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パラサイト

東の果て

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  “古代エジプトの9柱の一神オシリス…
  彼の伝説を調べていて、私は、日本神話との不思議な共通点を見つけたのです。”

  頭の中の彼は、話しかける。
  オシリス神の物語が私の知らない記憶を呼び起こす。

  オシリス神は、兄弟神のセト神に切り刻まれて川に棄てられる。

  それを知ったオシリス神の妻イシス神は、夫の体を集めて甦らせるのだ。

  日本の黄泉の神、月読神は、誤解による怒りのため、豊穣の神を切り刻んでしまう。

  オシリス神は、黄泉の神になる前は、やはり、豊穣の神だったらしい。

  記憶の男は、そんな話を太田に酒の席の与太話として話した。

  すると、意外な方向に話は転がりだす。

  日本人シュメール起源説である。

  この説は、17世紀辺りには、既に生まれていたらしいが、発掘が進む1920年代、原田敬吾氏を中心に再燃していた。

  太田はこの話を彼にし、太田の主催する会合にも顔を出すようになる。

  そこで、様々な人物と知り合い、研究を進めるうちに、ひとつの予想をたてる。

  日本による即物神の起源は、古代中東から流れてきた知識と共にあるのではないか…と。

  1909年、日本政府は種痘法を公布、天然痘撲滅のワクチン接種が時代の波にのっていた。

  そんな時代の流れの中、彼は、見つからないツタンタカーメンの父王のミイラが日本へ流れてきたのではないか、と、予測した。

  エジプトのミイラは、没薬やミルラなどの貴重な薬品が贅沢に使われているため、盗掘者によって薬として売買されていた。

  それが、本当に日本まで到達するかは分からないが、彼は、そう考えていた。
  ミイラとは、病に自ら進んで感染し、自らが抗体と言う名の生き仏と化し、それに触れる人々を守ったのではないか?と。


  なんとも、ぶっ飛んだ理屈ではあるが、東北地方の即仏神の伝説を見、聞いて育っていたら、そんな考えにも至るものなのかもしれない。

  バラバラにされる神と新たに生まれる作物には、そう言った感染と抗体の物語があるのでは…と、考えたらしかった。


  オシリス神は、イシス神によって、切り刻まれた体を修復する。

  が、性器だけは見つけることができなかったらしい

  マッソスポラのような菌類…

  ふと、そんなワードが頭をよぎる。

  玉蝉(ぎょくせん)

  古代中国では、死体の口に蝉を含ませる習慣があったらしい。
  それは、後に、宝石で模した物に置き換わったらしいが、

  長いシルクロードを渡るミイラの道中で、蝉を含んだそれらが混ざってきたとしたら………


  不気味な考えが頭をよぎり混乱する。
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