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歪章
脱出
しおりを挟むリュウキは草むらの茂みに身を潜めながら、なるべく音を立てないよう移動した。シンは用心深く辺りを警戒し、ヒューはシルフィと離れないよう体を寄せながら、周りを見渡した。 裏仮面…なんてしつこいヤツ。
どことなく正義の信徒の歌声が、暗闇の中から聞こえてくる。それが遠くからなのか、近くからなのかわからない。一定の規則正しリズムでハモり、彼らは突然、襲ってくる。
どこにいる?奴らはどこまで自分たちに近づいている。
なぜだかわからないが、彼ら裏仮面は自分たちの居場所を正確に把握している。どこにいようが、身を隠そうが、奴らは必ず自分たちの位置を探り当てる。
シェリカの耳がぴくりとする。微かに聞こえた金属音と葉がかさ張る音に、彼女はすぐに反応した。
「近い!来るわ!」
シェリカは一度地面に鞭をはたき、張りを戻すと撓りを唸らせ、飛び込んできた裏仮面の剣を叩き落とす。さらに上からもう一人、すかさずリュウキは剣を抜き、腹を切り裂いた。
裏仮面がこの場に現れたということは…
続々と裏仮面が集まってくる。狂気の謳い文句を紡ぎだし、彼らは襲いかかる。
『正義の信徒の名の元に!!』
シンは猿のように飛び掛かる裏仮面の刃を短剣とソードブレーカをクロスさせて受け止めると、逆刃ぎざ刃のソードブレーカで剣を叩き折り、襲ってきた裏仮面の喉を短剣でかっ切った。だが…
「正義の信徒の名の元に…」
喉から血が吹き出すも裏仮面は絶命せず、再び襲い掛かった。
「くそボケが…!」
シンは身を翻して懐から液体の入った球を取り出すと、裏仮面の体にぶつけて、球体を破裂させた。
雷の魔力が入った『雷水』呼ばれる魔道具、裏仮面は痙攣したように体をピクらせ、倒れた全身を震わせる。
ヒューは襲ってきた裏仮面の腹に剣を突き刺すが、そんな傷もお構い無く、裏仮面はヒューの腕を掴んだ。
「正義の信徒の名の元に…!」
「くそ…コイツら…」
ヒューの手首を掴んだ裏仮面の腕が、かまいたちのような刃に切り飛ばさせる。さらにつむじ風が裏仮面を体を巻き込み、木っ端微塵に切り裂かれる音と共に、その体は消失した。
「大丈夫ですか?ヒュー」
シルフィの全身の周りではつむじ風のような小さな竜巻が舞っていた。神秘的で精霊らしい堂々とした立ち振舞い、数時間前まで衰弱していたとは思えないほど、彼女の姿勢は真っ直ぐであった。
「シルフィ」
「彼らは人の心を失った人間たち、いわば骸と同じですわ、情けは無用です」
シルフィは毅然とした態度で構え、迫り来る裏仮面を風魔法で、容赦なく切り裂いた。
続々と裏仮面が集まってくる、彼らには痛覚も人間らしい感情もない。あるのは正義の信徒の教義に込められた使命感のみ。
裏仮面は魔気が逆流するあの面妖な模様の腕輪をくくりつけた鎖を回転させた。
彼らは魔気を感知する力を持っている、魔法の力を持つ、ヒュー、シルフィ、シェリカ、リュウキに目掛けて狙いを集中させた。
「あの腕輪はヤバい!もし捕まったら魔法が使えなくなる!気をつけて!」
ヒューの声に反応し、リュウキはシェリカを突き飛ばした。シェリカは何するのよ…とばかり目を向けると、彼女を狙った腕輪がリュウキの腕に嵌まり、裏仮面はいつもの殺し文句で、力づくでリュウキを引きつけた。
「正義の信徒の名の元に」
「リュウキ!」
腕輪に掴まったリュウキにヒューが叫ぶ。自分を庇って腕輪を嵌められたリュウキを助けようと、シェリカは動き出すが、視線でリュウキは彼女の動きを制止させ、冷静な面持ちで、剣を構え直した。
リュウキは自分を引き寄せた裏仮面の鎖を握っている腕を切り飛ばし、膝から下の足を剣で切った。
「魔法が駄目なら剣で倒せばいい。あいにくだが、オレは魔法が使えなくとも剣だけで十分、お前たちと渡り合える」
リュウキは裏仮面の腕のついた鎖を剣で叩き切った。
「生意気なやつ…」
不順なリュウキにシェリカは鼻を鳴らして、安心して体勢を直した。
「でも、君は気をつけた方がいい、どういう能力かは知らないが、奴らは魔気の力を感知している」
その証拠に腕輪を持った裏仮面たちは、魔法の力の強いシェリカとシルフィに集中している。
「リュウキ、その腕輪の外し方は僕は知っている、でも今は絶対自分で魔法を使っちゃ駄目だよ」
