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28.商人を訪ねることにした

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 なんか嫌な予感はしてたんだ。別に俺の受け答えが悪かったから、とかそんなことじゃないと思うんだ。

「待ちな。全部置いてけよ」

 冒険者ゴンフイから出てヨウシュウ商会に向かう道の途中で、俺たちは後ろから声をかけられた。

〈猫紙さま、物騒なのは寄ってこないんじゃなかったのか?〉
〈力量をわからぬ阿呆が絡んでくることはあるじゃろう。人間はその辺の感覚が鈍い故な〉

 猫紙にクレームを上げたがしれっと返された。ああうん、確かにそういうこともあるかも。つか俺ストリートファイトとかやったことないぞ。どーしよっかなと思いながら振り返ると、ゴンフイでヒマそうにしていた男たち三人がうっと詰まった。
 なんだろう。俺は首を傾げた。

「おい、お前が行けよ!」
「ええっ? お前が先だろ……」
「いいから行けって!」

 一人がドンッと押されて俺たちの前でたたらを踏んだ。
「おいっ!」と男が文句を言う為に後ろを振り向いたので、俺はその隙にミンメイの腕を取って走り出した。三十六計逃げるに如かず。いくら情けないと言われようと、争いは避けるに限る。

「おいっ! 待てっ!」

 後ろから男たちの焦るような声がしたが、何故か追ってはこなかった。俺はそのままミンメイと走れるだけ走って逃げた。

「っはーっ、はーっ、はーっ……」
「はあ、はあ、はあ……」

 途中道に迷って遠回りをしてしまったが、どうにかヨウシュウ商会についた。いくら再構築された身体が以前より軽いとはいっても限度がある。

〈情けないのう〉
〈……猫紙さまは籠の上に乗ってただけじゃないですか……〉
〈何を言う。あやつらを退けたのはこの眼力じゃ!〉
〈そうなんですか。ありがとうございました……〉

 猫紙の化け猫ばりの睨みによって男たちは追ってこなかったらしい。だったらこんなにがんばって走る必要なかったじゃないか。

〈……そなた今失礼なことを思わなんだか?〉
〈ヤダナー、猫紙さまのキノセイデスヨー〉

 いちいち察しがよくて困る。でも今回は助かった。俺本気で戦闘力ないし。

「……結局ここの厄介になるしかないか。でもな……」

 俺はこの世界に鳥を狩りに来たわけじゃない。あの日死んだはずの美鈴を探しにきたんだ。だからここでは鳥を売るだけだ。ミンメイにそう話したら彼女は何を言っているんだというような顔をした。

「売ったらまず宿を探しましょう。それから王城を訪ねればいいんですよね?」

 と首を傾げられた。いい子だなぁとしみじみ思った。
 でも、と考える。ただの冒険者が「神さまをお届けに上がりました」と言ったところで信用されるものだろうか。ただ行っても門前払いされるのがいいところだろう。下手したら妄言と取られて切り捨てられるんじゃないか?

「……紹介状とかもらえないかなぁ……」

 鳥を何羽か渡したら王城関係者に紹介状を書いてもらえないだろうか。だってこのヨウシュウ商会の建物、けっこう立派で大きいし。だからきっと王城にも伝手があると思う。ようやく息が整ったので俺たちは扉の前を守っているのだろう衛士に声をかけた。

「すいません。パンズさんに鳥を売ってほしいと言われたのでこちらに来たのですが、パンズさんはいらっしゃいますか?」

 ミンメイが商人に渡されたという名刺を衛士に見せる。ロホロホ鳥を売る交渉の際にもらったらしい。確かにこんな大きな商会では交渉相手も選ぶだろう。衛士はそれを見てすぐに扉を開けてくれた。

「受付で話をするように」
「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げて建物の中に足を踏み入れる。建物の中もキレイだった。

「こんにちは、こちらはヨウシュウ商会です。どのようなご用件でしょうか」

 ここの受付の女性は美人だった。やっぱり受付は美人じゃないとなと思う。ここからの話はミンメイに頼んだ。

「鳥、でございますか。失礼ですが見せていただいても?」

 俺は腰に下げた鳥を持ち上げて見せた。

「まぁ……ロホロホ鳥にバイ鳥まで……少々お待ちください」

 受付の女性が鈴を鳴らす。ほどなくして別の女性がやってきた。

「パンズ様のお客様です」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」

 俺たちはその女性に着いて建物の奥へ通された。廊下の装飾も見事だった。

「こちらでお待ちください。今お茶を用意します」

 そう言って女性は部屋を出て行った。

「……あれ? なんか俺間違ったかな……」
「そ、そんなことはないと思いますよ……」

 通された部屋もまた豪奢だった。ソファも立派で座るのがためらわれる。俺たちは冷汗を流しながら顔を見合わせたのだった。
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