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パラサイト

偶然の必然

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  「ツタンカーメン王墓の発見は、関係者の死と共に呪いとして世界に広まってゆきました。
  この時、一人の日本人に呪いの解明依頼が舞い込みます。

  太田 務
  大正時代、軍医だった男です。

  彼は、運に身を任せるようにツタンカーメン王の呪いについて調べ始めるのです。
  当時、王家の呪いの噂で持ちきりでしたが、それを科学的に解明しようと考える人達も沢山いました。

  感染症の分野で、日本の学者は優秀で、エキゾチックな強さも持ち合わせて見えたのでしょう。

  何にしても、彼は、非正規ではありましたが、貴重な遺物に触れ、研究する事が許されました。」


  雅苗の軽快な説明を聴きながら、頭の中で歴史が踊る。

  1920年代、ツタンカーメンの呪いを感染症として考えた人達がいた。

  ホームズの産みの親であるドイルが、致死性のカビが犯人ではないかと見解をのべたらしいが、
  近年では、カビが犯人である可能性はないらしい。
  亡くなったカーナボン卿は、蚊に刺され熱病になり、肺炎になって亡くなったと言われている。

  確かに、呪いの連鎖と言うのは、論理的に無理な気がするが、2010年、エジプト考古学評議会で、ツタンカーメン王が、マラリア原虫に感染していたらしいと発表した。

  蚊による熱病…

  この2人の死因が、偶然の一致を見せるのは興味深い。

  まあ、この時代、感染症は不治の病だった。

  スペイン風邪のピークが過ぎても、結核などの病気は、日常生活に溶け込むように存在していた。

  森鴎外もまた、結核を患い、1922年…7月に亡くなっている。

  結核と人類の歴史は長く、エジプトのミイラからも発見されている。

  そう言えば、ツタンカーメンのミイラが発見される1年前の1921年、パスツール研究所でBBG株が発見されたのだ。

  1920年代は、古代の歴史の発見と共に、細菌学が飛躍的に進歩を始めるじだいとも言える。

  偶然の必然…

  ふと、その言葉が頭をかすめていった。
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