腕輪の危険さを知っているヒューの言葉にリュウキは了解する、シンもリュウキのそばにやって来る。五人はなるべく離れないよう固まり、続々と集まる裏仮面たちに眉をひそめた。
「コイツら結構厄介だぜ、急所を切ってもなかなか死なねえし、歩みも止めねえ」
「それに、傷つけても声ひとつすら上げない」
「どうやら痛みを感じないという噂は本当のようだな、長期戦は不利だ、なんとかこの場を切り抜け無いと」
本来なら水門そばでハーマンと合流し、サンの街を脱出するはずだった、だが、予想外の裏仮面の襲来にリュウキたちは森の中に逃げ込まざるえなかった。森で追っ手を撒こうと考えたわけだが、想像以上の裏仮面の追尾能力、そのしつこさに手をこまねいた。
シンは閃光弾を放つが、裏仮面の歩みは止まらない。光にはまるで無反応だ、コイツら本当に人間なのか?ゾンビのように群れをなし、彼らはわらわらと集まってきた。
リュウキは心臓を狙って剣を突き刺したが、裏仮面の身に付けているプレートメイルは刃が通りにくく深く刺さらない、それならばと歩を進める足を切り落とす。致命傷とはいかないまでも、こうすれば無造作に前進することは出来なくなる。…とはいえ
「数が多すぎる」
「シン!なんとかならないの」
「少々荒っぽいが爆弾でも使うか、そうすればコイツらは木っ端微塵だ」ヒューの声にシンは答える。
いくら理性が失っているとはいえ、裏仮面は人間だ。相手が人間だけに爆弾を使うのは気が引けるが…
シェリカが魔気の力を左手に宿らせ、前に進み出る。彼女は魔法を使う気だ。
「爆弾なんて、野蛮で品がないわ、要するに足止めさえすればいいのでしょ」
のらりくらりと腕輪を躱し、シェリカが魔気エネルギーを解放させる。裏仮面の群がる一帯に風が吹き抜け、その瞬間、辺りが凍りついた。運動能力を失った裏仮面は一瞬の内に氷像となり破片となって粉々に砕け散った。
「さっさと退却しましょう」
一仕事を終えたシェリカは鞭を丸めて収め、踵を返した。
裏仮面を一掃したその場で、ひとときの静寂が訪れる。
「爆弾は品がないって言ったわりには、結構残酷だな」
「木っ端微塵に直接肉体をぶっ飛ばすよりはましよ、神聖な森を血で汚すことないわ」とシェリカは言った。
「今のうちに森を抜けよう、ハーマンたちと合流しなければならない」とリュウキは言いながら、手首に嵌まった腕輪を気にした。
「その腕輪は外側から魔気の力を注げばすぐに破壊出来るよ」
「いや、破壊するのは後でいい、新手の裏仮面たちがやって来る前にこの場を離れよう」
奴らは魔気の力を感知する、シェリカが魔法を使ったことも気が付いているはず。一刻も早く森を抜け出さないと。
「問題はどこへ行けば森を出れるのか」
シンは辺りをキョロキョロする。辺りは暗くよく分からない。裏仮面からの追尾から逃れるため、森に入ったお陰で自分たちがどの位置にいるのか把握出来なかった。
「向こうの方角から、大地の風の流れを感じます、あちらにいけば森は抜けられると思いますわ」
シルフィは真っ直ぐ指を差す。精霊の力を持つ彼女にとって風を流れを読むのは雑作もない。
四人はシルフィの指し示す方角をしばらく歩くと遠方でうっすらと空が明るんでいることに気が付いた。出口は近い。今のところ裏仮面が近づいている気配はない。道中シルフィは藪に肌を引っ掻け、思わず顔をしかめた。そんな彼女に気付き、隣にいたヒューは思わず顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫ですわ」
手首の上を隠すシルフィの指の隙間から"血"が滴り落ちていた。
「?!…シルフィ!」
ヒューは彼女の"異変"に気付く。
「シルフィ、この先を進めばいいの!」と少し先行くシェリカが声を走らせる。
「ええ、このまま進めば森は出れますわ」何でもない様子でシルフィは答え…ヒューの顔に目を向ける。その視線は何かを訴えている、どうやらこの事に感して、シェリカには気付かれたくないらしい。傷つかないはずの自分が"血を流して"いることに…
いつどこで体が…?ヒューは問い出したかったが、すぐに閉口した。エルフのシェリカは耳がいい、余計な会話は避けた方がいいだろう。ヒューは外套の薄地の部分を小さく切り、傷を隠すよう無言で促した。シルフィはにこりと笑み、差し出された生地を傷口に巻きつけた。
シルフィの言葉通り進むとやがて森は抜けた。だがそこで思いがけない者と遭遇した。
「待て…!」
先頭を歩くリュウキは身を潜めて動きを止めた。光の当たらない暗がりの木の裏で周囲を注視する。
