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パラサイト

聖杯伝説

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  「ラングドックを調べると良い。」
北城に言われて検索すると、そこは、フランス南部の地域だった。

  それは、ノストラダムスの生まれ育った土地であり、モルゲロンと言う謎の風土病の伝説がある。

  2010年長山は雅苗とプロバンスで再会したと言った。
  長山は、オカルト番組の製作でビュガラッシュの町に取材をしにいき、2012年と言う特殊な年を前に、彼は雅苗にノストラダムスの話をしたのだった。

  それによって、雅苗は疫学者のノストラダムスに興味をもった…なんて、言われても何の事だか分からなかったが、まさかの、モルゲロン病が南仏の風土病からのネーミングと言う事で、突然、ノストラダムスの怪しい話がまともに見えてくる。

  ノストラダムスも入学したモンペリエ大学は、昔から医学部が充実しており、この地は、医療(ほすぴたる)騎士団とも呼ばれたヨハネ騎士団とも縁がある。  
  「やはり、ノストラダムスだったのか…。『ダ・ヴィンチコード』ではなく。」
と、北城の推理に感心しながらも、からかいたい気持ちが沸き上がった。
  そう、たまには北城も自分の間違いに照れてみたら良いと思う。いつも、冷静で何かをジッと考える、すかした奴なのだ。
  が、北城にそんな可愛いげは無かった。
  北城は、私を見て少しだけ眉間にシワを寄せた。
  「何を言ってる?これで益々、『ダ・ヴィンチコード』に近づいたではないか。」
「はあ?今、雅苗さんはモルゲロン病からノストラダムスに興味を持ったといったじゃないか?」
私の問いに北城は、綺麗な口元を一文字に結んで一度、責めるように私を見る。
  「ああ、そうだ。長山くんとの話の内容はね。
  が、あのシケイダの謎は、他者に向けられている。
  多分、彼女の心にある秘密組織に向けて。」
北城は、そう、寂しそうに言った。
「雅苗さんの心の秘密結社?」
私は、不気味な気持ちになりながら北城を見る。
「ああ。かなちゃんは、精神的に追い詰められていたのかもしれない。
  彼女の研究と献身とは裏腹に、モルゲロンズ病は、2012年1月に寄生虫妄想等の精神疾患と類似しているとCDCの研究者が結論付けたのだ。
  これによって、この研究をする者は窮地に陥っただろう。かなちゃんも、精神的に参っていたに違いない。時を同じくして、あのシケイダ3301の謎がネットに投稿される。
  雅苗は、あの蝉の画像に、いもしない秘密組織を作り出した可能性がある。」
淡々とした北城の話し方が、胸にささる。
  小さな従妹(いとこ)を精神疾患と言うのは、北城だって辛いに違いない。

  「いもしない謎の組織……。では、この謎を解いても意味がないんじゃないか?」
私は、少しだけガッカリした。そして、ダ・ヴィンチコードも必要ない事に気がついた。
「いや、雅苗は、その組織に向けて、自分の研究成果を残している可能性がある。
  溶生くんの病気についてのカルテや、モルゲロンズ病についての研究について。それを入手しなければいけない。」
北城は真顔になる。
「手がかりはあるというのか?」
私の問いに、北城は挑戦的な視線をかえす。
「ダ・ヴィンチコード。テンプル騎士団と聖杯伝説だよ。」
北城の説明に、なんと言い換えそうか、私は混乱した。
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