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49.中華料理はおいしいけれど
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本当にディナーの席だった。
これは俺の感想である。
この国は中国っぽいと俺は勝手に思っているが、中国の昔のイメージというのは俺にはなく、西洋の王族とかのディナーパーティーみたいなのかなとか考えていた。
それは立食形式で、真ん中では男女がダンスをしている、そんな図である。
予想は外れ、でかくて四角いテーブル席に料理が所せましと乗っけられたところに王族と共に同席することとなった。
その席には、ケイ王、王妃、王太子、王太子妃、そしてフン王子がいる。それを見て俺は猫紙を見やった。
〈……なんというあほうか〉
〈あ、やっぱそういうこと?〉
〈そうでなければ同席などさせぬじゃろうて〉
心の中で会話をしながら俺は苦笑した。
〈そういえば猫紙さま、まだ美鈴とこうやって会話できないのか?〉
〈つい先ほどからできるようになったのぉ。美鈴は怒り狂っておるぞ〉
つい先ほどって、例の王子の姿を見て猫紙を信用することに決めたとか、そういう話なのかもしれないな。美鈴はけっこう計算高いし。あ、これは悪い意味じゃないぞ。
美鈴は笑顔だった。その笑顔はパンズも同様ですごく怖いのは変わらない。
「私、竜樹と離れたくないのです。ですから長椅子を用意していただいてもよろしくて?」
美鈴は図々しくそう言って、侍従に長椅子を運んでこさせた。ちなみに例のフン王子は美鈴の顔を見て笑みを浮かべたが、その腕の中に俺と猫紙がいるのを見て憎々し気な顔をした。美形が台無しですよと言いたくなるような表情で、もったいないなと純粋に思った。
長椅子に俺を横抱きにした美鈴が腰掛け、その隣の椅子にパンズが腰掛けた。
「本日は……運命を司る神様にお越しいただき、まことに感謝します。神様の従者であるタツキ殿だったか、そなたの想い人であるミレイ殿を我が国の王子が留めおいていた。タツキ殿とミレイ殿が再会できたことを祝って、今宵は晩餐会を開いたのだ。どうか存分に食べ、飲んでいってほしい」
ケイ王がそんな口上を述べた。
俺は目を丸くした。
王さまがそう簡単に謝ったりするものではないということぐらいわかっているつもりだが、自分の子の不始末についてどう責任を取るつもりなんだろうか。
「タツキ、せっかくの料理よ。いただきましょう。神様への料理はなにかしら? 肉や魚をたくさんいただけるとありがたいのだけど?」
美鈴が笑顔を浮かべたまま冷たい声を発した。
猫紙は俺の腹から下り、長椅子の端に寝そべった。
「生肉をよこすがよい。調理も味付けもするな」
「そのようにせよ」
王が猫紙の言葉を侍従に言いつける。先に用意はされていたのか、お盆のような皿に肉の塊が乗ったものがすぐに運ばれてきた。
「ふむ、よくわかっているようじゃな」
猫紙は舌なめずりをし、テーブルの上に乗った。そしてその皿をフン王子の隣に置くよう命じた。そして猫紙は当たり前のように肉を噛みちぎり、食べ始めた。
「こ、こんな獣が……」
フン王子が青ざめながら呟いた。きっと王子の皿にも肉の欠片や血などが飛んでいっているに違いない。それもまた猫紙の嫌がらせだろうということはわかった。美鈴は小皿に前菜をいろいろ取ると、それを俺に食べさせ始めた。文字通りはい、あーんという奴である。
SAN値がごりごり削られるがしかたないことと割り切って、口の前に出された料理を食べる。テーブルの向かいの席にいるのは人ではない。カカシだ。そう思いながら料理をいただくことにした。
「美鈴、俺にばかり食べさせてないで自分でも食べろよ」
「ええ、食べているわよ。大丈夫。竜樹、これもおいしいからどうぞ」
お箸で与えづらいものはスプーンでととにかく美鈴に食べさせられた。隣にいるパンズは我関せずと上品に料理を食べている。
でもさすがに水餃子は熱すぎるので自分のペースで食べさせてもらった。焼き餃子が食べたかったんだが、最後ごはんの代わりとして出てきたのは水餃子だった。水餃子って飯の代わりになるものなのか? と首を傾げながらもりもり食べた。
全ておいしかったと思う。
最後にデザートで杏仁豆腐とかマンゴープリンとか亀ゼリーとかいろいろ出てきた。
全ておいしくて、それも美鈴に与えられるままに食べた。さすがにおなかいっぱいである。満足しておなかを軽くさすっていたら、王が口を開いた。
「満足していただけたかな?」