松明を持った大勢の兵士たちが、辺りを警戒し動いている。白い剣と黒い盾のエンブレムの刻まれたプレートメイル。仮面は被っていない、"白と黒"で盾の上に剣を交差させた横顔騎士の紋章。ジャスティスの表の騎士、サンの砦兵士だ。
「表の騎士…」
「なんてこったい、森を抜け、裏仮面を撒いたと思えば今度は表かよ」
ばつ悪くシンは呟く。
「狙いはやはり僕たち?」
「おそらくな、どうやら表も裏もオレたちの捜索に乗り出しているようだな」
シェリカは右手に魔気を集中させる、そんな彼女の動きをリュウキは制止させた。
「待て!出来ればこれ以上、事を荒立てたくない」
「なに甘いこと言ってるの、話し合いでもする気?」
「もちろんそのつもりはない、だが無益な争いはなるべくしたくない、オレたちは野党や山賊は違うんだ」
「じゃ、どうするつもり?」
「…シン、閃光弾とかまだ持っているか?」
「おう…持っているぜ、使っても裏仮面には通用しねえからな」
「よし、そいつを使おう、生身の兵士ならそれは通用するはずだ」
「まだいいもんあるぜ」
シンはひょいと懐から紫色の液体が入った小瓶を取り出した。
「それは?」ヒューは興味深く尋ねる。
「視神経を刺激する"眩惑液"だ、液体の発する臭いでしばらくの間、視覚と聴覚、嗅覚が馬鹿になる、相手を混乱させるにはもってこいの品だ」
「なるほど、そいつは使えそうだな」
「ただ、こいつは危険なシロモノだ、だからひとつしか所持していねえ」
そして、うまく扱わなくてはいけない。もし自分たちが間違って臭いを吸い込めば、自分たちに危害が及ぶ。そんな愚かなことは絶対避けなければならない。
シンは指に唾をつけ風の流れを見た。 臭気がこないように風上に立ち、栓を取って兵士たちに気付かれないよう小瓶を転がした。
警戒に当たっているひとりの兵士が異臭に気付いた。
「なんか変な臭いがしないか?」
「はあ?」仲間の兵士が声を掛けてきたがうまく聞き取れない。ごんごんと耳鳴りがする。
「気分が悪い…」
「…目が、痛い」
周辺にいる兵士たちがへたり込む。シンが流した眩惑液が効いているようだ。
「奴らの方には近づくなよ、おれたちまで巻き添えを食らうからな」
五人は出来るだけ手早く、静かに森から抜け出す。しかし、上手く行ったのも束の間、別の方角から新手の兵士がやって来た。
「止まれお前たち!何者だ!」
シンはすかさず閃光弾を放った。兵士たちは光の衝撃に反応して体を丸め、その隙をついて駆け出した。
「逃げるぞ!」
リュウキたちは走り出す。争っている余裕はない。新たな兵士がやって来るたびにシンは閃光弾を放って逃げ出したが頼みの閃光弾も底をついた。
「やべえ、もう閃光弾がねえ!」走りながらシンは叫ぶ。
戦うしかないのか…!リュウキは腕輪の嵌まった手で鞘に触れる。シェリカやシルフィも魔法を使おうと魔気を漲らせる。
少し離れた先から馬の嘶きが聞こえてきた。
集まる兵士たちの間を縫って、黒染め髪の眼鏡を掛けたハーマンが自分の乗っている馬と誰も乗っていない白毛馬の手綱を引いてリュウキの元へ疾走した。
「受け取れ!リュウキ!」
「ハーマン!」
ハーマンは白い毛並みの馬をリュウキの方へ流し、リュウキは手綱を取って一気に馬に乗った。後ろから続いて葦毛馬を操るミウ=ハワンがシェリカの前で止めた。
「ミウ!」
「乗って!シェリカ!」
軽やかにシェリカは跳び、ミウの馬の背に乗る。
「さっさと逃げるよ!シン!ヒュー!」
次に現れた長身のハンはスタッフを構え、馬ではなく自らの物質魔法で創った魔法の絨毯をスライドさせ、さっさとと乗るよう二人に促した。絨毯の上には小さなホビットのルザリィもいる。
「さっさとしなさいな」
「シルフィ、君も」
「わたくしは大丈夫ですわヒュー、飛べますから」
宙に浮かして体を橫に流し、シルフィはヒューの隣についた。
「なんで、おれには馬がないんだ!」
「金がないの、贅沢言わない…!」ハンがぴしゃりといい放つ。
「アンタの稼ぎが悪いからよ」続けてルザリィが言った。
「なにおー!」シンは言い返す。売れなかったサーベルバットの牙のこと、言ってるのか。
「"痴話げんか"なら後でやってくれる、こちとら魔法の制御で忙しいんだから」
「誰が痴話げんかよッ!」
「オメーいつも一言多いんだ!」
シンやルザリィの声にもどこを吹く風よと、ハンは澄まし顔。基盤となる絨毯に突き刺したスタッフの魔力をコントロールする。その様子にヒューの笑みが零れた。漫才コンビが"トリオ"になった見たいだ。
