夏の夜話 短編集

のーまじん

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ゴッホを語る

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  冬の夜はあっという間に忍び寄り、知らないうちに体を冷やします。

  私はコーヒーにリンゴ酒と砂糖を加え作者へと渡しました。

  「少し…休みませんか?」
私の言葉に、作者はパソコンの画面から目をはなした。
「うん…ありがとう。」
作者はマグカップを手にすると疲れたような笑顔で私を見た。
「新作…投稿したのですね。」
「うん。なんか、ラジオの募集…ちょっぴり難しいけど、詩を書いてたから、短い文章も結構かけるね。」
作者は笑った。
「ゴッホ…ですか。」
私は、世紀末に話題になった激情の画家を思い出していた。

  私の作者は、ラジオの募集で短編を応募していた。
  キャラクターが、短編の動画投稿をしたがるので、作者もそれに合わせて試さないといけなくなる。
  その練習を兼ねていた。
「うん…。千文字縛りだから、有名な人の方が字数が少なく済むかなって、ね。」
作者はそう言って、一度、言葉を切り、色々溜め込んだものを吐き出すように叫ぶ。
「失敗だったけど…ね(T-T)」

「失敗…しましたかね?」
私は紅茶を口に含みながら考える。
  評価も貰えましたし、それほど悪くは無かったと記憶していますが。

「うん…説明しないと何を書いてるか分からんじゃない(T-T)
  まあ、お陰でこっちの記事は出来るんだけどね。」
作者は、ボヤきながら『ゴッホ』の詩を開いた。
  
  この詩は、ゴッホの死ぬ直前に見ただろうひまわりをテーマに作った。

  天才とひまわりのテーマを使ったのだ。

  ゴッホの『ひまわり』

  バブル時代に日本の企業が投資目的で買い漁った事もあり、テレビで取り上げられ人気になった。

  「ゴッホは、私も美術館で本物見たことあるよ…。
  ひまわりとかは、世界にいっぱい作品が残ってるんだって。
  この人、浮世絵も好きで模写したりしてるんだよね…」
作者は、そこで深くため息をつく。

「そうですね…何か、同じ感性があるのでしょうか?日本人がゴッホの絵に惹かれてしまうのは。」
私は、色鮮やかな彼の自画像を思い浮かべた。

「うーん…( ̄~ ̄;)
バブル時代には、没後100年と浮世絵とか絡められるから、なんか、重宝された感じあるわ。
  ひまわりの絵に一億とか、私には理解できなかったもん。」
作者は、昔を思い出すように空を見た。
「確かに、でも、モナリザの様に色んな謎が含まれたり、西洋絵画は日本の俳句の様な面白味がありますから。」
「うん。構図や静物が何かの象徴だったり…
  『ダ・ヴィンチ・コード』は面白かったわ。」
作者は、そう言って笑った。
「そうでしたね。」
私は、今年の様々な事を思い出していた。
「うん…でも、まさか、あの耳切り取り事件が1888年だったなんて、ビックリしたわ…」
作者は、そう言って渋い顔をした。

  ゴッホは、1888年の12月、切り落とした耳を手に娼館へいくと言う事件を起こしていた。
「夏には切り裂きジャック…冬はゴッホの耳切り…
  どちらも娼婦が絡む事件ですね。」
「うん…ジャックは娼婦を切り、ゴッホは、自らの耳を切り落として渡した…と、言われているわ。
  どちらも、ゾッとしない話だけど…
  どちらも寂しさがにじむ事件ね。」
作者は、そう言ってため息をつく。

  私は、悲しそうな作者に温かいコーヒーのおかわりを出した。
  作者は、黙ってそれを受けとると、しばらく、マグカップを両手で持ちながら暖をとる。

  「温かいわ…いつもありがとう。私達は仲良く続けて行きましょうね。」

  ゴーギャンとの別居で混乱したゴッホを思い出したのか、作者はそう言って、弱々しく微笑んだ。
「ええ…ずっと、一緒に。」
  私は、そう言いながら、作者を見つめた。

  ずっと、一緒に…

  この約束が守られることを祈りながら。
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