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6.猫紙さま、いや猫神さまと行く森脱出計画

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 翌朝、俺はそこらへんで見つけた食材で朝食をとり、出発した。道なき道を下って滝の下に出ると、その滝がそれなりに高い位置から落ちてきているのがわかる。
 さすがに木の皮で作った鍋を荷物籠にするのは無謀だったらしく、一個は耐荷重の問題か壊れてしまった。しかたなく蔓をより合わせたものを集めて編み、籠っぽくしてみた。すごく時間がかかったし手が非常に青臭くべとべとする。川の側を進んでいたからすぐ洗うことはできたし、飲み水にそれほど困らないというのは大きい。猫紙のおかげで危険な生き物は寄ってこないので、俺の情況というのはかなりイージーモードなのだろうとは思う。思ったところでつらいのは変わらないが。

「あー、いつになったら人里に着くんだ……。猫紙さまの力とかでなんとかなんねーの?」
「そなたは贅沢じゃの。神というのは人々の信仰によって力を得るものじゃ。そなたを危険から守ることはできそうじゃがそれ以上は力不足じゃ」

 猫紙はそう言って顔を洗った。
 元々猫紙は猫ではなかったらしい。運命を司る神というのは定住しないらしく、普段はふよふよと漂っているらしいが(幽霊かよ)、今回召喚されることとなった為急遽亡くなる寸前の猫の中に入ったのだとか。

「死ぬ直前の猫?」
「身体の主と交渉をしての。簡単な願いを一つ叶える代わりに身体をもらったのじゃ」
「へー。そのまま異世界トリップとかできなかったワケ?」
「まず実体がないと転移ができぬ」
「そういうルールなわけだ。で、三毛猫の願いってなんだったんだ?」
「そなたに答える義務はない」
「それもそうだな」

 今際いまわの際の願いなんて俺が聞いていいわけがない。ちょっと反省した。

「でもさ、今回も異世界トリップしようとして車に轢かれるつもりだったんだろ? だけど俺が助けちゃったわけだよな。じゃあ猫紙さまはどうやってこっちにきたんだ?」
「企業秘密じゃ」
「企業じゃねーだろ!」

 それも答えたくないらしい。きっとなにかとんでもない不正をしたに違いない。あーやだやだ大人って。

「そなた、またなんぞ失礼なことを考えてはおらぬか?」
「イイエ、メッソウモナイデスヨー」

 川はどんどん下っている。もしかして俺がいたのは森というより山の上だったのだろうか。川沿いをそのまま歩いていくと、周りに砂利が増えてきた。もしかしたらそろそろ森から出られるかもしれない。胸が躍った。

「なぁ、猫紙さま。俺、一応この世界の言葉はわかるんだよな?」
「そのはずじゃ」
「でも文字が読めないってけっこう困るよな」
「そうじゃのう」
「猫紙さまは文字とか読めねーの?」
「……そうさの。意味はわかるが文字を書くことはできぬな」
「まぁ、その手じゃなぁ……」

 某猫型ロボットなら丸い手でも物を持ったりしていたが、猫紙の手は手ではなく前足である。

「意味はわかるのか。じゃあ辞書いらずだな」
「文字ぐらい勉強せよ」
「んー、必要最低限かな。まずは美鈴みれいを探さなきゃいけねーだろ」
「それもそうじゃのう」

 その日は歩きながら食べられそうな葉っぱや実、それから薬に使えそうな植物などを採取していった。
 美鈴はどんなところへ落ちたのだろう。俺には猫紙が共にいるからいいが、たった一人で異世界トリップさせられただなんて心細かったに違いない。しかもこちらの世界ではすでに二年が経過しているとかどうなってるんだ。焦る俺の心情を知ってか、猫紙は絶妙に話しかけてくる。それが俺の頭を冷静にさせ、かつそれなりに楽しく歩かせていた。
 そうしてまた木のうろなどを見つけ、三日目の夜もまた森で過ごすこととなった。そろそろいいかげん肉が食いたい。
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