「よくオレたちの居場所がわかったな」ハーマンの隣で馬を走らせる、リュウキが声をかける。
「あれだけ閃光弾をバチバチさせれば、嫌でも居場所がわかるわ。ただ問題はこれからだ…」
「問題?」
「とりあえず、コイツらを撒いて、休憩しようぜ、話しはそれからだ」
ハーマンは眼鏡を外してポイと捨てた。もはや変装する意味はない。鮮やかな手綱さばきで馬を踊らせ、立ちはだかるサンの歩兵卒に向かって容赦なく突進した。
「オラオラどけどけ!轢き殺されてえのか!」
ハーマンが先頭だって突っ込んだ。
「相変わらず強引なヤツね」と言いつつミウも後に続く。
「ミウ、あなた彼のこと…」
「さあ、行こうか、あいつが道を開けてくれているんだから」はぐらかすようにミウは答え、葦毛馬の手綱を引いた。
サンの兵からの追っ手を交わし、合流した地点から遠く離れた場所で、一行は薪を焚いてキャンプを張った。
ヒューとシルフィを救出してからどれだけの時間が経っただろうか。あと何時間、時を刻めば夜が明けるのか、辺りはまだ暗く満天の星空が輝いていた。
「政変!?」
出発前にサンの街でハーマンが購入した果実の実を齧り、リュウキは甘酸っぱい水分を口の中に含みながら、ハーマンの声に耳を傾けけた。
「ああ。細かいところはわからねえが、丁度オレたちが馬を迎えに行った時だった、砦の方へ裏仮面と正義の信徒たちが集結し、異常とも思えるほど歌を合唱していた、それから間もなくして、表の騎士団の旗差しが裏騎士団の旗差しに代わり、表と裏のやつらがつるんで砦を出て行くのが見えた」
「とても和気あいあいという感じじゃなかったね、裏の正義の信徒が表の兵士を従えている感じだった」と続けてハンは答える。
「表と裏は同じジャスティス国に仕える騎士団だけど、双方は相容れない部分もあるわ、表はどちらかかと言うと騎士道精神を重んじる傾向があるけど、裏の正義の信徒は自らの思想を絶対的に信じ、相手が誰だろうと容赦しないわ。裏騎士団の長ローグは冷酷非情で有名な男よ、自分が気にいらない奴は"顔の皮"を剥いで、裏仮面にして殉教者として仕立てあげる男よ」
ミウの話を聞き、ハーマンの目が鋭く光った。幼い頃見た、あの顔剥ぎ男、奴が正義の信徒の長か…
「なるほど、そんな鬼畜な奴が正義の信徒の長だとしたら、何か問題が起きてもおかしくないね、表の騎士団のサンの兵士は正義の信徒の傘下に入ったってことじゃないの?」 流暢な言葉使いでハンは答えた。
…あの時か。リュウキはヒューを助ける際に聞いたあの異常とも思える歌声を思い出した。
「つまり、サンの表の騎士団は正義の信徒に支配されたってこと」
ヒューは答える。その隣ではシルフィが布地で隠れた傷ついた腕を気にして座っている。時折、シェリカの視線を確認しながら、先程、ミウから貰った服…ドレス長の広い袖口のある服の奥に手を窄めた。
「ハーマンの言った"問題"って、その事なのか?」
「それもひとつ、奴らは正義の信徒本隊である騎兵隊を繰り出して、脱走したお前たちの捜索にあたっている、そしてお前たちを助けたオレたちも狙われるだろう、オレたちは完全に正義の信徒を敵に回した」
「だいだいてきにあいつらの前で魔法も使ったしね、このエリアではオレたちは指名手配される」
正義の信徒は魔法を特に敵視している、魔術師ハンにとって由々しき問題だ。
「いずれ、本国からも指名手配されるだろう、オレたちはジャスティス国領にはもう居られない」
「まあ、オレたちはあまりこの国には用がないけどね、元々フロイア領にあるセンバレル神殿に行く予定だし」
「だが、のんびりはしていられない、オレたちは早くこの国から脱出しなければならない。偵察に行ったシンとルザリィが戻り次第すぐに経とう」リュウキは言った。
騎兵隊が動き出しているとなると、もたもたしてたら追いつかれてしまう。今は距離が開き追っ手から離れていると思うが、馬を使っているとなると少しの時間のロスが命取りになる。正義の信徒には魔気の力を感知する裏仮面がいる。こうしている間も刻々と奴らは距離を縮めて近づいている。
…フロイア…か
ヒューは頭の中でその言葉を咀嚼した。シ=ケンは言っていた、もしフロイアに来る事があれば自分のところへ寄って欲しいと、そこで自分の隠された力が引き出せる手助けが出来るかも知れないと…
