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パラサイト

プログラム

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  細胞内共生説…学生時代、北城と議論した事を思い出していた。

  科学の進歩と共に、遺伝子の秘密が明かされて行くと、人の…生物の遺伝情報が、種族を越えてウイルスによるインストールが可能な事がわかってきたのだ。
  遺伝子組み換え技術により、同じ種の瞳の色や体つきを変えられるだけではなく、トマトと茄子など、種の違う遺伝情報を切り張りしても、動作可能な事が証明される。

  元は違う種だと思われるミトコンドリアが、他の生物の細胞内で共生していることなどから、生物の進化には、真核生物が大きく関わっているのではないか?  と、議論されたのだ。

  この考えは、20世紀初頭からあったようだが、我々世代では、リン・マーギュリス教授を中心に語られた。
  それで私と北城は、彼女の否定していたネオダーウィズム論と共生説を議論した。

  マーギュリス教授は、ネオダーウィズムを批判していた。それは、

  生物は、共生して進化するのか、
  生物は、淘汰されて進化するのか、の戦いでもあった。

  そして、私は、今、その二つの理論の混在する世界にたたずんでいた。

  長い…共生の時代と、
  環境の変化による淘汰の中を生き残る為の競争の時代。

  生物は増殖し、自らが不利になるものを増産する。
  シアノバクテリアが酸素を
  我々、人類は二酸化炭素で大気を満たす。

  地球と言う名の金魚鉢で、不足した酸素の中で生き延びるサバイバルが始まるのだ。

  かつて、地球の肺と呼ばれたアマゾンが燃えている…

  この新たな大気に順応する遺伝情報(プログラム)をインストールし、正常動作に持ち込めた種が、繁栄する…共生と淘汰の混在した世界。

  それは、刹那的で、深く長い、懐古的な気持ちにさせた。
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