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29.商人はとても話が早かった
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「どうぞおかけください」
お茶とお茶菓子を出されたが、なんとなくソファに腰かけるのはためらわれた。移動中も宿などで身体は拭いていたが服はキレイとはとても言い難かったからだった。(今日は例の貫頭衣は着ていない。そっちを着ていればよかった)
〈猫紙さま、なんとかならない?〉
〈……ミンメイ、服の汚れが落ちることをイメージしてクリーンと唱えてみよ〉
こそこそと心の中で尋ねると猫紙さんはミンメイに顔を向けた。ミンメイは少し困ったような顔をした。
そして。
「……クリーン」
小さな声で唱える。するとミンメイの衣服の色が明るくなった。
「まぁ……魔法が使えるのですね。もう少々お待ちください」
召使いと思われる女性が思わずといったように感嘆の声を上げた。
「私……」
ミンメイは信じられない物を見るように自分の衣服を確認した。そして俺を見る。
「あ、あの、竜樹さんの服も……」
「ああ、できれば頼む」
魔法でキレイにしてもらう。どういう原理なのか、本当になんかさっぱりした。これ、もしかして俺自身もキレイになってないか?
「おお、すげえ。ありがとう、ミンメイ」
「……お役に立ててよかったです」
ミンメイは少し涙ぐんでいるように見えた。そういえばミンメイには魔法の素質があるって猫紙が言ってたもんな。よかったなと思う。だが、じゃあ俺は? と自分自身のことを考えた時冷汗が流れた。俺には魔法の才はないのだった。
俺、やっぱ鳥狩るぐらいしかやれることないんじゃ……。
内心落ち込んでいたら城門の外で会った恰幅のよいおっさん―パンズがやってきた。
「すまない、待たせてしまったようだね。訪ねてくれて嬉しいよ」
そう言ってヨウシュウ商会の会頭であるパンズが嬉しそうに笑んだ。
「で、鳥を売ってくれるという話でいいのかな」
「それはかまわないのですが、鳥の何羽かと引き換えに王城に紹介状を書いていただくということはできませんか?」
パンズの目が鋭くなった。あれ? 俺やっぱなんかやらかした?
「王城には何をしに行くつもりかな?」
〈おーい、猫紙さま。どこまで話していいんだ?〉
〈コヤツになら話して構わぬじゃろう。決して悪人ではない。ただし、上にいるヤツはだめじゃ〉
上? と思った時、猫紙が天井を見上げてフーッ! と威嚇した。
「猫紙さま?」
「……たいへん失礼しました」
今のことでパンズには何が起きたのかわかったらしく、チリンチリンとベルを鳴らした。すぐに召使いが現れる。
「人払いを。全てな」
「かしこまりました」
ミンメイは何が起こっているのかと戸惑ったような表情をしている。だが口をきいてはいけないと察したのか、黙っていてくれた。そのままなんとなく俺たちは黙っていた。
「……いなくなったようじゃな」
「どこの神さまか存じませぬが、王城に用事があるのは貴方さまで間違いないでしょうか」
猫紙がしゃべったのでぎょっとしたが、パンズは冷静だった。もしかしたらこの世界では、こんなことが普通にあるのだろうか。
「うむ」
「失礼かとは存じますがお尋ねしても?」
「うむ。我は運命を司る神である」
パンズは目を見開いた。
「……そうでございましたか……貴方さまが……」
なんか猫紙が偉そうだ。神さまが普通にいるってなんなんだろうと俺は遠い目をした。しかもこの商人、運命を司る神を知っているようだ。
「この商会に神さまをお迎えできるとは思ってもみませんでした。そちらの方々も共にいつまでもご滞在を」
「そういうわけにもいかぬ。我は王子の運命の相手を知らせてやらねばならないのでな」
猫神がそう言うとパンズはこの世の終りのような顔をした。今にも土下座をしそうである。
「……そのまま王城に住まわれるおつもりですか?」
「いや、我はこの竜樹の探し人を共に探す旅をしておる。全てこの竜樹次第じゃ」
「こちらの方に加護を与えられているということですか」
「うむ。我への信仰心が強ければ遠く離れていても加護は届くであろう」
「おお……! ではせめて今晩はこちらでお休みください。明日にでも共に王城へ参りましょう」
猫紙とパンズの会話を聞きながら俺たちは黙っていた。猫紙って本当に神さまだったんだな。
〈……そなた、今何やら失礼なことを考えてはおらなんだか?〉
〈猫紙さまのキノセイデスヨー〉
それよりも商人との会話に専念してほしい。
鳥は普通に買い取ってもらい、俺たちは広い部屋をあてがわれた。ミンメイには別室が用意されたが、ソファでいいので同じ部屋にいたいと言われてしまった。急きょベッドをもう一台運んでもらい、俺たちはやっと一息ついたのだった。
「……なぁ、猫紙さま。神さまってけっこうそこらを歩いてるもんなわけ?」
「人が集まるところにはいることが多いのう」
「それって信仰が集めやすいから?」
「簡単に言えばそうじゃ」
身も蓋もない。
「もちろん山にも神はおるし、村にも住んでいる神はおろう。だが基本は呼ばれなければ姿を現すことはない」
「そういえば猫紙さまって召喚されて失敗したんだよな」
「うむ」
うちの美鈴が代わりに召喚されたのだ。(美鈴が猫紙を突き飛ばしたからである)王城とは違うところに落ちたみたいだけど。
美鈴は今どこにいるんだろう。早く会いたいと思った。
お茶とお茶菓子を出されたが、なんとなくソファに腰かけるのはためらわれた。移動中も宿などで身体は拭いていたが服はキレイとはとても言い難かったからだった。(今日は例の貫頭衣は着ていない。そっちを着ていればよかった)
〈猫紙さま、なんとかならない?〉
〈……ミンメイ、服の汚れが落ちることをイメージしてクリーンと唱えてみよ〉
こそこそと心の中で尋ねると猫紙さんはミンメイに顔を向けた。ミンメイは少し困ったような顔をした。
そして。
「……クリーン」
小さな声で唱える。するとミンメイの衣服の色が明るくなった。
「まぁ……魔法が使えるのですね。もう少々お待ちください」
召使いと思われる女性が思わずといったように感嘆の声を上げた。
「私……」
ミンメイは信じられない物を見るように自分の衣服を確認した。そして俺を見る。
「あ、あの、竜樹さんの服も……」
「ああ、できれば頼む」
魔法でキレイにしてもらう。どういう原理なのか、本当になんかさっぱりした。これ、もしかして俺自身もキレイになってないか?