ヒューは強くなりたかった、シルフィを守れるぐらいの強い力、誰にも負けない力を…
ヒューは隣で座っているシルフィを掠め見、秘めたる思いを胸に燃やした。
「ミウ、お前らはアルヴァーズに行くとか行ってたな、となるとフロイア領に入ったらお別れだな」
「そういうことになるわね、もっともアルヴァーズ国境付近まであなたたちと行動を共にするけど、正義の信徒に狙われた以上は早い段階で別れた方がいいわね」
「その為にはジャスティス領域を脱出しなくてはいけない」
「今、目の前の課題を解決しないといけないね、やれやれ厄介事が鼻につくね」リュウキに続いてハンは言った。
薪を囲んで皆が話をする中、シェリカはひとり木のそばで佇み、黙って会話を聞いていた。彼女気難しい顔をしながら、少し考え事をしていた。そんな彼女にミウは目を向ける。
「シェリカ?」
「えっ…ああ、聞いていたわよ、アタシはあなたの決定に従うだけよ、あなたがアタシたちのリーダなんだから」
シェリカはミウを見て言った。
「どうかしたの?」
「何でもないわ、ただ、あの裏仮面とかいう兵士たち、人間なんでしょ、どうして同じ種族なのに権力者はあんな酷い仕打ちが出来るのかしら?」
種族間の血を大切にするエルフのシェリカにとって裏仮面の存在は衝撃的であった、無理矢理殺人鬼に仕立てあげられ、ただ命令のまま動く駒となって洗脳される。人間はどうしてこうも支配的で独善的なの。
シェリカは幼い頃、自分の村が"エルフ狩り"によって人間たちに蹂躙されたことを思い出した。少数種族であったエルフは外世界との関わりを断ち森の住民としてひっそり生きていたが、地底世界から闇に墜ちたエルフ、ダークエルフの侵略を受け壊滅状態に追い込まれた。ダークエルフは地上に住む人間と手を組み、人間は離散したエルフを人身売買目的にエルフ狩りを行なった。高貴な種族であるエルフは高値で売れ、容姿も美しいため散り散りになったエルフを求めて、多く人間がエルフ狩りに参加した。幼かったシェリカは孤児となり人間の目から逃れるために、逃亡の日々を送っていた。
ある日、シェリカは仲間のエルフが誰も居なくなったことに気付き1人で泣いていた。友達が欲しかった、話合える姉妹が欲しかった、シェリカは小さい頃、"血の盟約"という魔道書を村で読んだ記憶を思い出した、自らの血で目に見えない精霊に魂を吹き込み、肉体を与える法、風の精霊シルフィードと契約を交わし生み出したのがシルフィであった。
今から百年も前のことだが、エルフにとって百年という月日は長い期間ではない。そして人間はいつまで経っても変わらない種族だ。支配するものされる者、時が流れてもその時代の権力者が弱者を支配する。どうしてこうも人間は愚かなのだろうか?
「人間は我がままで欲深い種族だ、特に権力者は力に対して陶酔してしまう部分もある、だが、人間、皆そうではない、君はそれを知っているんじゃないのか?」
「わかっているわよそんな事…」
リュウキの言葉にシェリカは憮然と答える。人間全員が悪者ばかりではない、節度を持って生きている人間だっている、ミウはこの外世界で出会った理解出来る人間のひとりだ。だからシェリカは彼女と行動を共にしている。
近辺を探っていたシンとルザリィが帰って来る。とりあえず近くにはサンの兵士はいないようだが砦の方角から、うっすらと松明が揺れ動く光りが近づくのを確認したようだ。
「正義の信徒の追っ手か?」
「たぶんな、まだ距離はあるけど結構なスピードでこの方向へ向かっている、ありゃ馬を使っていると思うぜ」
「直線的にこっちに向かっているからアタシたちの居場所を完全に感知しているわね」ルザリィは人間の子供用の小さな革手袋を脱ぎながら続けて言った。
「ハーマン」
リュウキの声にハーマンは目で頷く。休憩は終わりだ、すぐに出発しなければ…
「ハン、ヒュー、馬のないお前らは先に出ていろ、馬を持つオレとリュウキ、ミウは後から出発する」
「あの…わたくしは」シルフィはハーマンに尋ねる。彼女は馬はないが、空を飛べる。
「アンタもハンと共に行った方がいい…奴らは魔気を感知する、だから、早めに出てなるべく遠ざかった方いい、アンタもな?」ハーマンはシェリカを見る。シェリカはつんとした顔で、しょうがなく背の高いハンの方へ歩を進めた。
「正義の信徒が馬を使っているとなると、オレたちに追いつく可能性がある、万が一のための足止めか?」
「そういう事だ。ミウ、お前も馬はあるが先に行ってもいいぞ」
