夏の夜話 短編集

のーまじん

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貧乏神と私

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 2020年…幸か不幸か、超新星爆発の目撃者になることはなかった。

 が、この年は歴史的転換期になった。

 パンデミック…を想像させるエンディングを考えていた私は、小説を書き直す必要にかられた。

 一年、それに費やし、社会情勢の変化で…私も、県を越える旅行には行けずにいた。

 剛は、なんだか嬉しそうに、名古屋に行くのを残念がり、私を不機嫌にした。
 が、仕方ない。

 『パラサイト』は、完結させるしかない。
 どうにか、素敵なエンディングで。

 でも、どうにもなら無い物語に、自分達の将来を重ね、嫌にもなった。

 改変時はアクセスもなく。
 それでも、ただ書き続けた。
 ここで止まったら、また、エタ作品になる。
 そう考えると、もう、歯を食いしばって書くしかなかった。

 来年、2021年。
 次こそ、この話を終わらせ、そして、名古屋に行こう。

 これだけが、私の支えだった。

 閲覧の無くなった作品を、一人で作り続ける。
 たまに、こんな事をして、誰得なんだろうと自問した。

 諦めて、次を書いたら良いじゃない。
 と、思いながら、それでも続けた。

 読者へのアンコールの予定だったのだ。
 それに、この話は、はじめのエタ作品にも影響している。

 やめられない私は、そのサイトのお祭りのような公募に『パラサイト』を出すことでモチベーションをあげることにした。

 何だかんだで2021年の春が来て、私は、未完のまま作品を投稿し、
 そして、夢の別サイトに短い作品を投稿した。

 モチベーションをあげ、少しでも稼げるように、公募にエントリーした。

 5万字の話で、500円くらいは稼げると考えた。

 だから、1ヶ月がすぎ、結果が出たときは、めまいがした。

 98ポイントついていた。
 98ポイント(○_○)!!

 この数字に、私は、長かった小説サイトの思い出がよぎるのを感じた。

 そこは、100ポイントから換金できる。

 つまり、2ポイント足りないから、換金できないのだ。

 2ポイントくらい…まけてくれたって良いじゃない(>_<。)

 私は、カチャカチャと換金の画面に通じるスイッチをクリックした。

 2ポイント…あと、たった2ポイントじゃない…(>_<。)

 私、頑張ったのに…

 作品、まだあったのに…
 どうして……

 が、どんなにクリックしたところで、条件に満たなければ、換金の画面を見ることも叶わないのだ。

 98じゃ…絵に書いた餅なんだぁ………


 泣きそうになった。

 98ポイント、稼がせてくれた人に申し訳ない気持ちにもなった。
 が、ついでに、やる気もなくなった。

 やる気もなくしたが、逆に98ポイントで止まる…このネタ感満載の成績に次の作品のヒントも貰った。

 私も、こんな作品じゃ、いくらにもならないのは分かっている。

 そう、魚をとるなら、魚群がいる場所へいかなければ釣れないのだ。

 読者が欲しければ、人気ジャンルを目指すべきなのだ。

 剣と魔法の、夢の世界へ……

 でも、web小説のファンタジーは、私には難しすぎた。

 とにかく、魔法が理解できない。

 何を原資に働くのかが、全く理解できなかった。

 が、この98ポイントの体験は、私にwebファンタジーの世界の魔法を作る理論を教えてくれた。

 つまり、ここでは、読者を魅了する小説家じゅもんつかいが、魔法を使える世界なのだ。

 より美しい…妖精が喜ぶ呪文を唱えることが出来れば、それは力になる。

 妖精が、呼べなければ…それは、力にならないのだ。

 web小説から作られる世界観は、web小説音痴の私の物語でも…共感を呼べるに違いないのだ。

 そして、それは、新しいwebと言う世界を…子供に説明したい保護者の助けにもなるはずだ。

 少しだけ…希望がわいてきた。



 と、同時に、モーニング一食分を稼ぐにも…とんでもないエネルギーが必要なことを自覚した。



 混乱しながら、考えたのは、今まで書きためた小説でどれだけ稼げるか、だった。

 500円欲しかった。

 せめて、剛の分のモーニングの代金を稼ぎたかった。

 『パラサイト』をだした公募の結果発表が近づいていた。

 私は、落選したら即、別サイトで『パラサイト』を金にしようと決意した。

 短編は少しあった。
 設定文とか…なんでも集めたら、文字数だけなら、なんとか500円くらい稼げると思った。

 いや、稼がせて欲しかった。

 いろんな体験談をネットで読んだ。
 牛丼一つくらいは稼げるとか…そんな内容が、思い出されて胸についた。


 とにかく、『パラサイト』の改変をした。

 改変できなければ…どちらにしても、金には、ならないからだ。

 ただの改変だから、殆どアクセスは、無かった。

 でも、少しずつ、書けば最新話に近づく。

 そして…一次先行発表の少し前に、最新話に追い付いた。

 更新のお知らせに題名がのった。

 そして、まとめ読みのアクセスが『パラサイト』にあったとき、それを見て泣いた。

 本当に、ろくでもない小説だけど、
 誤字も脱字も、色んな設定も抜けてたけど…

 でも、誰か、確かに、私が、更新するのを待っていてくれた人がいたのだ。

 そして…私の『パラサイト』は一次先行を通過した。



 一次先行…一次なのだから、二次もあり、最終選考を残らなければ、金にはならない。

 けれど、一次先行を通過したことで、私は、剛からの電話を貰うことが出来た。

 夏の暮れ、夕日に染まる部屋に一人、私は、懐かしい友人と久しぶりの馬鹿話をした。

 努力賞の5万円を貰えたら、とか、
 98ポイントで打ちのめされた私には、ほぼ、嘘をつくような気持ちで、しばらく夢を語った。

 今年の名古屋の夢は…また、消えた。

 もう、小説で金を稼ぐのは諦めていた。

 が、現実世界の私は、名古屋に行く旅費はなんとか用意出来そうだった。

 剛は、不安定だったが、それでも、モーニングを食べるくらいのこずかいは用意出来そうだった。

 後は、奴を車に乗せて、一緒につれて行けばいい。
 そう、当初の夢だった名古屋のフリマの参加は…出来そうにないから、荷物が無い分、剛を積める。

 深夜バスに乗せて、送り返せば、宿泊費もかからない。

 もう、片道の深夜バス代は何とかしようと考えていた。

 深夜バス代を渡すために、私は、2万円を稼いだことにしたかった。

 そうだ、挿し絵を描こう!


 今、考えると、どうして私が、自分の作品の挿し絵を書いて、剛が、2万円を手にできるのか?理解できないが、

 色々、混乱していたし、疲れてもいたのだ。
 ワンカット書いてもらうと2万円…と言う何かの情報をネットで見つけて、もう、それで良いやと考えたのだ。



 「よかったね。頑張って小説書いてね。」 
剛は、のほほんとそんなことを言って祝ってくれた。
「何言ってるのよっ、アンタが金をためたら…こんなこと、しなくてすむんだからねっ。」
私は、悪態をついた。
穏やかな夏の終わりがそこにはあった。



 私は、二次選考は落選した。

 結局、完結することは出来なかった。

 そして、『パラサイト』は、メガバーストと宇宙ウイルスの話を加えて進んでいた。

 名古屋に行く夢も…お金だけでは解決しない、色んな問題がゆっくりと私たちを飲み込もうとしていた。
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