「おお、すげえ。ありがとう、ミンメイ」
「……お役に立ててよかったです」
ミンメイは少し涙ぐんでいるように見えた。そういえばミンメイには魔法の素質があるって猫紙が言ってたもんな。よかったなと思う。だが、じゃあ俺は? と自分自身のことを考えた時冷汗が流れた。俺には魔法の才はないのだった。
俺、やっぱ鳥狩るぐらいしかやれることないんじゃ……。
内心落ち込んでいたら城門の外で会った恰幅のよいおっさん―パンズがやってきた。
「すまない、待たせてしまったようだね。訪ねてくれて嬉しいよ」
そう言ってヨウシュウ商会の会頭であるパンズが嬉しそうに笑んだ。
「で、鳥を売ってくれるという話でいいのかな」
「それはかまわないのですが、鳥の何羽かと引き換えに王城に紹介状を書いていただくということはできませんか?」
パンズの目が鋭くなった。あれ? 俺やっぱなんかやらかした?
「王城には何をしに行くつもりかな?」
〈おーい、猫紙さま。どこまで話していいんだ?〉
〈コヤツになら話して構わぬじゃろう。決して悪人ではない。ただし、上にいるヤツはだめじゃ〉
上? と思った時、猫紙が天井を見上げてフーッ! と威嚇した。
「猫紙さま?」
「……たいへん失礼しました」
今のことでパンズには何が起きたのかわかったらしく、チリンチリンとベルを鳴らした。すぐに召使いが現れる。
「人払いを。全てな」
「かしこまりました」
ミンメイは何が起こっているのかと戸惑ったような表情をしている。だが口をきいてはいけないと察したのか、黙っていてくれた。そのままなんとなく俺たちは黙っていた。
「……いなくなったようじゃな」
「どこの神さまか存じませぬが、王城に用事があるのは貴方さまで間違いないでしょうか」
猫紙がしゃべったのでぎょっとしたが、パンズは冷静だった。もしかしたらこの世界では、こんなことが普通にあるのだろうか。
「うむ」
「失礼かとは存じますがお尋ねしても?」
「うむ。我は運命を司る神である」
パンズは目を見開いた。
「……そうでございましたか……貴方さまが……」
なんか猫紙が偉そうだ。神さまが普通にいるってなんなんだろうと俺は遠い目をした。しかもこの商人、運命を司る神を知っているようだ。
「この商会に神さまをお迎えできるとは思ってもみませんでした。そちらの方々も共にいつまでもご滞在を」
「そういうわけにもいかぬ。我は王子の運命の相手を知らせてやらねばならないのでな」
猫神がそう言うとパンズはこの世の終りのような顔をした。今にも土下座をしそうである。
「……そのまま王城に住まわれるおつもりですか?」
「いや、我はこの竜樹の探し人を共に探す旅をしておる。全てこの竜樹次第じゃ」
「こちらの方に加護を与えられているということですか」
「うむ。我への信仰心が強ければ遠く離れていても加護は届くであろう」
「おお……! ではせめて今晩はこちらでお休みください。明日にでも共に王城へ参りましょう」
猫紙とパンズの会話を聞きながら俺たちは黙っていた。猫紙って本当に神さまだったんだな。
〈……そなた、今何やら失礼なことを考えてはおらなんだか?〉
〈猫紙さまのキノセイデスヨー〉
それよりも商人との会話に専念してほしい。
鳥は普通に買い取ってもらい、俺たちは広い部屋をあてがわれた。ミンメイには別室が用意されたが、ソファでいいので同じ部屋にいたいと言われてしまった。急きょベッドをもう一台運んでもらい、俺たちはやっと一息ついたのだった。
「……なぁ、猫紙さま。神さまってけっこうそこらを歩いてるもんなわけ?」
「人が集まるところにはいることが多いのう」
「それって信仰が集めやすいから?」
「簡単に言えばそうじゃ」
身も蓋もない。
「もちろん山にも神はおるし、村にも住んでいる神はおろう。だが基本は呼ばれなければ姿を現すことはない」
「そういえば猫紙さまって召喚されて失敗したんだよな」
「うむ」
うちの美鈴が代わりに召喚されたのだ。(美鈴が猫紙を突き飛ばしたからである)王城とは違うところに落ちたみたいだけど。
美鈴は今どこにいるんだろう。早く会いたいと思った。
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