「ご冗談を、正義の信徒に遅れを取るほどわたしは"やわ"じゃないわ」ミウは紅蓮のマントを羽織り直し、ハーマンの声を受け流した。
「リュウキ、腕輪を…」リュウキは思い出し、手首を差し出すと、ヒューはシ=ケンがやったように外側から、魔気を流し込んで腕輪を砕いた。
「感謝するヒュー」リュウキは腕輪を砕いたヒューに礼を言うと、サラになった手首を軽く動かして感覚を確かめた。
「どこかで落ち合う場所を決めた方がいいね」
「フロイア国境沿いにある≪タムクール≫で落ち合おう、あそこは近くに湿原地帯があり、多勢の馬は通れない」
「…タムクールね、ぐっとフロイアに近づくね」ハンは言った。
「気をつけてミウ」
「大丈夫よ、こっちには強力な用心棒もいるし」シェリカの声に答え、ミウは近くにいる体格のいいグレートソードを背負ったハーマンの方へ軽く目を向けた。
「シン、閃光弾を持っているか?」
「おお、さっき少し作って置いたからよ補給は出来ているぜ」
「数個くれないか?それを使って敵の目を"オレたちに惹き"つける」
「ほらよ」とシンは袋に入った閃光弾をリュウキに渡した。
ハンは指先で印綬の文字を描き、魔法の絨毯を創り出した。
「それじゃそろそろオレたちは行く、あんまり無理するなよ」
「リュウキ」
「タムクールで会おうヒュー」
リュウキはハンと一緒に魔法の絨毯を乗り込んだヒューたちを見送ると全身に魔気を張り出し、裏仮面の魔気感知能力を自分らの方へ向かせ、さらに注意を引き出すように閃光弾を破裂させた。
「こうすれば正義の信徒の追っ手はオレたちの方へやって来るはずだ」
「そんなにうまく行くの?」
「裏仮面は任務を遂行するだけの単純な存在だ、オレの張り巡らしている魔気、閃光弾の光を感知すればこっちへ向かって来るはず」リュウキは言った。
「もうしばらくしたら、オレたちも出ようや…まあ、気楽に行こうや」
黒く染めた長い後ろ髪を紐で縛り直し、慌てることなく、いつものペースでハーマンは手を動かした。
「気楽にって、相変わらずマイペースね」溜め息をひとつ吐きながらも、ミウはしょうがなく表情を緩めた。
ハーマンの自信の現れであった、相手が誰だろうと、どんな状況であろうと彼はペースを崩さない、そんな彼の姿をミウは昔から知っている。子供の頃から変わらないそんな彼の姿勢にミウは惹かれる。
「ハーマン、戦うのは最終手段だ、オレたちの目的は…」
「わかってるって、あんまり片意地張るなや、何事も余裕持って取りくまねえと…」
さばさば答えるハーマンであるが、目は真剣だ。
ミウは自分の葦毛馬の轡を引いて、優しく馬面の頬を撫でた。
「そういえば、サンの街で購入したこの子に名前をつけなきゃいけないわね」
「名前?別にいいだろう、そんな事」
「何言ってるのよ、大金はたいて取引したのよ、名前ぐらいつけてあげないと」
「よし、お前は黒いから『ジェイド』だジェイドよろしくな」
ハーマンは毛艶いい自分の黒毛馬の背をぽんぽんと叩く。すぐに決めたハーマンと違ってミウは少し迷った。そして宝石のように綺麗な瞳をした目にちなんで『メノウ』と名付けた。
「あなたも決めたら?ちなみにその仔、女の子だから女の子らしい名前にした方がいいわよ」
リュウキの馬は銀色い鬣を持つ白馬で綺麗な背中の曲線を描く若い馬だ。この局面で馬の名前を決める事などリュウキの頭になかったが、ふと思い浮かんだ名前があった。
「ニーシャ…」
「え?」
「オレの馬の名前は『ニーシャ』だ」
リュウキは自分の頬へ寄せる白馬の牝馬の轡を引き、思い浮かんだ自分の馬の名前をニーシャと名付けた。
ハンたちと別れてからサンの兵士…今は正義の信徒の傘下に入った砦の兵士たちと遭遇したのは間もなくであった。
リュウキ、ハーマン、ミウは手綱を巧みに操り騎兵隊の追っ手を交わした。森に入り、囲まれないよう狭路を進路にとっては馬を走らせ、出来るだけ敵を引きつけて逃走した。
ジャスティス国出身だけあってハーマンとミウは馬術は見事であった。リュウキは馬に乗り慣れているわけではなかったが、白馬のニーシャとの相性は抜群によく、二人のようなまでも、遜色なく手綱を操り、森の中を駆け抜けた。白馬のニーシャに会ったのはつい先ほどだったのだが、まるで昔から乗っていたかのような感覚でリュウキはニーシャを乗りこなしていた。人馬一体というのはこの事をいうのだろう。
「なかなかうめぇーじゃねえか、ジャスティスの人間は幼い頃から馬と慣れ親しんでいるからオレとミウは巧く乗れるけどよ、お前も中々なもんだと思うぜ」
