上 下
150 / 154
1922

23

しおりを挟む

 面倒くさい展開になってきたわ。
 私は頭を抱える。

 不安定に完結した話の多岐に渡る謎の解説。
 今回は『トミノの地獄編』で、『切り裂きジャック編』ではない。

 これに手をつけると…もう、終われない気がする。
 「どうしたんです?押し黙っちゃって…」
本の妖精が話しかけてくる。
「いま、運命の分かれ道に立ってるのよ。」
私はウンザリしながら言った。

 ああ、これは3万字程度の短編で、今ごろ続編を書いている予定だったのに…「運命の分岐点ですか、ロマンチックですね。」
妖精の笑い顔を見て、渋い顔になる。
「ロマンチックじゃないわよ…」
そう、ロマンなんて無い。長いみかんの沼なんて。

「まあまあ、ワインでもいかがですか?」
本の妖精は笑う。
「いらないわ。それより、何とかしないと。」
私はため息をつく。停滞は悪手だ。何にしても更新しなければ…みかんはエターナルになってしまう。
「そうですね。で、運命の分岐をどちらに進むんでしょう?」
本の妖精は笑う。
「進むなら、八十ミステリーの最短コース。でも、ここに来て、他の問題が絡んできたから、難しくなってきたわ。」
そう、『パラサイト』には沢山の未回収の謎をおいている。
 Y氏の本の精霊は、書き直す前の聖徳太子のミステリーに関わるし、
 切り裂きジャックを掘り返せば、止めている『魔法の呪文』の謎に…マイヤーリンク事件を引き込んでしまう。

 気を付けないと、別ダンジョンに飛ばされちゃうのだ。

「まあ、仕方ありませんよ。何しろ、一人の頭で考えた事。どこかで繋がるのは必然ですぜ。」
妖精は気楽でいい。
ため息が出てくる。
「だとしても…完結をしたいのよ。一つづつ。
 ここで、ルドルフ ヘスを…ヒトラーを引っ張り出したら、長くなりそうな気がするの。」

 私はぼやいた。
 本来なら、『魔法の呪文』は鉄板のラブコメだった。
 結末は知れている。
 幼馴染みの2人が結ばれるハッピーエンド。

 なのに…オーストリアがぁ…大変な事になってるんだから(T-T)

 ここで、ヒトラーの出生がオーストリアだと言う事実、1889年に誕生している事がチラチラと引っ掛かるのだ。
 1888年から、1889年にかけて、オーストリアの王家では不幸が続く。
 しかも、小説張りの不可解な不幸が。

 確かに、小説家には盛り放題な時代ではある。
 オカルトあり、陰謀ありの時代なんだから。

 そして、それは、その100年年後にもかかってくるのだ。

 1889年…ヒトラーがこの世に生まれる少し前、映画にもなった事件がおこる。
 ルドルフ皇太子が年の離れた男爵令嬢と亡くなっているのが発見されたのだ。  いわゆる『マイヤーリンク事件』である。

 この話は、90年以上過ぎたある日、再び脚光を浴びるのだ。

 1983年亡命中のオーストリア皇妃ツィタがルドルフ皇太子の暗殺の可能性について証言したからだ。

 その4年後の1987年、ルドルフ ヘスが自殺をする。
 ヒトラーの生誕100年を3年後に控えた8月の事だった。

 それは、他の人には全く、関係の無い事件だ。
 が、怪しげな話を増産する私には、この二つの事件は大いに物語の行く末に引っ掛かってくるのだ。

 しかも、2つのみかんに(T-T)

 「面倒くさいんだよ~未完は金にならないから嫌なんだよ~
 金どころか、書籍化の空想すら許されないんだもん。さわりたくないのよ。
 ついでに、八十のミステリーに関係しないし。」
私は叫んだ。

 本当に…なんか、いい感じで終わりたい。

と、悶絶する私の横で、妖精は何やら資料を調べ、楽しそうに私に渡した。

 「いやいや、姐さん、関係あるじゃないですか。」
と、渡されたのは、私の古い記事だった。
 それは、ヒトラーとヘスの話で…
 平成の終わりを記念して書かれたものだった。

