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4.森に落とされた。幼女許すまじ

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「うわあああああ! っ! っ! っ! っ! いてててててててっっ! ~~~~っ、いてえっ!!」

 ザンッ! ガサガサガサガサガサッッ! ドカッ!
 俺と猫紙はどういうわけか空中に放り出され、森だか林だか木々が密集しているところに落ちた。あの幼女め、今度会ったらボコボコにしてくれる。

「大丈夫か?」
「……これが大丈夫に見えるのかよ……」

 身体中が痛い。とりあえず情況を確認しよう。
 俺は今木の半ばぐらいのところの枝葉に支えられ、仰向けに倒れた状態だ。その胸の上にちょこんと猫紙が乗っかっている。いい身分だな、猫紙。
 幸いどこも切ってはいないようだが、身体の痛みは変わらない。

「……なぁ、猫紙さま。これからどうやって地上に降りたらいいと思う? つかそもそも地上に降りても大丈夫なのか?」

 下りた途端巨大な動物にばくり! なんてやられるのはごめんだ。

「危険な生き物は我と共にいれば寄ってはこぬ」
「危険ってどの程度の意味で? 毒蟻とか、動物食うような食虫植物とか、トレントとかいないよな?」
「トレント……木の精霊のことか? いや……日本人の言うトレントとは化け物か。とんだゲーム脳じゃのう」

 猫紙が呆れたように言う。

「……だってしょうがねーじゃん。この世界のこととか全く知らねーしさ」
「そうじゃな。異世界だー! ひゃっはー! と無謀にも走り出す身の程知らずよりはましか……」

 猫紙は自分に言い聞かせるように呟く。俺を見る目が残念な子を見るようなものなのは気になるがそれはしょうがない。俺はそれほど頭はよくないのだ。(大事なことなのでもう一度言いました)

「そなたが考えるような危険な生き物は寄ってこないから安心しろ。それよりも目的地から離れていることが問題じゃ」
「んー? どれぐらい離れてるんだ?」
「わからぬ」
「えええ……」

 どうも猫紙自身もこの世界の土地勘はないらしい。使えない紙である。

「……そなた今失礼なことを考えたのではないか?」
「いいや? とりあえず下りて川かなんか探そうぜ。川が流れてく先に人が住んでるところがあるかもだし」
「そなた冴えておるの」
「伊達にラノベばっか読んでねぇ」
「……えばれぬの」

 見直した自分が悪かったような視線を向けられたが、とりあえず木の枝を掴んだりなんだりして俺はどうにか地上へ降り立った。

「ふー……空気は悪くないな」
「排気ガスもないしのぅ」
「こっちには花粉症とかないのか」
「植生はさまざまじゃしな。それに人口もそれほど多くはない」
「木を切りまくって急いで植林が必要って状態じゃないわけだ」

 こちらの世界についての知識はあるらしいが、地理はわからないようだ。つか森っていってもいろんなところにあるだろうしな。花粉症がないというのはとてもありがたい。
 俺は植物に興味があるわけではないから、日本の植物と何が違うのかさっぱりわからない。ただ木は好きなように生えているように見えるので人の手が入っている森ではないのだろう。……広すぎるだけかもしれないが。
 見上げると木のてっぺんははるか遠い。葉が生い茂っているせいであまり光は感じられないが、強い光を感じる方向はわかったのでそちらを仮に南と考えることにした。耳を澄ませてみると何かの生き物の声やカサカサと何かが動く音などがする。残念ながら水と判断するような音はしなかった。

「どーすっかな」

 周りをきょろきょろと観察する。どこか土地が上がっていたり下がっていたりする場所が見つかればいいのだが。

「なぁ猫紙、地面に上がってるとか下がってるとか変化はないか?」
「ふむ……」

 猫紙は俺の背に掴まっていたが、ぴょんと地面に下りた。そして俺の周りをぐるぐると歩き出す。

「……こちらの方角は徐々に下がっていっているようじゃ」

 猫紙が指したのは東(仮)の方角だった。

「よし、じゃあそっちに行こうぜ。川とかあるといいな」

 水の確保は急務である。草だのコケだのけっこう生えているせいか歩くのはたいへんだったが、猫紙の指示通りに進んでいくと、しばらくして水の音が聞こえ始めてきた。

「お? 川かな。猫紙えらい。生き物の気配はあるか?」
「我はなにかのセンサーではないのだがな……危険そうな生き物の気配はないぞ」
「よっしゃ!」

 そうしてまたしばらく歩いてから、俺たちはようやく1mぐらいの幅がある流れの速い川を見つけたのだった。
 見た目はなんともなさそうだがそのまま飲んだら腹を下しそうだったので、とりあえずそこらへんの石を割った。

「なぁ、猫紙は火を起こしたりできないのか?」
「火じゃと? ライターぐらいの火であれば出せぬこともないがの……」
「それ超助かる! じゃあ湯を作るから材料探すわ!」

 何もないところからキリモミ式の道具を作るのもたいへんなのだ。最悪割った石で木の枝だの板っぽいのだの探すつもりではあったが。とりあえず火種が手に入るなら火口ほくち(おがくずなど火を起こすきっかけになるもの)になるものを探せばいい。

「……人間とは随分面倒なことをするのじゃな」
「うっせ。川の水なんかそのまま飲んだら腹壊すっての。現代人舐めんな」

 俺はそれほどサバイバル技術もあるわけじゃない。木の皮を火であぶって箱のようなものを作るとかも全部ラノベの知識だ。さすがにコップは作れなかったから安全そうなでかい葉っぱなども利用し、苦労して湯を飲んだ。当然だがそこまでするのにすごい時間がかかっている。

「今夜は野宿か。なんかうろみたいなのがあればいいんだがな」
「近くにありそうじゃぞ」
「マジで!? ラッキー」

 俺が苦労している間に猫紙がそのへんを散策して探してきてくれたらしい。そうしてどうにか俺はその夜、無事に寝床を手に入れたのだった。



※猫紙という名称はわざとです。
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