上 下
85 / 208
パラサイト

もしもし

しおりを挟む
  秋吉のすすめで、私は、今日の番組収録会場へと足を踏み入れた。
  とはいえ、屋敷の応接間を少し飾った程度の違いでしかない。

  長山は居なかった。

  秋吉は、そこで安心したように少し大胆にソファーに座る人形の元へと早足で進む。

  「こんにちわ、草柳さん。ああ、この人はお世話になってる池上さんです。」
と、秋吉は人形に芝居がかった挨拶をするが、勿論、人形は動かない。

  私は、背筋を伸ばし、座る人形に近づいた。

  ウエストが細い。

  確かに、昼間見たレイと同じ雰囲気ではあるが、やはり人形、生気はない。

  服装は、思ったより地味で露出は少なかった。

  顔は、シリコン…なのか、柔らかい肌の質感があり、美しくもあるが、不気味な感じもした。
  
  近寄ってみる。
  秋吉がリラックスした笑いを浮かべて、動かない人形の耳元に話しかける。

  「もしもし、レイさん、こんにちは。」
「ごきげんよう。」

  Σ( ̄□ ̄)!し、しゃべった!

  とっさに、少年時代、買ってもらったロボットの腕が飛んだときの衝撃を思い出した。

  「ああ、夕方ですね。」
秋吉は慣れた手つきでレイの細い左手を取り、腕時計…のような、何かをみた。
「さわらないでください。」
  ぷっ…(^・^)

  レイに怒られた秋吉を見て笑いが込み上げる。

  秋吉は、不満そうに私を見た。
  「もう、笑わないでくださいよ。そうだ、池上さんも話してくださいよ。」
「いや、私は、いいよ。」
1歩下がって遠慮した。

  興味はあるが、この歳で人形遊びをする趣味はなかった。

  「いいじゃないですか、レイさんと話せる機会は、なかなか来ませんよ。」
秋吉はからかうように目を細める。
「簡単ですよ?『もしもしレイさん』と、言えばいいんです。」
「なんでしょう?」
レイが『もしもし』に反応した。
「ほらっ、」
と、秋吉が立ち上がり、私の肩に手をのせる。
「は、はじめまして(///∇///)」
顔が赤くなるのが分かる。何をしてるんだろう?私はっ。
  が、レイは、私の動揺などガン無視して、私の方向を向くと、美しい黒い瞳をこちらに向けて、エアー好意を顔に浮かべながら
「お久しぶりです。池上センセイ。」
と、微笑んだ。
しおりを挟む

処理中です...