「これが…どうしたのよ。」
私の問いに、妖精は楽しそうに日付を指差した。
「この辺りから、始めたらどうですかね?」

 妖精の指の先には
 2019年4月の文字があった。

 『トミノの地獄』の、西条八十100年周年の年で、ネットでも細々と取り上げられていた。

 あの年…

 私はただ、小説で小銭を稼ぐことだけ考えていた。
 名古屋のワンコインでお得なモーニングを一食分。
 500円。ただ、それだけのために小説を考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわくて、怖くて、ごめんなさい話

くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。 本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、 幾つかご紹介していきたいと思います。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver

Tempp
ホラー
大学1年の春休み、公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLIMEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避ける妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の悪い俺の運の尽き。 案の定俺は家に呪われ、家にかけられた呪いを解かなければならなくなる。 ●概要● これは呪いの家から脱出するために、都合4つの事件の過去を渡るホラーミステリーです。認識差異をベースにした構成なので多分に概念的なものを含みます。 文意不明のところがあれば修正しますので、ぜひ教えてください。 ●改稿中 見出しにサブ見出しがついたものは公開後に改稿をしたものです。 2日で1〜3話程度更新。 もともと32万字完結を22万字くらいに減らしたい予定。 R15はGの方です。人が死ぬので。エロ要素は基本的にありません。 定期的にホラーカテゴリとミステリカテゴリを行ったり来たりしてみようかと思ったけど、エントリの時点で固定されたみたい。

メゾンドストレンジはこちらです

中靍 水雲
ホラー
この町では今、近日オープン予定のとあるお化け屋敷が話題になっていた。 その名は『メゾン・ド・ストレンジ』。 それは、あたかも自分がVR空間の主人公になったかのように体験できるお化け屋敷だ。 森の匂い、風のそよぎ、ものをさわる感触などが完璧に体験できる。 どうやら、ただのヴァーチャルリアリティではないらしい。 そんな時、ホラー好きの大早子規は学校帰りに、史上最高の幽霊・サイコと出会う。 サイコは子規の名前を「オバケ・ヤシキ」と勘違いし、メゾン・ド・ストレンジのお化け屋敷コーディネーターに勧誘しに来たのだ。 そう、メゾン・ド・ストレンジとは幽霊と妖怪たちが運営するお化け屋敷だったのだ。 誤解はとけたものの、どうしてもサイコの話が気になった子規。 勧誘を受け入れ、ウワサのお化け屋敷のコーディネーターとなった。 店長であるキュウビと打ち合わせを重ねながら、次々とお化け屋敷のストーリーを書いていく子規。 そして『よくない人形』というストーリーで、これまでで一番の絶叫を引き出すことに成功する。 初めは一台だったVRゴーグルも、追加で四つに増やし、順番待ちを減らした。 幽霊・妖怪たちはお客さまの絶叫に毎回大喜び。 人間たちの恐怖の表情にお腹を抱えてヒイヒイ笑う。 それに子規は嬉しくなると同時に、もっとがんばって怖いストーリーを書こうと思った。 しかし怖すぎて、泣かれてしまうんじゃないかと心配になったこともあった。 その時には、キュウビが「むしろ、喜ぶべきだ。怖いものを書いたのだから。 そんなことは〝怖くなかった〟といわれたときに、悩むべき」と励ましてくれたのだった。 ある日、友人の一颯が遊びにやって来た。 ホラー好きの一颯はただのお化け屋敷では驚かない。 つまり、『本物が目の前に現れる』。 キュウビとサイコの正体をバラす……それが、一颯にとっての恐怖だった。 子規はホッと胸をなで下ろす。 「よかった。一颯に最高の恐怖体験を味あわせてあげられた」 表紙:ノーコピーライトガールさま

#彼女を探して・・・

杉 孝子
ホラー
 佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。

巡回

ねこ皇子
ホラー
自宅待機、自宅学習を命じられているにも関わらず 外をほっつき歩いている子供を、巡回に出た先生が見つけ次第、指導していくお話。

短い話たち

weo
ホラー
折に触れて書いて行く短い話たち

処理中です...