「ええ、どれもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「その……ミレイ殿はいつもタツキ殿をそうして膝に乗せているのかね?」
王が聞きずらそうに尋ねる。そんなこと聞いちゃだめだろと思った。
「久しぶりに会えて、嬉しくてたまらないのです。もうタツキと片時も離れるなんて考えられませんわ」
「だ、だが! そなたは理想の炒飯が作れる男としか結婚しないと申したではないか!」
フン王子が口を挟んできた。
「ええ、そうよ。この竜樹が作ってくれる炒飯が私の理想だわ」
「そ、そんなに言うならその男の作る炒飯を私に食べさせろ!」
え? 俺? と思わず俺は自分を指さしてしまった。
美鈴は首を傾げた。
「どうして? 私が竜樹の炒飯を一生食べたいのであって、竜樹の炒飯は他の誰かに食べさせるものではないわ。どうして私を軟禁した王子なんかに私の竜樹の炒飯を食べさせなければいけないの?」
「そ、それは……」
王子は言葉につまった。悔しそうな顔をする。
「わしもタツキ殿の作る炒飯には興味があるのだが……」
王がおそるおそるというように言い出した。
さすがに王様に食べさせるような炒飯は作れないっての。
「それを食べさせる利点がないのですが? お断りします」
美鈴はけんもほろろに断った。
猫紙がククッと喉の奥で笑った。
「竜樹の炒飯を食べさせるなら、美鈴を諦めるよう命じればいいだけのことじゃろうて」
「そ、それは……」
王と王子の目が泳ぐ。コイツらやっぱ結託してなんか考えてたのかな。
「それは交換条件にならないわ」
美鈴はバッサリと切り捨てた。
「私は竜樹以外好きにならないのだから、諦めないで私達に介入してくるというならこの国を出るまでだわ」
「そんな……」
王子は蒼褪めた。そこまで嫌がられているとは王子は思っていなかったみたいだ。でも好きな相手を監禁して、自分の思い通りにしようとしたのにまだ希望があると思っていたんだろうか。それはさすがに図々しいのではないかと思う。
まぁでも、とも考える。
「俺、炒飯作るよ。最近楽ばっかして全然作ってないからうまくできないかもしれないけど。それでも美鈴はおいしいおいしいって食べてくれるんだろ?」
「竜樹、無理しなくていいのよ?」
「俺が美鈴に食べてほしいんだ」
おなかはいっぱいだけど、一口ぐらいなら食べられるんじゃないかな。
というわけで急きょ俺は炒飯を作ることにした。
これは俺の感想である。
この国は中国っぽいと俺は勝手に思っているが、中国の昔のイメージというのは俺にはなく、西洋の王族とかのディナーパーティーみたいなのかなとか考えていた。
それは立食形式で、真ん中では男女がダンスをしている、そんな図である。
予想は外れ、でかくて四角いテーブル席に料理が所せましと乗っけられたところに王族と共に同席することとなった。
その席には、ケイ王、王妃、王太子、王太子妃、そしてフン王子がいる。それを見て俺は猫紙を見やった。
〈……なんというあほうか〉
〈あ、やっぱそういうこと?〉
〈そうでなければ同席などさせぬじゃろうて〉
心の中で会話をしながら俺は苦笑した。
〈そういえば猫紙さま、まだ美鈴とこうやって会話できないのか?〉
〈つい先ほどからできるようになったのぉ。美鈴は怒り狂っておるぞ〉
つい先ほどって、例の王子の姿を見て猫紙を信用することに決めたとか、そういう話なのかもしれないな。美鈴はけっこう計算高いし。あ、これは悪い意味じゃないぞ。
美鈴は笑顔だった。その笑顔はパンズも同様ですごく怖いのは変わらない。
「私、竜樹と離れたくないのです。ですから長椅子を用意していただいてもよろしくて?」
美鈴は図々しくそう言って、侍従に長椅子を運んでこさせた。ちなみに例のフン王子は美鈴の顔を見て笑みを浮かべたが、その腕の中に俺と猫紙がいるのを見て憎々し気な顔をした。美形が台無しですよと言いたくなるような表情で、もったいないなと純粋に思った。
長椅子に俺を横抱きにした美鈴が腰掛け、その隣の椅子にパンズが腰掛けた。
「本日は……運命を司る神様にお越しいただき、まことに感謝します。神様の従者であるタツキ殿だったか、そなたの想い人であるミレイ殿を我が国の王子が留めおいていた。タツキ殿とミレイ殿が再会できたことを祝って、今宵は晩餐会を開いたのだ。どうか存分に食べ、飲んでいってほしい」
ケイ王がそんな口上を述べた。
俺は目を丸くした。
王さまがそう簡単に謝ったりするものではないということぐらいわかっているつもりだが、自分の子の不始末についてどう責任を取るつもりなんだろうか。
