先生が出てきて神妙な顔をし、こんなことを言い出した。
山の上だからなんなんだろう? とみなで首を傾げた。
先生はぐるりと俺たちを見回した。
「この中で山暮らしを経験したことがある者はいるか?」
手が上がったのは一人だった。ちなみに体育館に移動したのはうちのクラスだけであった。クラス毎に順次指導するらしい。
先生は頷いた。
「ということは山の野生動物の危険性について知っている者はほとんどいないということだな?」
えええと思った。野生動物の危険性ってなんだよ。そんなに危険なのって住んでるものなんだっけ?
「一番遭遇しやすく、遭遇した際に大怪我をする可能性がある生き物を伝えておく。それはイノシシとスズメバチだ」
イノシシ。
スズメバチはなんとなくわかるけどイノシシ。
「もちろんクマに遭遇する可能性がないとは言わない。だが、イノシシやスズメバチに遭遇するよりは可能性は低いからな」
今度はクマだって。
遠い目をしたくなった。
それからイノシシに遭遇した際の対処法などをレクチャーされた。相手が気づいていなければそっとその場から離れる。基本はイノシシは臆病なので突進してくることはあまりないらしいが、もし悲鳴を上げてしまったり大きな声を上げるとパニックを起こして突進してくることがあるという。
突進されたら死ぬじゃん。イノシシやべー。
丈夫な木があれば登れば回避できる。どうしても突進を回避できない場合は腰を落として牙が太ももなどに刺さらないようにするのが大事なのだそうだ。
つーわけで運動場の向こうにある木にも積極的に木登りの練習をすることと、腰の落とし方などをレクチャーされた。
面白がってここに来たはいいけど、なかなかにサバイバルだなと思った。
スズメバチに遭遇した時もできるだけそっとその場所を離れる。黒い衣服はできるだけ身につけない。できれば髪は帽子などで隠した方がいいと言われた。ただし黄色などの明るい色のものを身につけると、かえって虫が寄ってくる場合もあるらしい。花とかと勘違いすんのかな。
クマはこの辺りに生息しているのはツキノワグマなので、定期的に大きな音などを立てればクマの方が避けるようだ。とはいえそれが絶対ではないので、出遭ってしまった時は目を睨みつけるなどの対処法は教えてもらった。
ここで暮らす三年間でそういうのと遭遇しなければいいなと思った。
最後に、寮の東側の木々の中で生活しているオカメインコや他の鳥たちについての説明があった。
彼らには理事長自ら頼んで生徒たちの見守りをしてもらっているという。なのでスズメバチなど見かけた場合彼らに知らせてもいいらしい。
ピー太、いったい何やってんだよと思った。
インコじゃスズメバチは駆除できないだろ?
山の中なんだけどけっこう広い。ちなみに、寮へはこの運動場の脇を通って上がっていくのだ。だから運動場が広いことはここに来た初日に知っていた。
寮の南側には畑も田んぼもある。それほど広いとはいえないが、授業で使ったりもするらしい。
そうして学校の敷地内を一通り見てから教室へ戻った。
暑くはないが、俺は意外と運動不足だったのかもしれない。すでに疲れていた。なんとも情けない話である。
ここ数日筋トレをサボったからだな。今日からまた再開しよう。
「休んだらジャージに着替えて体育館へ移動するぞ」
「えええ」
入学して二日目には体育の授業とか勘弁してほしいんだが。稲村もえーと言いたげな顔をしていた。
「大事な話があるからサボるなよ」
担任の奥田に釘を刺されたので、悪態をつく奴は悪態をつきながらジャージに着替えた。担任は教室を出て行った。
稲村はわざわざ俺の側に来て着替え始めた。俺より白くて細い腕をついまじまじと見てしまった。
背は俺より10cmぐらい高いんだけどな。
「トモのえっちー」
視線を感じたのか稲村が笑って茶化す。
「ほせーなと思っただけだよ」
ブレザーとシャツをバッと脱いで体育着を着る。
「うわ……トモ、けっこう鍛えてる?」
今度は稲村が目を丸くした。
「いやん、稲村のえっちー」
「えー」
「じゃれるのはいいが、着替えろよー」
ガラッと教室の扉が開けられた。担任だった。
周りの連中と一緒に、「きゃーーーっ!」とか「先生のえっちーー!」とか叫んで胸を隠すフリをする。
ノリのいいクラスでいいことだ。俺と稲村の他に二、三人は反応してくれた。
「……勘弁してくれ」
担任は頭を掻いた。おかげでなんとなくみんな仲良くなれたような気がする。楽しいのが一番だ。
冗談はともかくジャージに着替えて体育館に移動した。
体育の授業なのかなと思っていたが、違った。
高校に通う際の注意事項を教えられたのだが、山ってこえーなと思った。
で、それがなんでジャージに着替えることと関係していたのかというと、
「校則は生徒手帳や寮の冊子を確認してもらうのが一番だが、ここ春嵐高校は山の上にある為他に注意事項がいくつかある」
生活指導の先生が出てきて神妙な顔をし、こんなことを言い出した。
山の上だからなんなんだろう? とみなで首を傾げた。
先生はぐるりと俺たちを見回した。
「この中で山暮らしを経験したことがある者はいるか?」
手が上がったのは一人だった。ちなみに体育館に移動したのはうちのクラスだけであった。クラス毎に順次指導するらしい。
先生は頷いた。
「ということは山の野生動物の危険性について知っている者はほとんどいないということだな?」
えええと思った。野生動物の危険性ってなんだよ。そんなに危険なのって住んでるものなんだっけ?
「一番遭遇しやすく、遭遇した際に大怪我をする可能性がある生き物を伝えておく。それはイノシシとスズメバチだ」
イノシシ。
スズメバチはなんとなくわかるけどイノシシ。
「もちろんクマに遭遇する可能性がないとは言わない。だが、イノシシやスズメバチに遭遇するよりは可能性は低いからな」
今度はクマだって。
遠い目をしたくなった。
それからイノシシに遭遇した際の対処法などをレクチャーされた。相手が気づいていなければそっとその場から離れる。基本はイノシシは臆病なので突進してくることはあまりないらしいが、もし悲鳴を上げてしまったり大きな声を上げるとパニックを起こして突進してくることがあるという。
突進されたら死ぬじゃん。イノシシやべー。
丈夫な木があれば登れば回避できる。どうしても突進を回避できない場合は腰を落として牙が太ももなどに刺さらないようにするのが大事なのだそうだ。
つーわけで運動場の向こうにある木にも積極的に木登りの練習をすることと、腰の落とし方などをレクチャーされた。
面白がってここに来たはいいけど、なかなかにサバイバルだなと思った。
スズメバチに遭遇した時もできるだけそっとその場所を離れる。黒い衣服はできるだけ身につけない。できれば髪は帽子などで隠した方がいいと言われた。ただし黄色などの明るい色のものを身につけると、かえって虫が寄ってくる場合もあるらしい。花とかと勘違いすんのかな。
クマはこの辺りに生息しているのはツキノワグマなので、定期的に大きな音などを立てればクマの方が避けるようだ。とはいえそれが絶対ではないので、出遭ってしまった時は目を睨みつけるなどの対処法は教えてもらった。
ここで暮らす三年間でそういうのと遭遇しなければいいなと思った。
最後に、寮の東側の木々の中で生活しているオカメインコや他の鳥たちについての説明があった。
彼らには理事長自ら頼んで生徒たちの見守りをしてもらっているという。なのでスズメバチなど見かけた場合彼らに知らせてもいいらしい。
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