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11.ミンメイ
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「何故戻ってきた」
腹違いの兄の声に、ミンメイはびくっと体を震わせた。この兄は相変わらず彼女が目障りでしかたないようだった。
「……ええと……」
何故と言われてもミンメイが帰ってくる場所はここしかない。追い出されたら路頭に迷うしかないのだ。
「しかも得体の知れない男を連れ込んだそうだな。ふん、親子共に男漁りに余念がないとみえる」
「……っっ」
兄の言葉に反論したかったが、そんなことをしたらこれ幸いと追い出されてしまうことがミンメイにはわかっていた。だから彼女はぐっと言葉を飲み込む。
「まあまああなた、ミンメイが帰ってきたのだからいいじゃありませんか。さ、ミンメイ。家の仕事がいっぱい残っていますからね。終らないと夕飯はありませんよ。急ぎなさい」
「は、はい!」
口を挟んできたのは兄嫁だった。いつも笑顔で柔和な物言いをする女性だがその内容はひどい。やっとの思いで帰ってきたというのに休む間もなく掃除、洗濯、炊事と下働きの者たちと混じって働かされる。それでもたった一人でやれといわれないだけましだとミンメイは思っていた。
兄嫁が嫁いできてすぐにミンメイは下働きと同じように働かされるようになった。後妻だった母が流行り病で亡くなった後、ミンメイは兄に毎日のように出て行けと言われていた。兄嫁は隣村の出身だったが毎日兄にひどい言葉を投げかけられている義妹が忍びなかったのだろう。兄とできるだけ関わりを持たないで済むように、
「ただ飯食らいはよくないわ。働きなさい」
と笑顔でミンメイに言い、下女に預けたのだった。きっと憎まれ役を買ってでてくれたのだろう。下女たちは基本ミンメイの家族に触れることはないが、ミンメイの母が亡くなったことは知っていた。
「成人すればどこかへお嫁に行けるだろう? それまでの辛抱だよ」
下女たちはそう言ってミンメイを慰めた。ミンメイは元々体力があまりなく、更に小食だった。家事や雑事を終えるともうへとへとで食べる気力もなくなってしまう。おかげでミンメイはとても細く、来年成人するようにはとても見えなかった。
ミンメイが竜樹を連れてきたことで今夜は久しぶりに宴席を設けたらしい。たくさんの料理が用意され、侍女に渡され運ばれていく。その中には竜樹に渡された鳥をさばいて作られた料理もあった。
(ロホロホ鳥、おいしかったな……)
村の狩人でもめったに狩れないロホロホ鳥を、竜樹は石を投げただけで捕まえていた。実際その様子を目の当たりにしたミンメイは開いた口が塞がらなかった。山の上の方に住んでいたというから鳥を捕まえるのは慣れているのかもしれなかったが、きっと竜樹についていけば食いっぱぐれることはなさそうに思えた。
(王都に行くって言ってたけど……連れていってもらえないかな)
王都へは一度だけ村長である父に連れて行ってもらったことがある。人がいっぱいいて、店がたくさんあって色とりどりで、まるで夢の中にいるようだった。
ミンメイは軽く首を振った。昨日助けてもらい、ロホロホ鳥を食べさせてもらっただけで幸せではないか。王都まで連れていってほしいなど図々しいにもほどがあると彼女は思った。
できあがった料理を器によそい、それをお盆に載せたりと忙しく立ち働いていると村長が呼んでいるという。宴席にこのままの格好で出るわけにはいかないからと、ざっと全身を綺麗にされ、母のお下がりである衣装を着せられて宴席へ顔を出した。
「……お呼びでしょうか?」
「ミンメイ、こちらへおいで。タツキさんに改めて礼を言いなさい」
「は、はい。タツキさん、本当にありがとうございました」
父である村長に促されミンメイは頭を下げた。兄が射殺さんばかりに睨んでいるのを感じ、彼女は早々に退室したかったが竜樹は許さなかった。ミンメイが細すぎるからと、自分に出された料理を皿に取り分け彼女に食べさせたのである。彼女は真っ赤になった。
(ううん、きっと竜樹さんはこの村の風習はご存知ではないはず……)
しかも竜樹はミンメイを案内役として王都へ向かうという。明日は一日準備をし、明後日には発つと言われてミンメイは混乱した。
村長はあからさまにほっとした顔をしていたが、ミンメイを厄介払いしたいはずの兄は更に鋭い眼差しで彼女を睨んでいた。
(準備って、何をすればいいかしら……)
宴席を辞すと、侍女から兄嫁からの伝言を受け取った。もう部屋に戻ってもいいらしい。だが必ず部屋の扉は厳重に閉めておくようにとも言われた。兄嫁の言うことに間違いはない。ミンメイは首を傾げたが兄嫁に言われた通りにした。
