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1.智紀(とものり)、春嵐(しゅんらん)高校を目指す
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ピー太がいなくなった日のことは忘れられない。
十歳の誕生日に両親からプレゼントされたオカメインコに、俺はピー太と名付けた。大きめの籠に入っていた灰色のピー太はおとなしかったけど、俺の名前や挨拶はすぐに覚えてくれた。
オカメインコは実はオウムらしく、オウムの中でも一番小さい種類なのだということを知った。
背が低いことをからかわれてインドアだった俺は、ピー太と一緒にいることを望んだ。
「ピー太、智紀、智紀って言ってみてー」
「ピータ、トモーノリー」
オカメインコはあまり言葉を覚えないようなことを言われたけど、ピー太はとても頭がいいらしくいっぱい言葉を覚えてくれた。挨拶もそうだし、簡単な言葉ならすぐに言えるようになった。
ピー太を飼い始めて五か月が過ぎたある日のことだった。病院に連れて行こうとして父さんが籠の入口を開けたら、いつもはおとなしく籠の中にいるピー太がトンットンッと入口までやってきて籠からすんなり出てしまった。
「えっ? ピー太?」
俺は慌てて捕まえようとしたのだけど、ピー太はそのままバサバサッと飛び、開いていた窓から出て飛んでいってしまった。
「ピー太、ピー太!?」
俺はベランダに出て声の限り叫んだけど、ピー太はそのままバサバサと遠くまで飛んで行ってしまった。本当に、それは一瞬の出来事だったと思う。
まるで悪い夢を見ていたみたいだった。
呆然として、翌日も翌々日もピー太を探し歩き、一か月して俺は諦めた。
父さんは小さくなっていた。
「また新しいインコ、飼おうか?」
と聞いてくれたけど、俺は首を振った。
ピー太はおとなしかった。でも外に出ることを求めていたみたいで、そして俺の元には帰ってこなかった。
ってことは、外の世界の方がうちの中よりよかったのだ。
本当はただ迷子になっただけかもしれないけど、俺はそう思うことにした。そうでもないと、父さんをめちゃくちゃ責めてしまいそうだったからだ。(もちろんだけどいっぱい泣いたし文句も言った。それ以上にってことだ)
俺はそれから、今まで嫌がっていた習い事などもするようになった。水泳の楽しさを知り、勉強の楽しさを知った。
世界は俺がいた小学校の、俺のクラスの中だけじゃなかったということにやっと気づけた。
ピー太がいないのは寂しいけれど、ピー太が俺を外に連れ出してくれたのだと思った。
そうしてそれなりに楽しく、俺は小学校も、中学校も過ごしていくことができたのだった。
「えっ? 海外赴任?」
父さんの海外赴任を聞かされたのは、中学三年生の頃だった。
高校の進路が大体決まった頃だったのでそれは青天の霹靂だった。
「どうだ? 家族で行かないか?」
と聞かれたけど俺は首を振った。母さんとまだ小学生の弟はついていくことにしたらしい。俺は急きょ進路を変更して、山の中の全寮制の高校に入ることにした。
学力もちょうどそこに合っていたので、実は候補に入れていたのだ。
なんか親から離れて暮らすって楽しそうじゃん?
