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  窓辺が赤く染まり始め、夕方がやって来る。
  ベルフェゴールは、窓から差し込む夕日を見つめて、急に笑いだした。

  「どうしたの?」
私が聞くと、ベルフェゴールは、興味深げに私を見つめた。
「なんか…凄いわね…」
ベルフェゴールは、染々と私を見ながら、なんか、感動を噛み締める。
「な、何が?」
不気味な雰囲気に、なんだか、嫌な予感が込み上げる。
「作家として、素晴らしい表現力だと思ってさ。」
「は?な、何がっ?」
シドロモドロと考える。ベルフェゴールは、何を言いたいのか?
「ほら、ピオ11世を熱血教師に例えたじゃん?」
「じゃん?」
「うん。あれ、ソ連邦の話じゃなくて、イタリアン・マフィアの事ね。」
ベルフェゴールは、嬉しそうに笑った。
「い、イタリアンって…」
私はたじろぐ、何なんだ、イタリアン…イタリアンって言ったら、ピザとかスパゲッティは好きだけど…
  マフィアって!

「イタリアン・マフィアよ。シチリアから生まれた組織…ああっ、彼らを…ツッパリに例えるなんて、斬新だわ。
  そして、ローマ法王が熱血教師役とか、カトリックの信者と話しても、出てこない発想よ。」
ベルフェゴールは、なんか、誉めちぎってくるけれど、私はなんか、身の危険を感じる。

  ローマ法王に、ま、マフィアとか、そんな話をして大丈夫何だろうか。

「マフィア…って、ローマ法王様とあわせて話して大丈夫なの?」
挙動不審な私にベルフェゴールは、説明してくれた。
  何でも、マフィアの始まりは、18世紀に荒れてきたシチリアの警護をローマ法王が地元の兵士などに依頼した。
  この頃の法王はピウス7世。敵はナポレオンである。法王領はフランス革命から後、その所有者が様々に入れ替わっている。
  マフィアと言っても、複数の組織があり、犯罪組織と言う性質上、本当の事など、私には調べようがないのだけれど。
  これについては、諸説がある。が、まあ、シチリアは、ローマ法王とゆかりのある土地で、その信仰も強いものらしい。
  で、マフィアの人達も、ローマ法王を一目置いていたのは、確かなようだ。

  世界で有数の犯罪組織の彼らではあるが、法王に危害を加える人物は、例え、仲間であっても、かばったりはしないんだそうだ。

  なぜなら…お母さんに嫌われるから。

  ちょっと、微笑ましく感じてしまう。
  
  「教会と信仰の心を、マンマが持ち続ける限り、マフィアは法王を襲ったりはしないそうだから。」
ベルフェゴールは、何故か嬉しそうな顔をする。
「なんで?」
反射的に聞いた私に、ベルフェゴールは、とても優しげな笑顔でこう言った。
「だって、法王に何かがあったら、マンマが悲しむでしょ?
  昭和の不良も、イタリアのマフィアも…
  必死で育ててくれた母親の愛情には弱いのよ。」


  マフィアに知り合いは居ないので、本当かどうかは知らない。
  でも、何となく、真実だと思ってしまうのは、テレビで昔見た、イタリアの母親の優しい笑顔と、自分の母親を重ねてみるからなのかもしれない。

  とは、いえ、犯罪組織なので、政権を担うムッソリーニは、彼らを排除しようと努力はしていたようだ。
  と、同時に、力をつける彼らと共存しようともしたらしい。

  ナポレオンは、法王領を奪おうとしたけれど、
  ムッソリーニは、バチカン市国をゆるした。
  それは、政権や、自身のはく付けの為なのか…
  お母さんに嫌われたくなかったからなのか…

  それは、私にもわからない。

  「そうね…強面(こわもて)の屈強な男たちを黙らせる母の力…
  確かに、マリア様がローマを守って下さったのかもしれないわね。」
私は、ぼんやりとくれる空を見つめた。
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