腹違いの兄の声に、ミンメイはびくっと体を震わせた。この兄は相変わらず彼女が目障りでしかたないようだった。
「……ええと……」
何故と言われてもミンメイが帰ってくる場所はここしかない。追い出されたら路頭に迷うしかないのだ。
「しかも得体の知れない男を連れ込んだそうだな。ふん、親子共に男漁りに余念がないとみえる」
「……っっ」
兄の言葉に反論したかったが、そんなことをしたらこれ幸いと追い出されてしまうことがミンメイにはわかっていた。だから彼女はぐっと言葉を飲み込む。
「まあまああなた、ミンメイが帰ってきたのだからいいじゃありませんか。さ、ミンメイ。家の仕事がいっぱい残っていますからね。終らないと夕飯はありませんよ。急ぎなさい」
「は、はい!」
口を挟んできたのは兄嫁だった。いつも笑顔で柔和な物言いをする女性だがその内容はひどい。やっとの思いで帰ってきたというのに休む間もなく掃除、洗濯、炊事と下働きの者たちと混じって働かされる。それでもたった一人でやれといわれないだけましだとミンメイは思っていた。
兄嫁が嫁いできてすぐにミンメイは下働きと同じように働かされるようになった。後妻だった母が流行り病で亡くなった後、ミンメイは兄に毎日のように出て行けと言われていた。兄嫁は隣村の出身だったが毎日兄にひどい言葉を投げかけられている義妹が忍びなかったのだろう。兄とできるだけ関わりを持たないで済むように、
「ただ飯食らいはよくないわ。働きなさい」
と笑顔でミンメイに言い、下女に預けたのだった。きっと憎まれ役を買ってでてくれたのだろう。下女たちは基本ミンメイの家族に触れることはないが、ミンメイの母が亡くなったことは知っていた。
「成人すればどこかへお嫁に行けるだろう? それまでの辛抱だよ」
下女たちはそう言ってミンメイを慰めた。ミンメイは元々体力があまりなく、更に小食だった。家事や雑事を終えるともうへとへとで食べる気力もなくなってしまう。おかげでミンメイはとても細く、来年成人するようにはとても見えなかった。
ミンメイが竜樹を連れてきたことで今夜は久しぶりに宴席を設けたらしい。たくさんの料理が用意され、侍女に渡され運ばれていく。その中には竜樹に渡された鳥をさばいて作られた料理もあった。
(ロホロホ鳥、おいしかったな……)
村の狩人でもめったに狩れないロホロホ鳥を、竜樹は石を投げただけで捕まえていた。実際その様子を目の当たりにしたミンメイは開いた口が塞がらなかった。山の上の方に住んでいたというから鳥を捕まえるのは慣れているのかもしれなかったが、きっと竜樹についていけば食いっぱぐれることはなさそうに思えた。
(王都に行くって言ってたけど……連れていってもらえないかな)
王都へは一度だけ村長である父に連れて行ってもらったことがある。人がいっぱいいて、店がたくさんあって色とりどりで、まるで夢の中にいるようだった。
ミンメイは軽く首を振った。昨日助けてもらい、ロホロホ鳥を食べさせてもらっただけで幸せではないか。王都まで連れていってほしいなど図々しいにもほどがあると彼女は思った。
できあがった料理を器によそい、それをお盆に載せたりと忙しく立ち働いていると村長が呼んでいるという。宴席にこのままの格好で出るわけにはいかないからと、ざっと全身を綺麗にされ、母のお下がりである衣装を着せられて宴席へ顔を出した。
「……お呼びでしょうか?」
「ミンメイ、こちらへおいで。タツキさんに改めて礼を言いなさい」
「は、はい。タツキさん、本当にありがとうございました」
父である村長に促されミンメイは頭を下げた。兄が射殺さんばかりに睨んでいるのを感じ、彼女は早々に退室したかったが竜樹は許さなかった。ミンメイが細すぎるからと、自分に出された料理を皿に取り分け彼女に食べさせたのである。彼女は真っ赤になった。
(ううん、きっと竜樹さんはこの村の風習はご存知ではないはず……)
しかも竜樹はミンメイを案内役として王都へ向かうという。明日は一日準備をし、明後日には発つと言われてミンメイは混乱した。
村長はあからさまにほっとした顔をしていたが、ミンメイを厄介払いしたいはずの兄は更に鋭い眼差しで彼女を睨んでいた。
(準備って、何をすればいいかしら……)
宴席を辞すと、侍女から兄嫁からの伝言を受け取った。もう部屋に戻ってもいいらしい。だが必ず部屋の扉は厳重に閉めておくようにとも言われた。兄嫁の言うことに間違いはない。ミンメイは首を傾げたが兄嫁に言われた通りにした。
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