上 下
11 / 77

10.智紀、山暮らしの厳しさを知る

しおりを挟む
 入学して二日目は学校の中を見て回った。保健室は1階でーとかいうやつである。運動場は校舎の裏手、北西にある。
 山の中なんだけどけっこう広い。ちなみに、寮へはこの運動場の脇を通って上がっていくのだ。だから運動場が広いことはここに来た初日に知っていた。
 寮の南側には畑も田んぼもある。それほど広いとはいえないが、授業で使ったりもするらしい。
 そうして学校の敷地内を一通り見てから教室へ戻った。
 暑くはないが、俺は意外と運動不足だったのかもしれない。すでに疲れていた。なんとも情けない話である。
 ここ数日筋トレをサボったからだな。今日からまた再開しよう。

「休んだらジャージに着替えて体育館へ移動するぞ」
「えええ」

 入学して二日目には体育の授業とか勘弁してほしいんだが。稲村もえーと言いたげな顔をしていた。

「大事な話があるからサボるなよ」

 担任の奥田に釘を刺されたので、悪態をつく奴は悪態をつきながらジャージに着替えた。担任は教室を出て行った。
 稲村はわざわざ俺の側に来て着替え始めた。俺より白くて細い腕をついまじまじと見てしまった。
 背は俺より10cmぐらい高いんだけどな。

「トモのえっちー」

 視線を感じたのか稲村が笑って茶化す。

「ほせーなと思っただけだよ」

 ブレザーとシャツをバッと脱いで体育着を着る。

「うわ……トモ、けっこう鍛えてる?」

 今度は稲村が目を丸くした。

「いやん、稲村のえっちー」
「えー」
「じゃれるのはいいが、着替えろよー」

 ガラッと教室の扉が開けられた。担任だった。
 周りの連中と一緒に、「きゃーーーっ!」とか「先生のえっちーー!」とか叫んで胸を隠すフリをする。
 ノリのいいクラスでいいことだ。俺と稲村の他に二、三人は反応してくれた。

「……勘弁してくれ」

 担任は頭を掻いた。おかげでなんとなくみんな仲良くなれたような気がする。楽しいのが一番だ。
 冗談はともかくジャージに着替えて体育館に移動した。
 体育の授業なのかなと思っていたが、違った。
 高校に通う際の注意事項を教えられたのだが、山ってこえーなと思った。
 で、それがなんでジャージに着替えることと関係していたのかというと、

「校則は生徒手帳や寮の冊子を確認してもらうのが一番だが、ここ春嵐高校は山の上にある為他に注意事項がいくつかある」

 生活指導の先生が出てきて神妙な顔をし、こんなことを言い出した。
 山の上だからなんなんだろう? とみなで首を傾げた。
 先生はぐるりと俺たちを見回した。

「この中で山暮らしを経験したことがある者はいるか?」

 手が上がったのは一人だった。ちなみに体育館に移動したのはうちのクラスだけであった。クラス毎に順次指導するらしい。
 先生は頷いた。

「ということは山の野生動物の危険性について知っている者はほとんどいないということだな?」

 えええと思った。野生動物の危険性ってなんだよ。そんなに危険なのって住んでるものなんだっけ?

「一番遭遇しやすく、遭遇した際に大怪我をする可能性がある生き物を伝えておく。それはイノシシとスズメバチだ」

 イノシシ。
 スズメバチはなんとなくわかるけどイノシシ。

「もちろんクマに遭遇する可能性がないとは言わない。だが、イノシシやスズメバチに遭遇するよりは可能性は低いからな」

 今度はクマだって。
 遠い目をしたくなった。
 それからイノシシに遭遇した際の対処法などをレクチャーされた。相手が気づいていなければそっとその場から離れる。基本はイノシシは臆病なので突進してくることはあまりないらしいが、もし悲鳴を上げてしまったり大きな声を上げるとパニックを起こして突進してくることがあるという。
 突進されたら死ぬじゃん。イノシシやべー。
 丈夫な木があれば登れば回避できる。どうしても突進を回避できない場合は腰を落として牙が太ももなどに刺さらないようにするのが大事なのだそうだ。
 つーわけで運動場の向こうにある木にも積極的に木登りの練習をすることと、腰の落とし方などをレクチャーされた。
 面白がってここに来たはいいけど、なかなかにサバイバルだなと思った。
 スズメバチに遭遇した時もできるだけそっとその場所を離れる。黒い衣服はできるだけ身につけない。できれば髪は帽子などで隠した方がいいと言われた。ただし黄色などの明るい色のものを身につけると、かえって虫が寄ってくる場合もあるらしい。花とかと勘違いすんのかな。
 クマはこの辺りに生息しているのはツキノワグマなので、定期的に大きな音などを立てればクマの方が避けるようだ。とはいえそれが絶対ではないので、出遭ってしまった時は目を睨みつけるなどの対処法は教えてもらった。
 ここで暮らす三年間でそういうのと遭遇しなければいいなと思った。
 最後に、寮の東側の木々の中で生活しているオカメインコや他の鳥たちについての説明があった。
 彼らには理事長自ら頼んで生徒たちの見守りをしてもらっているという。なのでスズメバチなど見かけた場合彼らに知らせてもいいらしい。
 ピー太、いったい何やってんだよと思った。
 インコじゃスズメバチは駆除できないだろ?
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...