上 下
42 / 154
悪霊

3

しおりを挟む
  乱歩の『悪霊』の謎…と言っても、本編の答えを私が書いて見せたところで、泣かず飛ばす…どころか、色々、文句が出るに違いない。

  こういった、他人が作り出した世界を引き継いでオリジナルの物語を書くことを二次小説とか呼ばれるが、二次小説で嫌われる部類の話が、この、オリジナルの作者の代わりに解決編を作る行為だと思う。

  大体、乱歩を愛し、全集を買いそろえ、キャラの隅から隅まで…それこそ、明智小五郎もビックリの情熱で物語を追ってこられた読者からしてみたら、どこの誰かも…しかも、乱歩愛がそれほど無さそうな人間の描く解決なんて、それこそ、ゴミ…見たくは無いのだと思う。

  例え、生前、乱歩と懇意にし、仲の良かった横溝先生が話を継いだとしても…それは、ただの二次小説でしかないのだ。

  ついでに、『悪霊』の謎についてなら、多分、世代を越え、プロ、アマ問わず、物凄い人数が、この謎に挑戦したに違いない。
  発表されたもの、発表はされても、限定された場所(文化祭の文集)等を含めたら、現代のRPGのシナリオを遥かに越える奇想天外な結末が考え出されたに違いない。

  こっちは、それを知らなくても、パクリ疑惑をかけられるかもしれない。

  だから、本編の解決はリスキーだからやめようと初めから考えてはいた。

  春の推理で、私は、未完の物語を読者に依頼されてオーダーメイドする…そんな話を作っていたので、『悪霊』もそんな雰囲気から考えていた。

  解決編を、理論ではなく、依頼をする読者の胸にある結末を当てることでスカッとした話にしようと考えた。

  が、時は過ぎ、今は、ホラーとして考え直さなきゃいけない。

  そして、使える時間は短いのだ。
  ホラーの部分は、なんか占いでごまかすにして、
  謎の部分は、なんか、いい感じの話を考える必要があった。

  今では、文豪とか、偉い作家のように持ち上げられる乱歩。

  でも、生前は、エログロと言う言葉と共に、大衆小説の代表のように思われていた。

  まあ、平たく言えば、我々、web作家のような身分だと思う。

  ドフトエスキーとか、芥川龍之介の様な、表紙から重苦しくて、なんだかありがたい雰囲気のする部類の作品とは違う。

  昭和の始め、文学青年が、ドキドキしながら隠れて読む…そんな部類の話だったに違いない。

  ファンの人は否定するだろう…
  が、100年前の乱歩先生は、家族を引き連れ、実家でニート生活3ヶ月で作家デビューを果たした、そんな先生は、口々に美辞麗句を投げ掛けるファンより、我々、web作家の嘆きに共感してくれるに違いないのだ。

  江戸川乱歩…本名、平井太郎からの破格のキラキラネーム…で暗号推理もの『二銭銅貨』デビューした彼は、家族に言えない悩みを抱え、頭を悩ませていたからだ。
  
  そう、小説を書く人間は、とにかく、大賞をとるために全てをかける。
  が、艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて、晴れて作家デビューを果たした先で待つのは、プロとして、毎回、結果をだし続けなければいけないと言う現実なのだ。

  これについて、私は、経験がないし、経験できる未来も無さそうなんだが、
  晴れて書籍化したweb小説家の経験談を拝見すると…悲しいほどの地獄絵図を垣間見た気持ちになる。

  そう、受賞は…素人からの卒業ではあるが、
  プロ生活のプロローグでしかないのだ。

  受賞を果たし、作品が世にでて、そこから見える景色が、美しい山々の光景とは限らない。
  断崖絶壁の深い谷底かもしれないのだ。

  少なくとも…乱歩は悩んでいたらしい。
  
  まてよ、気のきいたトリックが浮かばねぇ…(○_○)!!

  と、言ったかどうかは知らないが、乱歩は随分とはじめの方で、既に、ミステリーの要と言えるトリック等が浮かばなくなっていたようだ。

  まあ、この辺りで、大概の作家は脱落する。
  が、腐っても江戸川乱歩…エドガー・ポーをもじった名前は伊達ではない。

  乱歩先生は、進路を変えた。
  本格ミステリーとか、トリックが思い浮かばないなら、心理サスペンスを書けばいいじゃない。

  マリーアントワネットを思わせる、コミカルな表現をしてみたけれど、
  こんな事を実行できるのは、才能があるからだ。

  マリーの言葉に、民衆は暴れたけれど、
  本格推理も心理サスペンスもかけない私も、そんなん言われたら暴れるに違いない。

  まあ、それはともかく、乱歩先生は、このピンチを乗り切り、後に明智小五郎と言う、日本の推理小説を代表する名探偵を産み出した。
  1925年『D坂の殺人事件』である。

