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パラサイト

復活

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  下に行って二人に問いただしたかった。
  が、一生懸命、MCをしている秋吉の画像を見ていると気持ちがゆらいだ。
  
  何をしたいのか、わけが分からないが、法を犯したわけでもないし、撮影にかかった費用を考えれば、迂闊に邪魔をしに行くのも怖くなる。

  一呼吸した。

  何にしても、雅苗の謎を解くのが先だと考え直した。

  赤いカバーの『砂金』を手にした。

  考えてみれば、絶妙なタイミングで倉庫に誘(いざな)ったのは北城だ。

  北城が、企てた何かであれば、この本には私が解かなければならない謎が含まれているはずだ。

  多分、ヒントは、素数ゼミ。都市伝説と共に蘇り、故意に挿し絵を張り付けられていた『トミノの地獄』がキーワードになるのだろう。

  『トミノの地獄』
  この詩は、西条八十と言う詩人が、1919年に自費出版した本に収録された詩である。
  彼の作品には、『かなりあ』など、子供に内在する無邪気な残酷さを謡うような作品もあるが、
  『東京音頭』
  『蘇州(そしゅう)夜話』
  『青い山脈』
など、幅広いカテゴリーで人気を博した作詞家である。
  不気味な詩に傾倒していた訳ではない。
  
  そして、彼は、詩人であり、仏文学者である。
  生物学者の類いではないし、その方面で何かをしていたような話は、無さそうだった。

  これは、作者ではなく、『トミノの地獄』を目にした雅苗が作り上げた謎を解け…と言うことなのだろう。

  ふと、朝方の長山の話がよみがえってきた。

  イシスの神殿のスカラベのミイラ……

  私にアレを探せと言った、あの言葉は、本当だったのだろうか?

  「虫探偵 シンゲン…懐かしいですよね。」

  長山の台詞が胸に刺さる。
  あの時見せたあの顔に、嘘があるとは思えない。
 
  イシスのスカラベのミイラ…
  本当にそれはあるのだろうか?
  そして、あったとしたら、どんな虫で作られたのだろう?
  やはり、ここはインドから献上されたオオクワガタのメスかもしれない。

  そう考えると、胸がワクワクしてきた。
  あまり、期待してはいけないが、古代に絶滅した新種…なんて事もありえる。
  古代、現代では砂漠と化した北アフリカは、鬱蒼とした森が広がり、ピラミッドの辺りにも緑が溢れていた…なんて聞いた事がある。
  インドまで行かなくとも、聖書に書かれた天にも届くレバノン杉…そんな巨大な杉の林が中東で広がっていたのなら、巨大トンボやカミキリムシ、巨大蛾…そんなものが、巨木の下で蠢(うごめ)いていたかもしれない。

  なんだか、ワクワクしてくる気持ちを、北城の台詞が消沈させる。

  研究所に保管された…

  北城はそう言った。

  当たり前だろ?貴重な資料なんだから。

  と、クールにドヤりながら。
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