「お前がいい馬をくれたおかげさ」
「古来、馬と人間は密接な関係にあって、相性もあるわ、あなたとその仔はとても相性がいい見たいね」 自分の葦毛馬のメノウの手綱を引きながら、ミウは言った。
後ろの方で馬の嘶く声が聞こえ、追っ手の兵士が近づいていることに気が付いた。ハーマンは振り向くと仮面をつけた兵士が三人、馬を操りながら走り込んでいた。
「面倒くせー奴らが来やがった」
しかもどういう了見なのか、ゾンビのような存在なくせに馬を乗りこなしている、もと人間らしさを持っていた時の"本能"なのか。
ハーマンは背中のグレードソードに手を掛ける。リュウキが一歩下がり、裏仮面退治にかって出た。
「オレが行く、オレがニーシャと相性がいいのと同じように裏仮面はオレと"相性がいい"はずだ、奴らはお前たちよりも、魔気の力を持つオレに"興味"を持っているはず」
リュウキはニーシャを走らせながら右手に魔気を宿らせ、≪光りの矢≫を放って裏仮面の騎兵を撃退した。青白い炎が燃え、裏仮面は"絶叫を上げる"ことなく馬上から焦げ落ちた。
「どうやら追尾隊はすぐそばまで来ているようだな」
「また新手が来るわ、今度は結構な数よ」
数十もの敵影が見える、おそらく1部隊だろう。ミウはレイピアを抜く。現れたの裏仮面と仮面のつけていない普通の兵士が混ざった混成部隊。部隊の先頭をきっている男はウェーブの掛かった長い髪を靡かせ、口元に黒い覆面をして、腕を組んで"馬の背中の鞍に立って"進んでいた。
「何あれ?あいつ手綱も持たず馬の背中に立って進んでいるわよ」 ミウは先頭の男に違和感を感じる。おそらく部隊のリーダだとおもうが…
…馬の背中に立って"自分の馬を走らせている"とは、なんというバランス感覚、ただ者ではない…リュウキは警戒する。
「……」あの先頭の男、どこかで見たことあるような…。
ハーマンは男の"ヤバさ"を直感的に感じ取る。ジェイドの馬首を返し、今度は自分がケツにかって出た。
「あの野郎はオレが相手する、お前らは先にいけ…!」
「気をつけてハーマン」
「ああ、奴はただ者ではない」
リュウキとミウは先行き、ハーマンは反転して躊躇なく背中のグレートソードを抜いて、先頭のリーダらしき男にジェイドを突進させた。
覆面の男…正義の信徒の長ローグは手を出すなと…部隊に向かって片手を上げ、向かって来るハーマンに応じて馬の背中に立ったまま突撃した。
…曲芸師野郎がぶった斬ってやらぁ…!
ハーマンは馬の背中に立っているローグに目掛けてグレートソードを凪払う、途端ローグの姿が消えた。左右首を振ってハーマンは確認すると、上空から殺気を感じ、すかさず反応し頭の上から来るローグの攻撃を受け止めた。一撃、二撃、三撃、四撃…!五撃!!だとっ!上空から刃の細い長剣を振り抜くローグの空からの攻撃に、五撃目でハーマンの目の下を掠めた。 なんという滞空時間の長い攻撃。
ローグはタイミングよく離れた自分の馬の背に手をついて着地する。マントをはためかせ、そして殺気漲る紫のアイシャドーのついた瞼で瞳孔を見開いた。
一連の攻撃を支え切れずハーマンの馬ジェイドはよろめいた。バランスを崩して目の前の大木にぶつかりそうになるが、ハーマンは鍛え上げた足で幹を蹴り倒し、方向を変えて舌打ちしながらジェイドの態勢を整え直した。
…野郎≪空剣術≫を使うのか…。目の下に鮮血が流れるハーマンは舌を巻く。
剣術には地、水、空の三界の型があった。大地を踏み締め、強撃を受け止める"地の型"流れるような動きで攻撃を受け流し、反撃する"水の型"そして今、ローグが使った、空中で滞空時間の長い攻撃を繰り出す"空の型"
空の型である空剣術は難易度が高く、世界を見渡しても使える戦士はあまりいない、重力を無視するようなその攻撃は余程、身体能力が高くバランス感覚が優れた者でないと使いこなせない。
「…"天才"か気に食わねえな」
流れた鮮血が口に入り、ハーマンは唾液と一緒に吐き捨てた。馬上で空剣術を使うこの男と戦うのは不利だ。せめて地上に降りて自分が得意とする"地剣術"が使えれば、この天才とも渡り合えるが、降りて戦うようなそんな状況ではない。
ハーマンはジェイドの脚を返し、争うのを止めた。すぐに逃走を図るが、ローグは見開きながらジェイドの橫についた。ぴったりと並び、逃すつもりはない。この男、馬術も優れている。俊敏に馬を動かし、粘っこくついて来る。何者だこの男。