「智紀、本当に大丈夫なの?」
「智紀、一年ぐらいニートになってもいいから一緒に行った方がいいんじゃないのか?」
過保護な両親にそう言われたが、俺は揺らがなかった。実は弟の背が俺より高くなりそうで一緒にいたくなかったというのもある。
中学三年生になった俺の背は、まだ150cmしかなかった。
小学校の頃もチビだったが、今でもチビで困ってしまう。毎日牛乳を一本(一リットル)は飲んでいるというのに何故背が伸びないのか教えてほしい。
父さんには、「骨は絶対強くなるから大丈夫だ!」とか言われるし、弟には、「俺、にーちゃんの背抜くかもー」とか言われて散々である。
そんなコンプレックスもあり、一人で新天地に赴きたかったのだ。
「なぁ、にーちゃん考え直せよ。春嵐高校って男子校なんだろ? にーちゃんみたいにちっちぇーのが行ったら絶対いじめられるって!」
「うるさい! 背の高低で判断する奴なんて相手にするわけないだろう!」
「まぁ……いじめとかそういうのにはすごく敏感な高校みたいだから大丈夫だろうとは思うけど……私立だしね」
母さんがネットの口コミなどを調べてため息をついていた。
金を使わせてしまうのは悪いと思ったが、そういった経緯で俺は私立春嵐高校に入ることになったのだった。
十歳の誕生日に両親からプレゼントされたオカメインコに、俺はピー太と名付けた。大きめの籠に入っていた灰色のピー太はおとなしかったけど、俺の名前や挨拶はすぐに覚えてくれた。
オカメインコは実はオウムらしく、オウムの中でも一番小さい種類なのだということを知った。
背が低いことをからかわれてインドアだった俺は、ピー太と一緒にいることを望んだ。
「ピー太、智紀、智紀って言ってみてー」
「ピータ、トモーノリー」
オカメインコはあまり言葉を覚えないようなことを言われたけど、ピー太はとても頭がいいらしくいっぱい言葉を覚えてくれた。挨拶もそうだし、簡単な言葉ならすぐに言えるようになった。
ピー太を飼い始めて五か月が過ぎたある日のことだった。病院に連れて行こうとして父さんが籠の入口を開けたら、いつもはおとなしく籠の中にいるピー太がトンットンッと入口までやってきて籠からすんなり出てしまった。
「えっ? ピー太?」
俺は慌てて捕まえようとしたのだけど、ピー太はそのままバサバサッと飛び、開いていた窓から出て飛んでいってしまった。
「ピー太、ピー太!?」
俺はベランダに出て声の限り叫んだけど、ピー太はそのままバサバサと遠くまで飛んで行ってしまった。本当に、それは一瞬の出来事だったと思う。
まるで悪い夢を見ていたみたいだった。
呆然として、翌日も翌々日もピー太を探し歩き、一か月して俺は諦めた。
父さんは小さくなっていた。
「また新しいインコ、飼おうか?」
と聞いてくれたけど、俺は首を振った。
ピー太はおとなしかった。でも外に出ることを求めていたみたいで、そして俺の元には帰ってこなかった。
ってことは、外の世界の方がうちの中よりよかったのだ。
本当はただ迷子になっただけかもしれないけど、俺はそう思うことにした。そうでもないと、父さんをめちゃくちゃ責めてしまいそうだったからだ。(もちろんだけどいっぱい泣いたし文句も言った。それ以上にってことだ)
俺はそれから、今まで嫌がっていた習い事などもするようになった。水泳の楽しさを知り、勉強の楽しさを知った。
世界は俺がいた小学校の、俺のクラスの中だけじゃなかったということにやっと気づけた。
ピー太がいないのは寂しいけれど、ピー太が俺を外に連れ出してくれたのだと思った。
そうしてそれなりに楽しく、俺は小学校も、中学校も過ごしていくことができたのだった。
「えっ? 海外赴任?」
父さんの海外赴任を聞かされたのは、中学三年生の頃だった。
高校の進路が大体決まった頃だったのでそれは青天の霹靂だった。
「どうだ? 家族で行かないか?」
と聞かれたけど俺は首を振った。母さんとまだ小学生の弟はついていくことにしたらしい。俺は急きょ進路を変更して、山の中の全寮制の高校に入ることにした。
学力もちょうどそこに合っていたので、実は候補に入れていたのだ。
なんか親から離れて暮らすって楽しそうじゃん?
「智紀、本当に大丈夫なの?」
「智紀、一年ぐらいニートになってもいいから一緒に行った方がいいんじゃないのか?」
過保護な両親にそう言われたが、俺は揺らがなかった。実は弟の背が俺より高くなりそうで一緒にいたくなかったというのもある。
中学三年生になった俺の背は、まだ150cmしかなかった。
小学校の頃もチビだったが、今でもチビで困ってしまう。毎日牛乳を一本(一リットル)は飲んでいるというのに何故背が伸びないのか教えてほしい。
父さんには、「骨は絶対強くなるから大丈夫だ!」とか言われるし、弟には、「俺、にーちゃんの背抜くかもー」とか言われて散々である。
そんなコンプレックスもあり、一人で新天地に赴きたかったのだ。
「なぁ、にーちゃん考え直せよ。春嵐高校って男子校なんだろ? にーちゃんみたいにちっちぇーのが行ったら絶対いじめられるって!」
「うるさい! 背の高低で判断する奴なんて相手にするわけないだろう!」
「まぁ……いじめとかそういうのにはすごく敏感な高校みたいだから大丈夫だろうとは思うけど……私立だしね」
母さんがネットの口コミなどを調べてため息をついていた。
金を使わせてしまうのは悪いと思ったが、そういった経緯で俺は私立春嵐高校に入ることになったのだった。
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