  そんな、乱歩先生にこの、世紀を越え、ネット小説の最前線で蒸し返される惜点(おてん)として残されたのが、『悪霊』と言う物語だ。
  それは1933年、デビュー10周年の終わり近くに舞い込んだ話だった。
  自分の才能を発掘、デビューさせてくれた雑誌社からの執筆依頼…

  これが後に未完となり、物議を醸すのだから、乱歩先生からしたら、この依頼こそ、悪霊付きの物語なのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver

Tempp
ホラー
大学1年の春休み、公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLIMEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避ける妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の悪い俺の運の尽き。 案の定俺は家に呪われ、家にかけられた呪いを解かなければならなくなる。 ●概要● これは呪いの家から脱出するために、都合4つの事件の過去を渡るホラーミステリーです。認識差異をベースにした構成なので多分に概念的なものを含みます。 文意不明のところがあれば修正しますので、ぜひ教えてください。 ●改稿中 見出しにサブ見出しがついたものは公開後に改稿をしたものです。 2日で1〜3話程度更新。 もともと32万字完結を22万字くらいに減らしたい予定。 R15はGの方です。人が死ぬので。エロ要素は基本的にありません。 定期的にホラーカテゴリとミステリカテゴリを行ったり来たりしてみようかと思ったけど、エントリの時点で固定されたみたい。

地獄と悪夢

不思議の国のアリス代表悪夢様
ホラー
私は地獄へと悪夢にさらわれていく⋅⋅⋅⋅⋅全9話

桜と肉

泥人形
ホラー
中庭にある桜の木には、近づいてはいけない。 表紙イラスト:馬瀬 曽波子様

種が実る時……

三毛猫乃観魂
ホラー
 盛綱市に住む高校2年生の藤崎秀介(ふじさき しゅうすけ)はか弱く、幼馴染で親友の竹野功一郎(たけの こういちろう)は空手部のエース。  秀介をいじめた不良グループを弘一郎は容赦しない、殴り込み、全員を叩きのめす。  後日、報復に現れた不良グループに拉致された秀介、たまり場のゲームセンターに連れていかれてしまう。  この日、盛綱市中で連続爆弾テロが起き、巻き込まれた秀介は重度の火傷を負い、意識不明の重体に。  事件を知った弘一郎が病院に駆けつけた時、意識不明の重体だったずの秀介の酷い火傷は完治し、何事もなかったように意識を取り戻していた……。  爆弾テロはこれから起こる惨劇と恐怖の序章に過ぎない、テロに巻き込まれた死傷者は悍ましいアンデッド・モンスターに変貌、生者を襲い始める。

トロマの禍

駄犬
ホラー
冒頭より——  引っ掻き傷のような飛行機雲が、雲一つない晴れ間の空を横切る。太陽はそれを横目に、酷暑の源となる陽光を分け隔てなく人間の脳天に降り注ぐ。そんな救い難い天気模様を享受する緑の群生は、歩道に乗り出し生き生きと歩行者の進路を妨害する。郊外らしい歩道の狭さからくる支配の光景は、身体を捩らせて通行することを強いて、大人は揃いも揃って渋い顔をした。その後ろを歩いていた二人の子どもは、滑稽に身体を操る大人の姿に釘付けとなり、不必要に身体の動きを真似て嘲笑う。

紫色のラナンキュラスの花束を私にシオンを貴方へ

秋 夕未
ホラー
【もう出会う事はできなくても俺達はいるから】 高校生活最初の夏休み、祖父母の家にやってきた瑠璃。 小さい頃にこの村で迷子になったけれどその記憶は全くない。 小さな村に存在する神社にお参りした時の不思議で不気味な体験。 知っている村なのに不気味な空気が広がる異様な世界。 一人きりだった筈なのにいつの間にか隣にいた謎の男子【蒼生】と不気味な村を歩いて探す3つの石 その石を集めたら瑠璃は元の世界に帰る事ができるのか。それは全くわからない。

ハイ拝廃墟

eden
ホラー
主人公の久礼開扉(くれいあくと)は、自殺志願者を募るサイトの管理人をしている。 「もう死にたい」 「楽になりたい」 そんな思いを抱いてやってくる者たちに、久礼は実験に協力するよう呼びかける。 実験に協力することを承諾した自殺志願者は、久礼によって廃墟に案内される。 そこで行われる実験とはいったい――――。 https//www.zisatsusigannsyahaihaihaikyoXXXXXXXXXXXX 『ハイ!今日逝こう』 死にたい人募集。 楽にしてあげます。 管理人~クレイ~

何故に彼等はこうなったか

駄犬
ホラー
――それは双方向に絡み合う三者三様の万華鏡。それぞれの選択に正解も不正解もない。そこにはただ、結果だけが横たわるーー

処理中です...