ふと橫を見ると男の姿が消えた。乗り手のいない馬が隣で並行している。何が起きたか、彼はすぐにわかった。
「ちっ…!」
ハーマンは上空からの攻撃に備えた。一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、ハーマンは丁寧に捌き攻撃が途絶えたかと思いきや、六撃目は武器の持たない逆手から隠し刃が突き出、ハーマンは咄嗟に反応して頭を大まかにずらした。致命傷は避けたが斜め顎からこめかみにかけて鮮血が飛び散った。"顔皮を抉るよう"な最後の一撃。ハーマンは殺気をぎらつかせ、ふてぶてしく馬に着地したローグを睨みつけた。
「そうかよ…てめえが"顔剥ぎのローグ"か」
「剥がしたいなあ…オマエの顔…」
口元の覆面を少しずらし、凍りつくような目でハーマンを見、ローグは刃についた血を舌で嘗めずった。
相手が幼い頃に見た顔剥ぎのローグだと知り、今度は ハーマンが攻勢に出る。並行しているローグの馬の長い首を蹴り、バランスを崩したところをグレートソードで真っ向から振り落とした。意表突かれたローグは空を跳んで回避したが、ローグの乗った馬は、背中から腹にかけて真っ二つにされ、嘶きと鮮血は共鳴して辺りに一面をこだました。
回避した拍子、太い木の枝に衝突しかけたローグは、鍵縄を出して別の枝に引っ掻けて衝突を交わしたが、その間、ハーマンは逃走し、馬を失ったローグは鉤縄にぶら下がったまま呆然としてその様相を見送った。
「あの小僧…」
逃した獲物をただ見送るだけしかなかったローグはこの屈辱に体を震わせた。あの男の顔は覚えた。絶対に許しませんよ…
狙った獲物は逃さない、完璧主義のローグは逃走したハーマン顔を頭の中に埋め込んだ。
「大丈夫かしらハーマン」
先行くミウはメノウを止め、音沙汰のない彼の身を安じた。
「……」リュウキも一度ニーシャの脚を止め、無言を保って後ろを振り返った。ハーマンの事だから大丈夫だと思うが…
「…思い出したわ、あの馬の上を立っていた男、正義の信徒の長ローグよ、女っぽい顔した気色悪い男だけど、残虐な性格に似つかない剣技の持ち主でジャスティスの天才と呼ばれる男よ」
「なるほど、そうか…」あのただならぬ身体能力と雰囲気、普通ではないと思っていたが、あの男が正義の信徒の長ローグか…
ハーマンの強さは知っているが、さしも今度の相手は危険かも知れない。自分も残って一緒に戦った方がよかったかのでは…
ミウは心配そうな顔で長い首を落として呼吸を整えているメノウの首を柔らかく撫でる。しばらくすると、黒毛馬のジェイド手綱を掴んだ、ハーマンが走り込んで来る。ミウの表情は明るくなり、リュウキも口元を緩めて追いついた大柄な彼を迎い入れた。ハーマンの顔はあちこち傷ついていたが、大した怪我ではなく元気であった。
「いやー参ったぜ、あの曲芸野郎の正体が"顔剥ぎのローグだったとはよ」いつもの陽気な口調でハーマンが答える。
「倒したのか?」
「…いや、残念だがヤッてねえ、逆にヤられそうになった、でもまあ野郎の馬は叩き斬ったからよ、しばらくは追っ手来れねえはずだ」
ハーマンの顔の傷が物語る、手強い相手だった。さすがは正義の信徒の長と言ったところか…
「だが、今度はケリつけてやるよ、次は馬ではなく奴の体を真っ二つにしてやる」唸り声にも似た低い声でハーマンは言った。
ともあれ、ハーマンが無事だったことに、ミウとリュウキは安堵した。
「もう少し走れば、森は抜けるわ、さあいきましょ」
ミウはメノウの手綱を胸に引き寄せ、走り出した。リュウキはニーシャ、ハーマンはジェイドを走らせ、メノウの後に続いた。しばらくすると森を抜け高台から見下ろすような拓けた場所に出た。なだらかな丘陵地が見え、大きな湿原地帯が朝日で延び、短く生えた草に朝露の光りが輝いて三人を迎い入れた。
「結構、高い所を走っていたんだな」
「タムクールへはここから下りて湿原地帯を沿っていけばいい」
「先へ行ったみんな後を追わないとね」
「…んじゃ、行きますか、タムクールへ」
ハーマンは答え、今度は自分が先頭をきって走り出した。リュウキのニーシャ、ミウのメノウも続いて再び走り出す。目的地はタムクール、そしてフロイア、これ以上、面倒事が起きないことを祈りながら、リュウキは白馬のニーシャを走らせたーー
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