上 下
49 / 51

49.中華料理はおいしいけれど

しおりを挟む
 本当にディナーの席だった。
 これは俺の感想である。
 この国は中国っぽいと俺は勝手に思っているが、中国の昔のイメージというのは俺にはなく、西洋の王族とかのディナーパーティーみたいなのかなとか考えていた。
 それは立食形式で、真ん中では男女がダンスをしている、そんな図である。
 予想は外れ、でかくて四角いテーブル席に料理が所せましと乗っけられたところに王族と共に同席することとなった。
 その席には、ケイ王、王妃、王太子、王太子妃、そしてフン王子がいる。それを見て俺は猫紙を見やった。

〈……なんというあほうか〉
〈あ、やっぱそういうこと?〉
〈そうでなければ同席などさせぬじゃろうて〉

 心の中で会話をしながら俺は苦笑した。

〈そういえば猫紙さま、まだ美鈴とこうやって会話できないのか?〉
〈つい先ほどからできるようになったのぉ。美鈴は怒り狂っておるぞ〉

 つい先ほどって、例の王子の姿を見て猫紙を信用することに決めたとか、そういう話なのかもしれないな。美鈴はけっこう計算高いし。あ、これは悪い意味じゃないぞ。
 美鈴は笑顔だった。その笑顔はパンズも同様ですごく怖いのは変わらない。

「私、竜樹と離れたくないのです。ですから長椅子を用意していただいてもよろしくて?」

 美鈴は図々しくそう言って、侍従に長椅子を運んでこさせた。ちなみに例のフン王子は美鈴の顔を見て笑みを浮かべたが、その腕の中に俺と猫紙がいるのを見て憎々し気な顔をした。美形が台無しですよと言いたくなるような表情で、もったいないなと純粋に思った。
 長椅子に俺を横抱きにした美鈴が腰掛け、その隣の椅子にパンズが腰掛けた。

「本日は……運命を司る神様にお越しいただき、まことに感謝します。神様の従者であるタツキ殿だったか、そなたの想い人であるミレイ殿を我が国の王子が留めおいていた。タツキ殿とミレイ殿が再会できたことを祝って、今宵は晩餐会を開いたのだ。どうか存分に食べ、飲んでいってほしい」

 ケイ王がそんな口上を述べた。
 俺は目を丸くした。
 王さまがそう簡単に謝ったりするものではないということぐらいわかっているつもりだが、自分の子の不始末についてどう責任を取るつもりなんだろうか。

「タツキ、せっかくの料理よ。いただきましょう。神様への料理はなにかしら? 肉や魚をたくさんいただけるとありがたいのだけど?」

 美鈴が笑顔を浮かべたまま冷たい声を発した。
 猫紙は俺の腹から下り、長椅子の端に寝そべった。

「生肉をよこすがよい。調理も味付けもするな」
「そのようにせよ」

 王が猫紙の言葉を侍従に言いつける。先に用意はされていたのか、お盆のような皿に肉の塊が乗ったものがすぐに運ばれてきた。

「ふむ、よくわかっているようじゃな」

 猫紙は舌なめずりをし、テーブルの上に乗った。そしてその皿をフン王子の隣に置くよう命じた。そして猫紙は当たり前のように肉を噛みちぎり、食べ始めた。

「こ、こんな獣が……」

 フン王子が青ざめながら呟いた。きっと王子の皿にも肉の欠片や血などが飛んでいっているに違いない。それもまた猫紙の嫌がらせだろうということはわかった。美鈴は小皿に前菜をいろいろ取ると、それを俺に食べさせ始めた。文字通りはい、あーんという奴である。
 SAN値がごりごり削られるがしかたないことと割り切って、口の前に出された料理を食べる。テーブルの向かいの席にいるのは人ではない。カカシだ。そう思いながら料理をいただくことにした。

「美鈴、俺にばかり食べさせてないで自分でも食べろよ」
「ええ、食べているわよ。大丈夫。竜樹、これもおいしいからどうぞ」

 お箸で与えづらいものはスプーンでととにかく美鈴に食べさせられた。隣にいるパンズは我関せずと上品に料理を食べている。
 でもさすがに水餃子は熱すぎるので自分のペースで食べさせてもらった。焼き餃子が食べたかったんだが、最後ごはんの代わりとして出てきたのは水餃子だった。水餃子って飯の代わりになるものなのか? と首を傾げながらもりもり食べた。
 全ておいしかったと思う。
 最後にデザートで杏仁豆腐とかマンゴープリンとか亀ゼリーとかいろいろ出てきた。
 全ておいしくて、それも美鈴に与えられるままに食べた。さすがにおなかいっぱいである。満足しておなかを軽くさすっていたら、王が口を開いた。

「満足していただけたかな?」
「ええ、どれもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「その……ミレイ殿はいつもタツキ殿をそうして膝に乗せているのかね?」

 王が聞きずらそうに尋ねる。そんなこと聞いちゃだめだろと思った。

「久しぶりに会えて、嬉しくてたまらないのです。もうタツキと片時も離れるなんて考えられませんわ」
「だ、だが! そなたは理想の炒飯が作れる男としか結婚しないと申したではないか!」

 フン王子が口を挟んできた。

「ええ、そうよ。この竜樹が作ってくれる炒飯が私の理想だわ」
「そ、そんなに言うならその男の作る炒飯を私に食べさせろ!」

 え? 俺? と思わず俺は自分を指さしてしまった。
 美鈴は首を傾げた。

「どうして? 私が竜樹の炒飯を一生食べたいのであって、竜樹の炒飯は他の誰かに食べさせるものではないわ。どうして私を軟禁した王子なんかに私の竜樹の炒飯を食べさせなければいけないの?」
「そ、それは……」

 王子は言葉につまった。悔しそうな顔をする。

「わしもタツキ殿の作る炒飯には興味があるのだが……」

 王がおそるおそるというように言い出した。
 さすがに王様に食べさせるような炒飯は作れないっての。

「それを食べさせる利点がないのですが? お断りします」

 美鈴はけんもほろろに断った。
 猫紙がククッと喉の奥で笑った。

「竜樹の炒飯を食べさせるなら、美鈴を諦めるよう命じればいいだけのことじゃろうて」
「そ、それは……」

 王と王子の目が泳ぐ。コイツらやっぱ結託してなんか考えてたのかな。

「それは交換条件にならないわ」

 美鈴はバッサリと切り捨てた。

「私は竜樹以外好きにならないのだから、諦めないで私達に介入してくるというならこの国を出るまでだわ」
「そんな……」

 王子は蒼褪めた。そこまで嫌がられているとは王子は思っていなかったみたいだ。でも好きな相手を監禁して、自分の思い通りにしようとしたのにまだ希望があると思っていたんだろうか。それはさすがに図々しいのではないかと思う。
 まぁでも、とも考える。

「俺、炒飯作るよ。最近楽ばっかして全然作ってないからうまくできないかもしれないけど。それでも美鈴はおいしいおいしいって食べてくれるんだろ?」
「竜樹、無理しなくていいのよ?」
「俺が美鈴に食べてほしいんだ」

 おなかはいっぱいだけど、一口ぐらいなら食べられるんじゃないかな。
 というわけで急きょ俺は炒飯を作ることにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...