「タツキ、せっかくの料理よ。いただきましょう。神様への料理はなにかしら? 肉や魚をたくさんいただけるとありがたいのだけど?」
美鈴が笑顔を浮かべたまま冷たい声を発した。
猫紙は俺の腹から下り、長椅子の端に寝そべった。
「生肉をよこすがよい。調理も味付けもするな」
「そのようにせよ」
王が猫紙の言葉を侍従に言いつける。先に用意はされていたのか、お盆のような皿に肉の塊が乗ったものがすぐに運ばれてきた。
「ふむ、よくわかっているようじゃな」
猫紙は舌なめずりをし、テーブルの上に乗った。そしてその皿をフン王子の隣に置くよう命じた。そして猫紙は当たり前のように肉を噛みちぎり、食べ始めた。
「こ、こんな獣が……」
フン王子が青ざめながら呟いた。きっと王子の皿にも肉の欠片や血などが飛んでいっているに違いない。それもまた猫紙の嫌がらせだろうということはわかった。美鈴は小皿に前菜をいろいろ取ると、それを俺に食べさせ始めた。文字通りはい、あーんという奴である。
SAN値がごりごり削られるがしかたないことと割り切って、口の前に出された料理を食べる。テーブルの向かいの席にいるのは人ではない。カカシだ。そう思いながら料理をいただくことにした。
「美鈴、俺にばかり食べさせてないで自分でも食べろよ」
「ええ、食べているわよ。大丈夫。竜樹、これもおいしいからどうぞ」
お箸で与えづらいものはスプーンでととにかく美鈴に食べさせられた。隣にいるパンズは我関せずと上品に料理を食べている。
でもさすがに水餃子は熱すぎるので自分のペースで食べさせてもらった。焼き餃子が食べたかったんだが、最後ごはんの代わりとして出てきたのは水餃子だった。水餃子って飯の代わりになるものなのか? と首を傾げながらもりもり食べた。
全ておいしかったと思う。
最後にデザートで杏仁豆腐とかマンゴープリンとか亀ゼリーとかいろいろ出てきた。
全ておいしくて、それも美鈴に与えられるままに食べた。さすがにおなかいっぱいである。満足しておなかを軽くさすっていたら、王が口を開いた。
「満足していただけたかな?」
「ええ、どれもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「その……ミレイ殿はいつもタツキ殿をそうして膝に乗せているのかね?」
王が聞きずらそうに尋ねる。そんなこと聞いちゃだめだろと思った。
「久しぶりに会えて、嬉しくてたまらないのです。もうタツキと片時も離れるなんて考えられませんわ」
「だ、だが! そなたは理想の炒飯が作れる男としか結婚しないと申したではないか!」
フン王子が口を挟んできた。
「ええ、そうよ。この竜樹が作ってくれる炒飯が私の理想だわ」
「そ、そんなに言うならその男の作る炒飯を私に食べさせろ!」
え? 俺? と思わず俺は自分を指さしてしまった。
美鈴は首を傾げた。
「どうして? 私が竜樹の炒飯を一生食べたいのであって、竜樹の炒飯は他の誰かに食べさせるものではないわ。どうして私を軟禁した王子なんかに私の竜樹の炒飯を食べさせなければいけないの?」
「そ、それは……」
王子は言葉につまった。悔しそうな顔をする。
「わしもタツキ殿の作る炒飯には興味があるのだが……」
王がおそるおそるというように言い出した。
さすがに王様に食べさせるような炒飯は作れないっての。
「それを食べさせる利点がないのですが? お断りします」
美鈴はけんもほろろに断った。
猫紙がククッと喉の奥で笑った。
「竜樹の炒飯を食べさせるなら、美鈴を諦めるよう命じればいいだけのことじゃろうて」
「そ、それは……」
王と王子の目が泳ぐ。コイツらやっぱ結託してなんか考えてたのかな。
「それは交換条件にならないわ」
美鈴はバッサリと切り捨てた。
「私は竜樹以外好きにならないのだから、諦めないで私達に介入してくるというならこの国を出るまでだわ」
「そんな……」
王子は蒼褪めた。そこまで嫌がられているとは王子は思っていなかったみたいだ。でも好きな相手を監禁して、自分の思い通りにしようとしたのにまだ希望があると思っていたんだろうか。それはさすがに図々しいのではないかと思う。
まぁでも、とも考える。
「俺、炒飯作るよ。最近楽ばっかして全然作ってないからうまくできないかもしれないけど。それでも美鈴はおいしいおいしいって食べてくれるんだろ?」
「竜樹、無理しなくていいのよ?」
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